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ヤスミン監督の『Muallaf』は、こんな作品 – アサ・ネギシのページ/Music Raja
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マレーシア・ライターの見聞録

ヤスミン監督の『Muallaf』は、こんな作品

 あぁ、世は独立50周年で盛り上がっているというのに、まだ昔のネタを清算していません。ちと日が経ってしまったが、書かなければ前へ進めないネタを。(大仰な!)  
 8月22日、日本人映画人窪田道博氏の好意で、今一番マレーシアで注目されている映画監督ヤスミン・アーマッド(Yasmin Ahmad)監督に最新作『Muallaf』の試写をみせていただくという機会を得た。試写後は、かなりの時間、監督の言葉を聞く事ができた。
 同作はヤスミン監督の第5作目。『Sepet』から『Mukhsin』で終わった主人公オーキットの物語から、監督がどんな物語をつむぎだすのか、否が応でも期待が高まるというものだ。


 さて、前回も書いたが、あらすじはこんな感じだ。
 父親の暴力から家を抜け出したロハニ(シャリファ・アマニ、Sharifah Amani)とロハナ(シャリファ・アリシャ、Sharifah Aleysha)は、悲しみを背負いながらも、互いに支えあい、宗教(イスラム教)からオーラのようなポジティブに生きる力を得ている。
 一方、カソリックの家庭に育った青年教師ブライアン・ゴー(ブライアン・ヤップ、Braian Yap)は、子供の頃の不幸な出来事がトラウマとなり、家族と宗教(カソリック)を疎ましく思うように育つ。しかし、ロハニとロハナ姉妹がお互いを愛し合い、逆境にも立ち向かっている姿を目にし、ブライアンは次第に自分を苛んできている惨めな過去と決別する決意をする。

 前評判は、窪田道博氏がブログ「まず日本に住んでいる映画批評家では、この映画を完璧に評論をするのは難しいでしょうね」と記しているように難解なイメージが先行している観がある。
 まだ公開前でもあり、また編集前なので詳細をここで語るべきでもなく、説明が不明瞭になるのをお許しいただきたい。
 さて簡単にこの作品を紹介するとすれば、「許し」をメッセージとした人間関係、特に親子の関係を描いた作品だ。ひとつ断っておかなければいけないことは、ブライアンが改宗することを描いている物語ではない。
 
 『Gubra』のようにどんな宗教を信じていても人は祈りで心の平安を求めることで通じているというテーマとそう遠くない。
 ちょっとだけ物語の結末を披露すると母親を疎ましく思っていたブライアンも、父親に無理やりロハナを連れ去られたロハナもそれぞれの親を許すことでひとつになる。
 ヤスミン監督がオーキットから離れて描きたかったのは、宗教だという。映画を撮るのは「まず神と自分を少し理解できること、そして観客を少しでも楽しませること」と語るヤスミン監督にとって、宗教は欠かせない要素なのであろう。
 やはりこの作品の一つひとつの描写の意味を探るためには、窪田氏の言うようにイスラムやカソリックの知識がなければいけないのは確かだ。
 しかし、ボクのような三文ライターの役目は、とっつきにくい作品であるという先入観を取り払うことぐらいしか見当たらないので、あえて「こんな見方でもいいではないか」、という部分を語ろうと思う。ヤスミン作品は、本人が口にしているように、また『Gubra』で明らかなように“感じさせること”が本質なので、一般の人にはロハニとロハナ姉妹の語る宗教観を逐一追わなくても物語が語りたいことは十分にわかると思う。
 さて、あらすじからも察することができるようにブライアンとロハニの恋が描かれている。思いっきって二人の恋に特化して、二人の結びつきから何を感じるか視点でも本質は見誤ることはないとも思う。
 ただ、宗教の知識を多用するロハニとロハナの姉妹は、宗教の日常への影響が薄い日本人にとっては、かなりとっつきにくいキャラクターだ。特に小学生であるロハニがコーランの引用をするところなんかは、かなり感情移入しにくい。しかし、押えておけばいいのは、横暴な父親から逃避している姉妹の結びつきの強さと心のよりどころは宗教であることだ。
 ロハニはかなりのところオーキットを映している芯の強い闊達な人物であるので、この作品は過去の桎梏とトラウマから抜け出したブライアンの物語である印象が強い。
 試写後も監督自ら「この話は、ロハニとブライアンのどっちの物語だと思う」と居合わせた人たちに尋ねていたが、「ブライアン」という声の方が強かった。ブライアンにとって宗教は、自身を苛んできたものであったが、ロハニを通じて宗教の力を信じるようになるのである、と書くとまたとっつきにくいが、容易に人を寄せ付けない青年がロハニと心を通わせることで人間性を取り戻すことに観る人は安堵する。
 ただ、中華系のブライアンがイスラムに惹かれていくという設定は、かなり現実的でないという意見も多く出るだろうと思う。中華系とイスラム教という組み合わせは、ことのほか隔絶が深いのも事実だ。
 しかし、戒律に関してはプロテスタントよりも厳しいカソリック信者は、イスラムへの親近感は不自然ではないかもしれない。ちなみにヤスミン監督は、インド系のカソリックを予定していたそうだ。インド系とイスラム教の相性の方が、マレーシアでは現実的な設定であることを蛇足ながら付記しておこう。
 当然、ヤスミン監督も中華系がイスラム教に改宗することの難しさは十分に知っている。現に監督の夫は中華系の方である。それでもこの物語を描くことを選んだのは、マレーシア社会における隔絶を若い世代が打ち破ってくれるという監督の楽観主義にあると感じた。
 思い返せば、『Sepet』は中華系とマレー系の恋愛を描いただけで、年配の世代からの批判を受けた。監督は、そんな頑迷な世代に決しておもねることは決してしない人である。表立ってそういった不平を語ることはないが、彼女が表現を通して何と戦っているかとあえて言葉にするならば、人種と宗教、もしくは国籍に対する偏狭で、旧弊な人々の態度なのであろう。
 やはり、堅くなるなぁ…。
 この作品では、「人間に対する限りない愛と人生に対する楽観」というヤスミン監督の本質がさらに明らかになるものと思う。前作『Mukhsin』が、ベルリンで「これで世界は大丈夫」と思わせた世界がこの作品にも溌剌として生きている。
 監督はどの作品にも必ず1シーン、撮影中に涙をこぼしてしまうことがあるという。本作において監督本人が泣きながら撮影したというシーンは、ラストシーンであるという。
 ボクも安らぎを与えてくれる本作のラストシーンは、ヤスミン作品の中でも最高に後味のよいシーンだと思う。『Sepet』と『Gubra』でのオーキットの恋にの結末に関する観客の食い足りなさを満たすような描写はボクはあまり好きではないので…。
 公開は、まず日本では10月(東京国際映画祭かな?)とのこと、マレーシアでは11月に公開予定とのこと。
 ぜひファンには楽しみにしていてもらいたい。
(追伸:窪田さん、やっと書きました。)

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10 Comments

  1. shion shion
    2007年9月1日    

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    おおっ、力作レビューですっ!難解もなにも、残念ながら日本にはまだ、ほとんど前評判が伝わってきていないのですが…押さえておくべき所はよく分かりました。ありがとうございます。
    ヤスミン作品については、この7月末〜8月に過去4作をスクリーンで「おさらい」したばかりですので、いやが上にも期待は高まっております!今から10月が楽しみです!

  2. kubota kubota
    2007年9月1日    

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    待ってました。有難うございます。世間はムルデカ!ですね。
    やはり背景の説明が多くなってしまいますよね。表面を話すとすぐネタバレになってしまいそうで難しいですし。
    もしかしたら、宗教に詳しい人、まったく詳しくない人の両極端の人ほど楽しめるのかなあ・・・と、ネギシさんのレビューを読みながら思いました。
    どうなんでしょうね。
    この映画ほど、観終わった後の観客のリアクションを知りたくなるものは無い気がします。
    池に石を投げて波紋を眺めるような感じ。

  3. あっすぅ あっすぅ
    2007年9月1日    

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    こんにちは。
    すごいですね・・・。
    なんのマレーシア的下地もない私が実際見た時にどういった部分で「???」に陥るかという心構えができたように思います。
    ありがとうございます。観られる日が来るのが楽しみです。
    shionさんを追いかけて10月東京に行こうかなぁ。(地方在住なものでちょっと覚悟が必要で。)

  4. kubota kubota
    2007年9月2日    

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    そういえば、ヤスミン監督、大阪に行くって言ってましたね。
    あれは、国際交流基金の映画上映のためでしょうかね?

  5. May May
    2007年9月3日    

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    はじめまして。いつも拝見させていただいてます。
    『Muallaf』については監督のブログでチェックしていましたが、
    どんな映画かイマイチつかめなくて(当たり前ですよね 監督自らネタバレするなんてあり得ません)、少々困惑していました。
    こちらの記事を拝見し、見るときにおけるポイントの置き所がわかりました。
    ありがとうございました!10月が今から楽しみです。

  6. アサ・ネギシ アサ・ネギシ
    2007年9月5日    

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 1.1.4322)
     シティ・ヌルハリザの話題以外で、こんなにレスがつくとは思いもしていませんでした。
     ヤスミン監督がいかに注目されているか驚きですね。
     それにしても言い足りないばかりか、構成もヒドイ文章で申し訳ないです。
     また、新しい情報にからめて、なにか書こうとも思います。

  7. わにた・じゅぷん わにた・じゅぷん
    2008年9月11日    

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1)
    この「Muallaf」は、すでに日本で上映されたんでしょうか?ネットで検索する限りでは、07年に日本で公開されたという形跡がありませんが・・・・もしかして今年の東京国際映画祭で上映かしら?
    Wanita.netの通販ショップで「Muallaf」で検索してもヒットしないし。
    アサさん、この映画公開情報について何か最新情報をご存知でしたら教えてください。この作品、見たくてたまらないっす。

  8. アサ・ネギシ アサ・ネギシ
    2008年9月11日    

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 7.0; Windows NT 5.1; .NET CLR 1.1.4322)
     わにたさん、「Muallaf」は、まだ日本では上映されていません。ボクが試写会で観たときは制作にNHKのクレジットがありましたが、その後何かの事情があって外れたようで、昨年中の日本上映は実現しなかった模様。
     今年8月になって、同作はイタリアのLocarno映画祭に出展されました。
     たぶんこれが同作のプレミアだったと思います。
     本国上映も今年中ということは発表されておりますが、今の時点で日程が決まっていないということは、来年という可能性も強まっている気がします。
     要するにまだこれからということで、もう少し待っていてください。

  9. わにた・じゅぷん わにた・じゅぷん
    2008年9月18日    

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1)
    アサさん、丁寧なコメントを誠にありがとうございます。
    NHKのクレジットがあったとは、こりゃ日本公開に期待してしまったのは無理もありませんが、どうして実現しなかったのでしょうか・・・?
    まさか日本の映画人たちは、もうヤスミン監督やマレーシア映画に興味を失ってしまったのかしら?もったいない。
    とにかくアサさんの仰るとおり、気長に日本公開&DVD化を待ってみようと思います。それまではYouTubeで見られるオープニングクレジットだけで我慢しようっと。

  10. わにた・じゅぷん わにた・じゅぷん
    2009年10月30日    

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 5.1; ja; rv:1.9.1.4) Gecko/20091016 Firefox/3.5.4 (.NET CLR 3.5.30729)
    先日の東京国際映画祭2009で、ヤスミン監督の実妹オーキッドさんにお会いしました。
    淡いラベンダー色のトュドュンをかぶり、落ち着いたシックな色のバジュ・クロンをまとった、学校の先生を彷彿とさせる出で立ちの方でした。
    彼女の捉え方では、Muallafとは単にイスラムへの改宗者だけを指すのではなく、ずっと仲違いしていた人との和解、今まで無理解だった人や事象への理解の始まり、まるで蛹が蝶に孵化するような、精神的に生まれ変わる瞬間を体験した人全て・・・・仏教的に言えば「解脱」「魂・精神の解放」とでも言いましょうか。そんな普遍的なテーマとメッセージを持つ映画だと認識しておられました。
    私も同感です。だから決して一般大多数の日本人にとって理解できない映画だとは思いません。
    どうかこの映画だけでも、日本で一般公開してもらえへんかなぁ・・・。
    いや、宗教色が濃いってんで無理か。
    でもせめてSEPETだけでも・・・・御茶ノ水のアテネフランセでは見られたけど。
    どうして日本ではハリウッド、国産、アジア一部の映画しか見られへんねん!?

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