今年のマレーシア音楽と映画で印象に残った作品を紹介して、09年の総括とさせていただく。
やっぱり、紙媒体に続きNHK-FMの『アジア・ポップ・ウィンド』が休止して、日本で数少ないマレーシア芸能の紹介機会がなくなって、苦しい年であったのだけれども、もう17年もマレーシア音楽を聴いている身。悠久のアジアに身を任せるしかないと達観する次第だ。
今年も振り返ってみれば、音楽よりも映画ソフトの方にお金を使っていた感じで、“映高音低”の傾向はやまず、といったところだ。
今年のマレーシア音楽は不作だった観がある。アルバムのリリース数がこんなに少ない年もなかろう。アジア経済危機の98年よりも悪かった。
もちろん、アーティストがアルバムをリリースして、お金を稼ぐというビジネス・モデルは成立しなくなってきているのだが、アイドルじゃなくて、アーティストならば、アルバムを作品としてで自己の世界観を表現してもらいたいもの。
そういう面で、一番気合が入っていたのは、待望のジョー・フリッゾウ(Joe Flizzow)のソロ作『President』。ヒップホップ・ゴッド、KRS-Oneというビッグなコラボ曲だけにとどまらず、シンガポール・アイドル出身のハディ・ミルザ(Hady Mirza)、同じくシンガポールのテリータイリー(terrytyelee)、インドネシアのR&Bシンガー、Joeniar Arief、タイのThaitanium、中華系アメリカ人ラッパー、Jinら東南アジア音楽界から広く人材を起用した作品となった。
マレーシア音楽界もここ10年、これだけ力の入ったアルバムは出ていない。プレジデントだけど、“アンタが大将”って言ってやりたいね。
スピリチャル・ソング・アルバムと銘打った『Tahajjud Cinta』とインドネシアの歌姫クリス・ダヤンティとのデュエット作『CTKD』の2枚をリリースしたシティ・ヌルハリザ(Siti Nurhaliza)も小作ながら、アーティスト色を打ち出しており、第一人者の面目躍如といったところ。
インド系シンガー、ジャクリーン・ビクターも3作目の『III』をリリース。アルバム幕開けに10分にわたり、マレー・ソングの名曲(20曲はあろうか)をメドレーにした「Koleksi Gemilang」で、サプライズを演出。マレー・メロディの遺伝子を取り込んで、ますますマレー寄りになっていくのかと思いきや、新世代のロック・バンドであるNitrasや6ixth Senseらのメンバーによる曲も取り入れ、独自のマレー語ポップを創っていこうという姿勢もみられた。
ロック・バンドでは、Hujanが2作目『Mencari Konklusi』をリリースした以外は、個人的に興をそそる音はなかった。BanfaceやEstrangedといった連中は、マレー語で歌っているのは、メディアに露出する(つまり売名)ためみたいに思ってしまうので、好きにはなれないのが正直な感想。(徹底して英語で欧米の本場のサウンドを目指すならば許せるが…)
若い連中には、大きな話題だったノラ・ジョーンズ風のユナ(Yuna)も、この文脈でいうと同列なんだけれど、「Dan Sebenarnya」での味のある歌い方がマレー語でも浸透していくかには、ちょっと興味がある。
オーディション番組系アイドルは、やっぱり対象外にしたいのだけれども、アイザット(Aizat)は、映画『Taletime』の挿入歌を担当して、見所がある人材だと感じた。
しかし、全体的に音楽界はアイドル歌謡とインディーズ頼みで、新しいトレンドやブームも作り出せず、ジャンルの広がりもなく、寂しい年だった。
最後になったが、今年は8月にポップ・ナシッドの2大グループのひとつRabbaniのリードボーカルであったUstaz Asri Rabbaniが亡くなった。(享年40歳)特にファンであったわけではないが、個性あるアーティストだったし、Rabbaniは彼亡くして成り立たないグループだったので、残念の一言。
ご冥福を祈ります。
映画界については、傑作が生まれたということはないが、質のうえで進歩した年だった印象だ。
面白かったと思う作品を挙げるならば、インド人監督カビール・バティア(Kabir Batia)のコメディタッチの犯罪アクション作『Setem』、7月に急逝したヤスミン・アーマッド(Yasmin Ahmad)監督の遺作『Talentaime』の2作。
また、ヤスミン監督が絶賛したワン・アズリ(Wan Azli)監督の『Budak Kelantan』は、作品的にまだまだあらが目立つが、モラルや宗教ばかりで計れない不可解な人間を描いたという点で、印象に残った。
(今年の映画界の顔アフドゥリンは、フィギュア・マニア!)
今年8月に行われたマレーシア映画祭で最優秀作品賞を獲得したアフドゥリン・シャウキ(Afdlin Shauki)監督・主演作『Papadom』は、『Talentaime』を上回る作品だったか、という点で個人的にはちょっと疑問符がつく。だが、ストーリーの素材として人間臭さに踏み込んでこなかった彼にしては新しい作品であったし、父娘関係という普遍的な部分で笑いと涙をうまくまとめた観があった。同祭では、彼のミステリータッチのコメディ『Los Dan Faun』も最優秀コメディー賞を獲得し、ヤスミン監督亡き後の映画界を牽引して欲しいという期待もあったのではないかとも思う。
やはり、カビール監督もそうだが、アフドゥリンもマレー映画をマレー系以外も取り込めるマレーシア映画に昇華できる力量がある。映画界の顔としての役割に期待大だ。
ドタバタ系コメディーも元気で、アーマッド・イダム(Ahmad Idham)監督の「Jangan Pandang Belakang Congkak」や「Senario The Movie Episode 2: Beach Boys」(「Syurga Cinta」とあわせて、1年に3本も公開というのもがすごい)、KRUプロダクションの「Cicaman 2」や「Jin Notti」など、切り口と見せ方がうまくなっているだけでなく、撮影場所やセットにもお金をかけて、いい絵を見せられる様になってきた。
ただ、ドタバタ系は、もうちょっと垢抜けて脱マレーに向かうほうがいいのか、徹底的にマレー的に泥臭いほうがいいのか、正直ボクもわからないけど、なにかこのジャンルのマレー映画を特徴付ける特徴的な持ち味が生まれないものかとも思う。
最後に蛇足ながらこれから伸びていきそうな女優を。
昨年、『Evolusi KL Drift』でデビューし、今年は『Bosia』など3作に出演したディアナ・ダニエル(Diana Danielle)。白人とのハーフで、ちょっと見は鼻が高そう(小生意気)なイメージなのだが、意外にマレー的な謙虚さやしとやかさも備えている。最近、マウィ(Mawi)とデュエットで歌手デビューも果たすなど、ファシャ・サンダ(Fasha Sandah)に続く若手人気女優になりそうな気がする。
なんだか総括というよりは、雑感になってしまった。
来年もよろしくお願いします。