*

とても美味しく、驚きもある

公開日: : 高野秀行の【非】日常模様

 先週の土曜日、グレッグとミワさんという日仏カップルの友人と神楽坂のクレープ専門レストランで食事をした。

 二人とはちょっと面白い縁である。
 グレッグと会ったのはもう6,7年前、バンコクでのことだった。
私の知人(慶応大学探検部OB)でバンコクで「ニューズクリップ」という経済邦字紙を主催している天野さんという人がグレッグに『アヘン王国潜入記』の英語版を紹介してくれ、
グレッグもたいへん興味をもって読んでくれたのがきっかけだ。
 彼はもともとジャーナリストだが、当時はフランスの国立の文化出版の組織に勤めており、
私の本もフランス語に翻訳しないかと本国に打診してくれた。だが、返事は来ず、結局彼とは一度フランス料理店で食事をしただけだった。

 もっとも、そのときのことは鮮明に覚えている。というのは、私は本格的なフレンチ・レストランで食事をしたのは初めてだった。
さらに印象的だったのは、その店の料理についてグレッグが「とてもおいしい。でも驚きがない」と言ったことだった。
 おお、さすが料理を芸術と考えるフランス人! 食い物が美味いだけじゃダメなのか。驚きがないといけないのか!と感銘を受けたのだった。

 それから時がたち、つい先月、天野さんがご夫妻で一時帰国した際(ついでに言えば奥さんも慶大探検部OB)、天野さんの関係者で飲み会をやった。
そこに集まったのは、アジアを中心にわけのわからないことをやっているいかがわしい人たちばかりだったのだが(もちろん私含む)、その中にグレッグもいた。
グレッグはミワさんという日本人女性と結婚していた。

 奇遇なことにミワさんは高野本の愛読者だった。私の『極楽タイ暮らし』を読んだことも一つのきっかけでバンコクに渡り、日本人向けの雑誌などでライター仕事をしていた。そのとき、グレッグと知り合ったのだという。奇遇である。

 グレッグはミワさんと結婚した後、やはり政府系の仕事で東チモールに渡り、3年間、フランス大使のような立場ですごした。
 大統領や国連の要人と頻繁に会ういっぽう、スタッフが一人しかいないので車の運転から電話の応対から全部一人でやって、ときには水牛の水飲み場で牛をかき分けながら水浴びをしていたらしい。
 …なんて話はそのクレープ・レストラン「ル・ブルターニュ」で、ガレットを食べながら聞いたのだった。
 グレッグによれば、そこのガレットは「ここ数年感じたことのない美味しさ」だという。グレッグが言うのだから、本当にうまいのだろう。私は当然、ガレットなんて初めて食べた。

 そば粉を焼いたというから、てっきりチャパティみたいな円盤状の堅いものだと思っていた。ワ州の村にいたとき、何度か食べたことがある。
でも、ル・ブルターニュのガレットは色もクレープのようなクリーム色で、柔らかく、野菜や肉を中に包み込んだピザっぽい食べ物でとても美味かった。でもワ州のものとは似ても似つかず、
驚いた。驚きのある美味さ…なのだろうか?

 ちなみに「焼いたそば粉を食べたのはワ州以来」とグレッグに言ってしまったが、あとで考えれば、ブータンでも食べた。ワ州と同様、いかにも山奥で作ったという食べ物だった。
お詫びして訂正するとともに、グレッグ&ミワさん夫妻はカンボジアやラオスなどでもいろいろ面白い経験をしているようで、また一杯やりながらお話を聞きたい。

 

関連記事

no image

なぜかマレーシア

明日からマレーシアへ一週間ばかり行くことになった。 今、なぜマレーシアなのか?と思われるかもしれない

記事を読む

マスクマンになりたい

旧ユーゴ(主にコソボ)の取材が終わってだいぶ経つ。 ブログで写真をお見せしようと思っていたのだ

記事を読む

no image

言い忘れた!

いい忘れていたのだが、昨日の晩、NHKクローズアップ現代で 生物多様性に関する番組があり、 私の上司

記事を読む

no image

自意識が森に溶けていく

以前、本の雑誌の杉江さんが「すごいドキュメンタリーですよ!」と NHKハイビジョンでブラジルの先住

記事を読む

no image

ミャンマーとタイ

私の昔なじみの国が二つ緊迫している。 一つはミャンマー。 総選挙でアウン・サン・スー・チーが立候補で

記事を読む

帰国しました

昨日(3日)の午後、無事に帰国した。 二ヶ月ぶりの日本の印象は、「こぢんまりしている」。 成

記事を読む

仕事を減らして納豆探究?

慢性的な多忙状態が続いていて、すっかりごぶさたしてしまった。 なにしろ2年ぶりに出た自分の新刊

記事を読む

no image

早大探検部バカ50周年記念

早稲田大学探検部が今年で創立50周年を迎える。 本当ならば、ライバル視していた(向こうは屁とも思って

記事を読む

no image

最近読んだ面白い本

ブログを書く時間がなかなかとれないので、お勧め本がたまってきた。 ここにまとめて公開しましょう。

記事を読む

no image

ソマリランドで発見した素敵なドリンク

人と喋っているときはいいのだが、一人になると、波のように佐藤先輩のことが押し寄せてきて、 いろんな

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年4月
    « 3月    
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    2930  
PAGE TOP ↑