今までポップスやロックといったわかりやすいジャンルのマレー音楽を紹介してきたのだが、マレー民俗楽器の横笛スルリンと打楽器レバナによるデュオ、モーラム(Mohram)について。
彼らの存在が注目されたのは、昨年リリースされたシティ・ヌルハリザ(Siti Nurhaliza)の『Persasti Seni』でシティが彼らの「Sakti」を歌詞入りバージョンでカバーしたことだ。ちなみに「Sakti」は彼らのデビュー作『Sakti』(01年)収録で、当時あまり注目されたとはいえない作品だった。当地では、まだまだロック・ギターリストといった特別なジャンル以外インストのみで勝負する土壌ができていなかった。
昨年発表の本作は、当地のインスト・アルバムの情況を一変させたといっていい。その背景には、マレーシア交響楽団との共演などやこの地域で開催されるようになった音楽祭などの出演により、彼らの音楽家としての実力が認められたことにある。昨年10月には、彼らはマレーシア交響楽団とともに日本公演(東京・大阪)で来日も果している。
さて本作を誤解なく一言で表現するのは難しい。やはり民俗楽器をフィーチャーし、マレー伝統のリズムを取り入れながらも、SEやリズムの打ち込みも自在に使用し、現代性の融合も試みている点でワールド・ミュージックの範疇であろう。しかし全体的に曲の展開とアンサンブルには予定調和があり、スルリンの独奏はスピリッチャルな響きがあるが、イメージとは裏腹に聴きやすさが持ち味の音楽に仕上がっている。
マレー・ポップスのリスナーに向けて本作の魅力を語るならば、スルリン奏者のモハールのメロディー・メーカーとしての資質だ。先に「Sakti」がシティを魅了したと書いたが、本作にも「Menuju Cahaya」や「Puing Puing」など激しい感情が発露する美しいメロディーの曲が収録されている。これからモハールは、マレー音楽界に欠かせない作曲家になるかもしれない。
そういった魅力を持ち合わせた本作は、インスト・アルバムとしては当地では異例の6千枚のセールスを記録している。テーマとなっているのは豊かな自然と人々の営みの情景。美しいスルリンの調べと躍動するレバナのリズムは、心地よく軽快に耳を駆け抜けていく。日本人にとっては、遠くて近いアジアを感じるひと時を与えてくれるアルバムだ。
さて、本作の日本盤は、10日から新星堂新宿店で販売開始。
楽屋落ちで申し訳ないが、アサ・ネギシがライナーノーツを担当している。
なにやら聖人然とした彼らの姿があるジャケットは、ちょっと一般の人は引いてしまうかもしれないが、アジアン・スタイルで装飾した部屋のBMGにしたら意外におしゃれなサウンド。
聴いているとゆっくりと時が流れていく。やっぱり日本では癒しの音楽になるかも…。