エチオピアの荒野を旅していたときのことだ。
乾いた風と孤独の魂が私に一滴のアルコールを求めさせた。
その男はただでさえ薄暗いバーのカウンタの向こうでサングラスをかけて座っていた。
私が近づくと、なぜかニヤリと不適な笑みを浮かべた。
ある意味では、場末のバーにふさわしい人相風体だ。
ただ、客としてふさわしいのであって、この男がバーテンであるというのが唯一解せないところだ。
何者か。
私は彼に向かって、軽く手を挙げた。彼も手を挙げて応えた。
私たちは一言もしゃべらない。言葉などいらない。
男と男。それは国境を越え、民族を越えて、ぶつかり合い、もつれ合う絆である。
私は一眼レフを取り出し、シャッターに指をかけた。
すると、男はまた手だけで私を制した。
男は野生動物のような敏捷さで、カウンタをするっと抜け出た。
右手に何かビンをつかんでいる。
そして、店の奥にじっとしていた何かをそっと抱き上げた。
それは一匹の小鹿だった。
まだ、生まれて間もないとみえる。
男は小鹿にビンの口を向けた。小鹿は嬉しそうにチュウチュウしゃぶりついた。
ミルクらしい。
男は私に向き直り、再びニヤリと笑い、親指を立てた。
「この写真を撮れ」ということらしい。
そういうわけで、こんなバカな写真を撮ってしまった。
乾いた風がすべての知性を吹き飛ばしていく…(ぴゅるるるーん)。 |