*

今日から「預言」はやめる

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

 高島俊男先生の『お言葉ですが… 第11巻』を読んでいて、驚いた。
 「預言が『神の言葉を預かる』という意味で、『予言』とはちがう」と信じている人が大勢いるが、間違いもいいところだ」と書いているからだ。
 先生曰く、「予」も「預」も同じ。本来は「豫」。
「預」はその異体字、「予」は日本流の簡体字である。
 つまり、「予言」と「預言」は全く同じ意味だ。
 中国語の「預」には”あずかる”という意味はない。
 英語のprophetもpro-(前に)phet(話す)で、「前もって話す」という意味でしかない。
 ところが、なぜか、広辞苑が「預言者=神の言葉を預かる者云々」と誤って記し、
高尾利数・法政大教授の『キリスト教を知る辞典』(東京堂)も、遠藤周作も、山本七平もみんな間違っている、と指摘。
 え、そうなんですか? いやあ、知らなかった。
 先生呆れたように言う。
「つらつらおもんみるに、現今の日本のキリスト教周辺には、どうも一流の人物が見あたらぬようですな」
 これを知ってしまった以上、私もこれから「預言者ムハンマド」じゃなくて、「予言者ムハンマド」というように書くことにする。
 だって、「預言者」と書いたら、「神の言葉を預かった者」と信じ込んでいると思われるからだ。  
 でも、きっと編集者や校正者(校閲者)から「?」が出されて、その都度説明しなければならなくなり、
 読者からも「タカノはものを知らない」などと思われたりするんだろうな…。

関連記事

no image

深谷陽というアジア風天才漫画家

日本にいる時間が残り少なくなってきたので、 駆け足で紹介。 先日行われたmixiのイベントに、純粋

記事を読む

no image

セルビアの宍戸錠

セルビア共和国の首都ベオグラードに こんな人がいた。 動物の皮で作った不思議な楽器を演奏していた。

記事を読む

no image

今度はUFO…

「未確認思考物隊」は毎週放映である。 しかも私はレギュラーで、毎回現場レポートに行かねばならない。

記事を読む

no image

ノビシロマン

水泳に行くと、仲間というか先輩の方々から「高野さんはいいね、ノビシロがいっぱいあるね」と言われる。

記事を読む

no image

この夏は「人間仮免中」

忙しい。仕事と雑務から逃げるように奄美に行き、まる五日、さんざん楽しんで帰ってきたら、しつこく彼らは

記事を読む

no image

ムベンベ写真本

お盆休みが終わってしまい、プールも混みはじめてきた。 残念である。 ところで、『幻獣ムベンベを追え』

記事を読む

no image

頼るのは自治体でなく郵便と宅配便

今さっき、カメラマンの鈴木邦弘さんと久しぶりに電話で話した。 鈴木さんとはかつて一緒にコンゴに行き(

記事を読む

no image

エル・ニーニョ

レイモンド・チャンドラー『リトル・シスター』は、訳はいいんだけどいかんせん原作がぐちゃぐちゃの失敗作

記事を読む

no image

こんな名著が!

たまたまネットで見つけた小島剛一『トルコのもう一つの顔』(中公新書)を読んだら、 あまりの面白さ、

記事を読む

no image

シャンの新年って何だ?

以前、ミャンマーのシャン人(自称「タイ」)の独立運動を手伝っていた関係で、 今でもシャン・コミュニ

記事を読む

Comment

  1. FT より:

    AGENT: DoCoMo/2.0 D903i(c100;TB;W23H16)
    私も高島俊男氏の「お言葉ですが…」は大好きで、連載も毎号読み単行本も第1弾から持っているんです。
    毎日使っている自国語について我々はまだこんなにも学ぶことがある! と戦慄いてしまうような名著ですね!

  2. 二村 より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; .NET CLR 1.1.4322)
    >読者からも「タカノはものを知らない」などと思われたりするんだろうな…。
    でも人の知らないことをいっぱい知っているから、いいじゃん!
    なんて思います。
    ところで『アヘン王国潜入記』文庫版を再読して、また感動しました。
    これいい本ですよねー。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年4月
    « 3月    
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    2930  
PAGE TOP ↑