サッカーと芸能と政治

　あまり脈略がない話だとお断りしておきます。
　今では忘れかけていることだが、マレーシアのサッカー・リーグはシンガポール、ブルネイが参加する地域対抗戦だったという古きよき伝統がある。その伝統の名残というべきイベントが、6日に行われた「セランゴール・スルタン杯」というセランゴール対シンガポールの親善試合。
　94年の八百長事件でシンガポールがマレーシア・リーグから離脱するという事態になったが、シンガポール対セランゴールは両国を熱くする黄金のカードであった。その事件以降は、国内サッカーの人気凋落は目を覆いたくなるもの。ちなみにセランゴール、シンガポールにあるチームから選手を選抜する方式で、今年はシンガポールからオオヤマ・タツヤという日本人選手も出場していたようだ。（所属は調べがつきませんでした…）
　それで本題は、このイベントの余興として行われたコンサートの一幕。（写真はスター紙から）

　往年のポップ・グループAllycat、エラ（Ella、写真左）、マス・イダユ（Mas Idayu、写真右）が出演したことを有力英字スター紙が大きめに報じている。（記事はこちら）
　結構扱いが大きいのは、セランゴール州政を握った連立政権ペカタン・ラキャット（人民同盟）のマレーシア全イスラム党（PAS）青年部が、エラとマス・イダユの出演に関して、イスラム教的に不健全のクレームをつけていたことに関係する。都市の教育レベルが高い層の読者とするスター紙としては、PASの非リベラルなクレームが支持を得ていないことを示しておきたかったに違いない。
　イスラム原理主義的なPASは、原則としてコンサートはご法度。コンサート開催は、男女が同じ舞台に立たないことが条件となる。PASといえば、国外の大物女性歌手が来るたびに「不健全」と叫んでいるので、目新しさはない。しかし、中央政権政権を目標に掲げているペカタン・ラキャットという枠組みでも、同じことを主張している政治的センスが解せない。
　マレー系多数の地方の州ならばまだしも首都圏に隣接する近代的発展を遂げるセランゴールで、である。ただでさえペカタン・ラキャットのDAPが、非マレー系の支持を失わないために躍起になってPASのイスラム国家樹立のテーゼを引っ込めさせているのに…。
　このマス・イダユの方は、無難に黒い衣装で出演したが、エラはご覧の通りいつものまんま。だてに20年もロッカーやってきていない彼女に拍手なのだ。
　蛇足ついでに同日MPPJスタジアムで行なわれたペカタン・ラキャットによるガソリン高騰に対する抗議集会でも余興でコンサートが行なわれた。PAS青年部は、ここでも出演したCarburettor Dungというロック・バンドのボーカリストが、ズボンのずり下げでパンツが見えていたことにも抗議している。こちらは、PASも主催者なのだから何とかすべきだった話。
　抗議集会ではアンワール氏も登場し、政府に対してガソリン価格値上げに論戦を挑むとぶち上げ、着実に支持を伸ばしているペカタン・ラキャットだが、やはりPASが重荷になる事態も遠くないのではないか。結局、アンワール氏対ナジブ副首相の醜聞合戦で、PASの急進派がペカタン・ラキャットから離れ、第3の政治勢力になるのかなぁ、という気もする。（当たらないと思うけど…）
　ただ、PASはマレー系の民族政党なので、右傾化するというシナリオも怖い。

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