恒例の2011年のマレーシア芸能の総評を。
映画では、スコープ・プロダクション、シャムスル・ユスフ(Syamsul Yusof)監督の『KL Gangster』が未曾有のRM1,200万の興行収入を上げ、映画産業がビジネスとしてまだまだ拡大することを示した。今まで商業主義の路線で君臨してきたメトロウェルス・プロダクションの牙城をスコープ・プロダクションが脅かしたことは、映画界の活況ぶりを示す事件であった。
ただ、個人的には、あんまり印象に残った作品はなし。今年は、セパ・タクロウを題材にしたナンセンス・スポ根作品『Libas』とか、アフドゥリン・シャウキ(Afdlin Shauki)監督による独自の世界観を描いたファンタジー、『Misteri Jalan Lama』、特撮多用して豪華で無機質なアクションに仕立てた『Haq』など、新機軸といえる作品もあったが、あくまでも内向きでマレー系が楽しめればいいという作品が大半だった。
それじゃ芸もないので、今年の印象に残った映画を少しばかり。
☆ 『Hikayat Merong Mahawangsa』
同作は、マレーシア映画祭で最優秀作品賞を獲得したKRUスタジオ、ユスリー(Yusri KRU)が監督。主人公メロン・マハワンサとは、ケダ王家を興したアレキサンダー大王の血を引くと言われる伝説の英雄。
ストーリーは、ローマ帝国の皇子と漢王朝の皇女が、中間の地であるマレー半島で婚姻を行う話が持ち上がり、メロン・マハワンサが婚姻を妨害しようとするガルーダ国と戦うと言うかなりぶっ飛んだ内容で、 “ジンギスカン=義経説”のような話。ハリウッド映画のごとく、半裸マッチョによる肉弾戦やお決まりの皇女の入浴シーンなどサービス満載。そしてローマ帝国と漢王朝の大艦隊がCGで大海原に大展開(「大」の三レンチャン)するド派手さ。ハリウッド手法と方程式を踏襲した作品だった。もう10年前、いや5年前のマレーシア映画を知る人でも黙るしかない。まぁ、絶賛するほどではないけれど、怖いものなしの姿勢は、「どせマレーシア映画」というはじめっからあきらめている根性に活を入れていることは評価したい。
☆『Nasi Lemak 2.0』
同作は、マレーシア社会と政治をラップで批判し、一時は国賊扱いされた黄明志(Namewee)による自称愛国映画。
ひょんなきっかけで名中国料理店の跡目争いのための料理人対決に借り出された男が、マレー料理のナシ・レマッに魅了され、さまざまな修行と出会いで新しいマレーシアの中国料理を生み出すというストーリー。言語は中国語がメインで、中国映画にありがちなストーリーと展開なのだけれども、アディバ・ノール(Adibah Noor)、アフドゥリン・シャウキや往年のバンドAllyctasのデビッド・アルムガム(David Arumugam)、レシュモニュ(Resumonu)、ニョニャババのコメディー俳優ケニー(Kenny)ら多民族な顔ぶれが出演している。
黄明志は、人種差別主義者という過去のレッテルも自分を笑う要素に転じて、お馬鹿に徹した。ちゃんとクリエーターとして成長していることに拍手。ただ、『Nasi Lemak 2.0』は、中国語がメインなので国内作品とはみなされず、税制上の優遇策も適用されなかった。実は、同様なケースで阿牛監督の『Cinta Ais Kacang (Ice Kacang Puppy Love)』は、マレーシア映画振興公社(FINAS)から国内映画として扱われる措置となったことがあった。まだ、FINASには、黄明志は避けられ続けているようだ。今まで散々ニュース欄で名前を売ってきたので、これくらいの逆境ぐらいは、跳ね返してほしいところ。
多民族(人種を問わない観衆)が楽しめるマレーシアでしかできない映画という点で評価の基準を置くならば、『Nasi Lemak 2.0』は、ボクが注目しているマレーシア・エンタメの潮流の作品。だが、今年は、マレーシア・エンタメといえる作品はなかったのが残念。
あまり結論はないのだが、今年から衛星放送局アストロに「Astro First」というオン・ディマンド式で最新のマレーシア映画を家で観ることができるチャンネルが登場。映画産業にとっても劇場以外にも収入が期待できる環境になったのは、いいニュースだ。
ただ、ボクもちょくちょく観ているのだけれども、なんとなく手軽過ぎてじっくり作品鑑賞できていなかったのは反省。
みなさんよいお年を。
2012年もよろしく。