以前にもちょっとふれたことがあるが、ボクは首都クアラルンプール(KL)郊外の街、プチョン(韓国の地名にもこんな名前があったような)という場所に住んでいる。
別段日本人とかかわる必要もなく、隠棲しているようなボクには都合のよい街で地元の人には日本人など端から住んでいるとも思わないところがいい。どこに行っても「ジプンとかヤップン(日本人のこと)」と指差されないので暮らせる。
そんなボクの静かな生活を破るような事件が近所で起こっていた。
この『ボレ寿司』なる場所である。
実は『ボレ寿司』は、地元映画の撮影現場である。それも日本人窪田道博氏がかかわっている『SUMO Lah』という話題作なのだ。窪田は現地発行の邦字新聞のコラムに映画制作の過程をリアルタイムで書いており、現地在住の日本人にはお馴染みの話。ボクも興味深く読んでいたが、まさか自分の近所で撮影が新興しているとは思わなかった。
『SUMO Lah』は、アフディリン・ショーキ(Afdilin Shauki)監督・主演の“スポ根コメディ”。窪田氏は脚本の原作「Nokotta」と第二監督としてかかわっている。地元映画作品にこういうかたちで日本人が参加していることは例がない。
出演者には、シンガポール人コメディアン、グルミット・シン(代表テレビ・コメディー番組の役名ポア・チュウカンという方が通りがよいか)やタイ人女優のインティラ・チャロンプラなど名を連ねており、地元映画としては野心的で東南アジア公開を目指した作品だという。
それで制作費は300万リンギット(約9千万円)と聞いて驚いた。一般的な地元映画(マレー語)では興行成績で150万リンギットが成否ラインなのであるから。(もちろん公開後のビデオ化などの収入もあるが)堂々たる大作の映画といえる。
アフディリンはもともとシンガーとして芸能キャリアを歩んできた人。92年、シーラ・マジッド(Sheila Majid)やザイナル・アビディン(Zainal Abdin)らが参加していた超党派音楽集団IKLASにも参加していた。90年代後半ぐらいからコミカルな俳優として映画に出演し始めている。当地で撮影が行われたハリウッド大作『アンナと王様』(ジョディー・フォスターとチョウ・ユンファ主演)にも出演している。
04年には自身初の監督・主演作『Buli』を発表し、才能が開花した。同作はマレー映画コメディーに新風を吹き込んだ作品。その後も『Baik Punya Cilok』、『Buli Balik』を発表。今年は『SUMO Lah』の前にも『Las Dan Faun』の撮影が完了したばかりで売れっ子の仲間入りを果たしている。
中華系制作の『Possessed』も韓国・香港を巻き込んだ話題作。こちらも日本人とのコラボで東南アジア市場を目指した作品。
マレーシア映画ウォッチャーのボクとしては未曾有の話題作ラッシュである。
『SUMO Lah』は今月末にはクライマックスとなる相撲シーンの撮影を福岡で行う。
公開は来年とのことだ。