ヤスミン・アーマッド(Yasmin Ahmad)監督を語るときに必ず使われる言葉が、“マレーシアン・ニューウェーブ”である。
皮肉な表現だが、これから述べていくようにマレーシアン・ニューウェーブは、東南アジアでも最も厳しいといわれる検閲の落とし子であるのだ。
ヤスミン監督のキャリアにも、厳しい検閲と保守的な人々からの誹謗や的外れな批判との闘いがあった。
マレーシア人表現者は、いつも重苦しい“不自由感”を持っている。
この不自由感とは、政府による多民族社会の安定と調和を乱す恐れのある宗教、民族、政治について表現の自由に対する制限である。映画という具現性の強い表現は、検閲当局による横やりを受けやすい。なかでもマレーシアは、先発アセアン6カ国のなかでも、映像の検閲が最も厳しい国である。
こういった表現が不自由な環境がゆえに、マレーシア人映画監督は、国内で作品を上映することとマレーシア人観客を念頭においていないことも多い。マレーシアン・ニューウェーブとは、04年ごろからヤスミン監督をはじめとするインディーズ系監督の良作ラッシュを形容するのに便利な言葉で使われるようになったが、主だった作品は国内上映はされておらず、国内では馴染みの薄い言葉なのである。
ヤスミン監督は、マレーシアン・ニューウェーブに括られても、作品を外国人映画ファンに見せるものだけとは思っていなかった点で違っていた。(無論、ほかの中華系監督は、中国語で作品を制作しており、マレーシアでは外国映画扱いになるという事情があったが…)
彼女の最初の劇場用長編作品『Sept』は、国内上映を目指すものの、04年12月の当初、検閲当局から公開禁止の通達を受ける。
ヤスミン監督のブログ「ストーリーテラー(http://yasminthestoryteller.blogspot.com)」では、“国民の代表”を認ずる当局の審査官を招いた試写会の出来事を伝えている。
まず。最初に近づいてきた2人は、ヤスミン監督に作品の好印象を語り、同伴したプロデューサーのロスマ女史と安堵したのもつかの間だった。
他の審査官からは、こんな言葉が続いた。
「なぜ、宗教に関する説明を持ち込まなかったのか?」
「なぜ、彼女(オーキッド)は、彼(ジェイソン)に改宗を求めなかったの。マレー人はその方を好むのに」
「どうして、彼女をノン・ハラル(イスラムの禁忌に触れる)のレストランに入らせたのか?」(注:ジェイソンが友人たちにオーキッドを紹介するために待ち合わせたレストランのシーン。チャーシューがおいてあり、オーキッドが顔をしかめる)
「彼女はリベラルのはずなのに、なぜ彼女にいつもバジュクロン(マレーの民族服)を着せたのか?」
「昔、マレー人は2つの悪い習慣があった。男はサロン(腰布)姿でおなかを出して寝転び、女はお互いに髪の毛のしらみを取り合って、時間を浪費した。そういった悪習を復活したいのか?」
性や暴力の過激な描写があるわけでもない『Sepet』に対して、上映会で検閲官が表した不満は、批判にもならないレベルだったことがわかる。マレー人の保守性から出てくる意見なのだろうか。
結局、ヤスミン監督は8箇所のカットを受け入れるか、公開しないかの選択を迫られることになる。
当局に指示されたシーン・カットのひとつは、オーキッドの両親が中むつまじく踊りを踊るカットで、父親役のハリス・イスカンダールのサロンが落ちて、ブリーフ姿になるシーン。監督自身は、このシーンは当局がダメだというのは理解できるが、他のカットが些細なことと思った。
実際、シーン・カットされたのは、ボクが確認できたのはオーキッド、ジェイソンと親友キョンの3人が一緒のシーンで、オーキッドが「すべてのマレー人は怠け者だ」というセリフなど。まぁ、日常的な会話で人種に関するちょっとした本音は、この映画でリアリティを醸し出す重要な役割があるが、ヤスミン監督が同作を「たかがラブストーリー」と語っているところをみると、カットされたシーンは「なければ作品が成り立たないという」ところではなさそうだが、やはり表現者としては忸怩たる思いがあったのではないか。
ヤスミン監督は、作品が公開されなければ、資金を回収できないこと、続編『Gubra』の制作もできなくなこと、そしてなによりも作品に込めた両親への愛を示すことができない理由で、当局の指示を受け入れた。
こうしてヤスミン監督は、同作でスクリーン・デビューを飾ったが、今度は地元映画界から「イスラム教徒としてマレー系と中華系の恋愛なんか描くべきではない」という批判にもならない難癖が起こる。05年5月のマレーシア映画祭では6賞を獲得するものの、9月28日から10月1日に地元マレーシアが開催地で第50回の節目を迎えたアジア太平洋映画祭に同作を出展しないことを決める。
「マレー文化の汚染者」というヤスミン監督への中傷は、06年4月にオーキッド三部作の2作目『Gubra』の地元公開後もくすぶり続け、4月22日、国営テレビ局で「『Sepet』と『Gubra』は、文化の汚染者か?」と題された公開討論が放送された。
ヤスミン監督は、ブログで公開討論での以下の2つの発言に怒りの声をあげた。
映画プロデューサー:「マレーシアはマレーのものだ」
ジャーナリスト:「なぜ、祈りをささげ、コーランを詠むよきイスラム教徒のマレー系少女が、不信心な中華系と恋に落ちるのか?」
ヤスミン監督は、2つの発言を「露骨に好戦的で、扇情的な割には、どちらのコメントも一般の反応でも、有識者の意見でもない」とし、「公共の討論会で人種の誹謗をしていいのか?」、「ほかの人種を不信心と決め付けるのか?」と反論している。
そして名指しは避けたものの、この発言をしたジャーナリストが、アミール・ムハマッド監督の「Lelaki Komunis Terakhir(最後の共産主義者)」の上映禁止を支持する記事を書いた人物だったという。
また、ホー・ユーハンやジェームス・リー監督らの作品がマレーシアで上映されない事態を危惧し、マレーシア映画を取り巻く状況を米国の共産主義者狩りで有名な“マッカーシー的非娯楽映画狩り”と表現し、アミール監督の『最後の共産主義者』が“最後のマレーシア映画”になると、ウイットに富んだ文章で皮肉った。
話は前後するが、『Gubra』は、検閲当局のシーン・カットなしに地元上映に漕ぎ着けた。
冒頭の病院でシーンで、オーキッドの背景に歩いていた患者(後で知ったが『ポケットの花(邦題)』を撮ったLiew Seng Tat監督が演じていた)が、背中で閉じる病人用のパジャマからお尻を露出したシーンも検閲を通過していた。ヤスミン監督らが評価を上げるにつれ、マレーシアの検閲も和らいできた。
しかし、ヤスミン監督と関係者へのなかなか誹謗は下火になることはなく、06年8月の第19回マレーシア映画祭で、『Gubra』で最優秀女優賞を獲得したオーキッド役のシャリファ・アマニ(Syarifah Amani)が、受賞スピーチで「私がマレー語をしゃべると馬鹿に聞こえる」と英語に切り替えたことが非難の的になった。アマニは、ヤスミン監督が「文化の汚染者」と誹謗されていることを受けて、「映画が文化を汚染するならば、もっと頻繁にやるべき」とも発言し、新しい時代の表現者たる姿勢を見せた。
ただ、当時20歳のアマニは、式での非難の大きさにショックを受け、「(監督にとって)すばらしい夜になるはずだったのに台無しにした」後泣きながらヤスミン監督に謝ったという。
また、翌年の5月に『Muallaf』の撮影に入った主演のシャリファ・アマニが坊主頭になったこともイスラム発展局(Jakim)から「イスラムは女性が剃髪することを禁止している」とクレームがついた。
しかし、ヤスミン監督もアマニも良質の仕事をすることで、批判を跳ね返していった。
二人とも表現者たる資格がある芯の強い女性であった。
今年3月、彼女の最後の作品となった『Talentime』は、国内公開に先立ち、企業スポンサーが劇場公開に先立ち映画のシーンを使用したCMを流すなど、かつての“者騒がせな監督”というイメージは完全に過去のものになった観があった。
アマニもオーキッド役として『Sepet』と『Gubra』、ロハニ役として『Muallaf』でヤスミン作品卒業後も出演作が途切れることなく、ひとり立ちしていった。
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Muallaf!届きましたよDVD。
もちろんwanita.netで注文・・・・・・しかし!字幕がマレー語しかないでやんの。あれ・・・・・?注文したときに英語字幕があるかどうか確認したはず・・・・・たぶん・・・・・・なのに?
本日午後、wanita.netで確認してみたら、字幕はマレー語しかありませんでした。ああ・・・・。英語字幕付き無いかしら。
数年前KLのレコード店で買った同作のVCDは英語字幕があって、しかも今回購入したDVDと違ってチャプターがもっと細かく分かれていて、好きなシーンを選んで再生できたのに。退化してどうする!
アサ様、wanitaにクレームつける方法、商品の返品方法をごぞんじありませんか?
ま、これはともかく、ここにも検閲が入ってましたね。この作品はもう既にマレーシア本国でも上映されたんでしたっけ?マレーシアに先駆けてシンガポール公開でしたっけ?
まだ全て見終えていませんが、私の好きなシーン・・・・・ロハニ(シャリファ・アマニ)とロハナ(シャリファ・アリーシャ)とブライアン先生がロティ・チャナイとテー・タリッの朝飯を食らいつつ、姉妹がコーランを引用しつつ語る部分。
(引用)
Rohani: "And they need not fear nor need the grieve.(そして彼らには何も怖ろしいことは起こらない。決して悲嘆に暮れることもない。)"
I still think we should learn Arabic and consult someone who knows.
Rohana: Why?
Rohani: What if the translator gets it wrong? We don’t even understand the tauhid uluhiah and tawhid rububiah.
Rohana: Sheee! (姉さんのこと)イスラム原理主義者だと思われるかも(←東京国際映画祭で上映時の日本語字幕)。
(引用おわり)
tauhid (tawhid) = タウヒード、神(アッラー)の唯一性
uluhiah = ?
rububiah = ?
(英語・マレー語でGoogle検索したら、tauhid uluhiah dan rububiahという言葉がセットになっていましたが意味は不明)
検閲によりカットされていたのは、上記の私が和訳をつけたの妹ロハナの台詞でした。
彼女は英語で、私が昨年の東京国際映画祭で見た記憶が正しければ、確かPeople might think you are a wahabi. とか何とか言っていました。
wahabi(ワッハービー)とはサウジアラビアの国教であるイスラム教ワッハーブ派教徒のことですね。イスラムの数あるセクトの中で最も厳格で、コーランとシャリーアを徹底的に重んじ、復古的、原理主義的なもの。18世紀のサウジアラビアでイスラム改革運動を行った、ムハンマド・ブン・アブド・アルワッハーブ(1703-91)が唱道した復古主義的教派だそうで。
(wikipedia日本版より)
マレーシア宗教関連当局はなぜこの台詞をカットしたんでしょうね?連中にとって理想とする「毎日礼拝を欠かさず、コーランや聖書をそらんじることまでできる敬虔なムスリマ」が、ワッハーブ派信徒をキ○ガイ呼ばわりした態度がケシカランと??
PAS党の息がかかってるのかな?
そういえばかの名作SEPETにも検閲が入り、ヒロイン・オーキッドの「違うわ、やっぱりマレー人はみんな怠け者よ」という台詞が消されてましたね・・・・・。
おおマレーシアよ・・・・・・・・。
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わにたさん、ブランク明けには、ちとヘビーな話題です…。
『Muallaf』のDVDですが、当地売られている製品パッケージには、「マレー・英・中国語字幕つき」との表示がありましたが。なにぶん、購入していないので、確認情報ではありませんが…。
カットされた部分は、ワッハ−ブ派の正否という深い部分ではなくて、「特定の人たちが気分を害する」ということだけでしょうね。
まぁ、筒井康隆絶筆のときの「てんかん」のときのようなレベルの話です。
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> わにたさん、ブランク明けには、ちとヘビーな話題です…。
おお、失礼いたしました。
> 『Muallaf』のDVDですが、当地売られている製品パッケージには、「マレー・英・中国語字幕つき」との表示がありましたが。なにぶん、購入していないので、確認情報ではありませんが…。
失礼しました、英語字幕がないのはMuallafではなくてGubraのDVDでした。数年前KLの屋台で買った、たぶん海賊版コピーのvcdには英語字幕があったのに。しかしそいつはディスクに傷がついてうまく再生できないのでした。
> カットされた部分は、ワッハ−ブ派の正否という深い部分ではなくて、「特定の人たちが気分を害する」ということだけでしょうね。
うむ、うむ、なるほど。
> 筒井康隆絶筆のときの「てんかん」のときのようなレベルの話です。
未来の日本では警察官がロボットで、癲癇(てんかん)みたいだとか何とかっていう小説でしたっけ?
てんかんの症状がある人は、万が一発作が起こったら命取りになりかねない自動車の運転は避けたほうがいいのは確かなのでは?
現在はほとんどの症状を薬で予防できるようになり、一生に症状が2〜3回あるかないかぐらいになり、もちろん日常生活には支障ない・・・・むしろ社会の偏見のほうが問題ですね。
だけどなぁ・・・・・・・筒井さんは可哀想過ぎ。
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ネギシさん 『Ais Kacang puppy love』ってちょっと期待しちゃいますね。(スペルあってるかな?)
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『初恋紅豆氷』というタイトルの中国語映画ですね。
主演・監督は、阿牛(アニュウ)!おおぉ、まだ童顔。
彼までも映画とは、マレーシア華人芸能も、かなり映画イケイケ(死語?)ムードなのですね。
香港で活躍している李心潔、馬華人歌手出世頭・梁静茹(フィシュ・リョン)、ボクでも知っている明星が出ていますね。
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マレーシア華人映画は先日のコメディが結構ヒットして波に乗っているみたいですね。
『大日子 Woohoo』でしたっけ?
先日、家内の実家でDVDを見ましたが、みんな結構楽しんでいました。
中国語の情報量の多さは英語字幕を相当省略しないと
私には苦しいですね。画面の1/4が字幕みたいで…
でもこういうマレーシア華人の映画が出てくるのはいいことだと思います。
それも商業映画として!マレー人も華人もインド系も皆が見に行くような
そしてそれぞれの立場でクスッと笑うようなミックスカルチャーの映画が早く出来るといいなと思います。