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設定とこだわりの絶妙なさじ加減。「戦車に夢中です!」を編集して思う、ガルパンとWoTのすごさ

去年の年末から取りかかっていた企画が、7月の中旬、形になりました。

戦車に夢中です!ガールズ&パンツァーとWorld of Tanksで学ぶ戦車読本(小学館)。1時間目から6時間目まで、授業形式で戦車を学ぶ、オールカラー128ページの戦車本です。

戦車に夢中です!ガールズ&パンツァーとWorld of Tanksで学ぶ戦車読本(小学館)。1時間目から6時間目まで、授業形式で戦車を学ぶ、オールカラー128ページの戦車本です。

 

年の頭からTwitterやFacebookに「小林、ついに愛国に行っちゃったか!?」といわれそうな写真を投稿していたのは、そういうわけです。

 

photo

陸上自衛隊の土浦武器学校に現存する八九式中戦車乙型(乙型は空冷ディーゼルエンジン)

 

今回の本は、アニメ「ガールズ&パンツァー」と、オンラインゲーム「World of Tanks」のコラボレーション。

両者をつなぐものは「戦車」です。

 

「ガールズ&パンツァー」(以下ガルパン)は、女子高校生たちが“戦車道”という戦車を使った武道を通して成長していくストーリーのアニメ。

一方の、「World of Tanks(ワールド・オブ・タンクス)」(以下WoT)は、オンライン上で戦車戦を行う、ベラルーシ発のゲームです。

美少女アニメのガルパンと、オンラインゲームのWoTとでは、互いに硬軟相いれなそうですが、両者の核となる「戦車」へのこだわりは、どちらも強烈です。知れば知るほど、調べれば調べるほど、両者がそれぞれのメインテーマである「戦車」に対し、いかに強い情熱を傾けて作品に昇華させているのかがわかってきました。

それこそ、リベット1本の場所1つ、砲撃後の煙1つとっても、史実やデータにのっとって描き込み、忠実に再現することを使命としている人たちです。

“たかがアニメ”、“たかがゲーム”と思っている人、制作者たちの常軌を逸…(失礼)、高い見識と深い戦車愛に敬意を表しましょう。

 

さて、この企画を通じてアニメもゲームも適度にはまった自分が思うのは、
『どんなに設定に「?」なところがあっても、作り手が「これがいいの!」と押し切って出したものは最終的に勝つ』ということ。

もっといえば、作り手が、自分が見たい!とか、自分が欲しい!と思って高い熱量で作ってるものは、つっこみどころがあってもはねのけ、ブレイクしていくということです。

ガルパンは、“ミニスカートの制服を着た女子高生が戦車に乗る”という大前提が、そもそも「おかしい」のだけれど、それを「“戦車道”は茶道や華道などと同じく、女子のたしなみの一つである」とか、「“安全には十分配慮されている”ため(戦車戦では当然あるはずの)砲弾の貫通や、車輛の爆破はない」といった設定で交わし、肝心の「戦車」については、リアリティー1000%で描き切って、ミリタリファンの厳しいチェックとがっぷり四つに組んでいます。

パンツァーとは、ドイツ語で「戦車」のこと。

パンツァーとは、ドイツ語で「戦車」のこと。パンツではありません……。

 

砲撃前の戦車の停止動作や、陣形、戦略、相手の装甲厚を考えた戦い方など、戦車を知っている人から見ても違和感のない描写があるがゆえに、アニメファンだけでなく、ミリタリ寄りの人たちに人気が出たのもうなずけます。

また、WoTには(ガルパンも)、戦車が実際に運用される上で、必ず戦場にいるはずの“歩兵”が登場しません。戦車は歩兵の支援兵器という側面があるのですが、それらは一切描かれず、WoTに至っては、戦場に1人の人間も出てきません(笑)(ただし、ガレージで自車輌の搭乗員のアイコンなどは表示されます)。

人っ子1人いない戦場で、戦車だけが互いに戦いを繰り広げる。対戦車用の歩兵部隊も、対戦車砲も、タンクデサントも、対戦車用地雷もなく、ひたすら砲戦で雌雄を決するというのは、戦車を使った戦いの、一部のみを切り取った状態といえます。一方で、ガルパンと同様、戦闘時の戦車の性能や挙動、威力などは、あくまで本物のデータを忠実にトレースしたものです。

聞けば、ベラルーシの開発スタッフは、WoT内に出てくる戦車(主に第二次世界大戦前後の車輌)のデータを様々なところから集め、検証し、ゲーム内の車輌スペックに反映させていったとのこと。WoTでは、2013年末から旧日本軍の車輌を使えるようになりましたが、日本軍の戦車に関するデータは敗戦により廃棄、散逸したものが多く、それこそ日本各地に残る断片的な資料をしらみつぶしに集めていったそうです。

戦車を使った戦いを忠実に再現しようとすればするほど、いろいろな情報を盛り込む必要が出てきます。しかし、それをせず「あくまで戦車戦に特化」することに専念し、それ以外の情報や設定はバサッと切り捨ててしまう。

その代わり、核となる部分は徹底的にこだわり抜いて、世界中のミリタリファンの厳しい視点をも凌駕する。

 

World of Tanks内のゲーム画像。旧日本軍の主力戦車だった九七式中戦車チハの勇姿がCGで蘇る。

World of Tanks内のゲーム画像。旧日本軍の主力戦車だった九七式中戦車チハの勇姿がCGで蘇る。

 

この「潔さ」と「こだわり」の両立は、いろいろなプロジェクトにも応用できるような気がします。

例えば、「おいしいビールを心ゆくまで飲みたい!」そんなことを考えた人が、自分のために店を出すとしましょう。
世の中にどれくらい潜在顧客がいるのか、採算はどうかということは、ひとまずおいておき、「おいしいビール」「心ゆくまで(大量にw)飲める」というテーマにこだわり抜ければ理想的です。

しかし、大抵は「サワーやワインなど他のアルコールはないの?」とか「料理のバリエーションが欲しい」とか、さまざまな要望やアドバイスという名の、横やりが入って、気がつくと、普通の居酒屋になってしまう・・・ということは少なくありません。
「潔く」切り捨てられずに、あれもこれもと盛り込んでしまい、それによって強みが生かせず、本来、武器となるはずの「こだわり」の価値が半減してしまうのです。

「言うは易く行うは難し」ではありますが、成功の裏には、そんな部分もあるのではないでしょうか。

と、そんなことを思いました。

もちろん、ガルパンは舞台となっている大洗町との協力があったり、WoTは世界規模での広報活動など、様々なバックアップがあった上でのそれぞれの成功であることは、いうまでもありません。

 

なお、初版と2刷分には、特典として描き下ろしのクリアフィルと、World of Tanksのスペシャルコードがついているので、まだWoTをやったことのない人、すでにWoTのアカウントを持っている人にもおすすめです。

 

初版と2刷分に袋とじで入っている特典。ガールズ&パンツァーの特別描き下ろしクリアファイル(A5)と、World of Tanksの招待コード+ボーナスコード。

初版と2刷分に袋とじで入っている特典。ガールズ&パンツァーの特別描き下ろしクリアファイル(A5)と、World of Tanksの招待コード+ボーナスコード。

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