土方隆行<ひじかた たかゆき>

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 僕はギタリストであるにもかかわらず、自分の中で、いわゆるギタリストのヒーローが存在しない。もちろん、好きなギタリストは一杯いるのだが、若い頃に多くの人が思う「こんなギタリストみたいに弾きたい」とか「このギタリストの生き方に感銘した」とかいう思いがなかった。どちらかと言うと、楽曲に共感したり、アンサンブルのすごさ・グルーブのカッコ良さにハマったりすることが多く、アイドルはバンドばかりだった。若い頃は、なにかとギターのフレーズをコピーすることも多いものだが、むしろリズムセクションがどうなってるかをひもとくことが多かったように思う。
 ある種特異な僕のギタリスト観だが、このギタリストだけは、素直に「すごい!」と思う。それが土方隆行だ。

MARGINAL LOVE

 僕が土方氏の存在を知ったのは「マライア」というバンドだ。日本のプログレッシブロックの草分け的バンドで、20歳前後の頃わけのわからないままにハマっていき、「MARGINAL LOVE」や「RED PARTY」を繰り返し聞いていた。その「MARGINAL LOVE」のどアタマに流れる、奇っ怪なギターリフのインパクトたるや! 今でも自分で曲を書くときに、そのフレーズが出てきてはアタマにこびりついて離れない。困ったもんだ…。それが土方氏との出会いだった。
 さてその土方氏だが、ソロアルバムとしては「Smash The Grass」「Atomic Rooster」「Full Moon」の3枚をリリース。さらに’83年には、プロジェクトとして「NAZCA」を結成。こちらも3枚のアルバムをリリースしている。
 また、スピッツ・河村隆一・ゴスペラーズ・エレカシ・TOKIO等を始め、数え切れないほどのバンドやソロアーティストをプロデュースしていることでも知られる。
 土方氏のギターは、よく「超絶技巧」と言われるが、僕はそうは思わない。たしかに、長年にわたるスタジオワークの経験を積んでいるのでテクニックはずば抜けているが、むしろファンキーで爆発的な肉体派の部分と、メロディアスで日本人的な繊細さを同居させていて、それを同時に表現できる希有なギタリストだと思っている。影響を受けたギタリストの一人がジェフベックとのことだが、僕はその通りだと思う。それに、楽曲とそのアレンジのセンスがすばらしい。
Smash The Grass
 この「Smash The Grass(グラスを砕け)」は、僕の中でもトップクラスに位置するFavorite Albumだが、そんな土方氏の魅力があますところなく散りばめられている。フェイドインで始まるファンキーなカッティング、それが最高潮に達したときのブレイクに響く「グワシャッ」と砕けるグラス音。直後の強烈なブラスセクションとリズム隊に身体が揺れている頃には、すでにこのアルバムの虜になっている。2曲目の間奏では、8本のギターだけによるバロック調の重厚なアンサンブル。当時はMIDIさえも世の中に出ていないアナログ全盛期なので、「レコーディング方法自体が不明だ」とアドリブ誌上に書かれていたことを思い出す。
 いたいけで純粋な少女がダイナマイトを抱え、そこに差し込む一条の光、というジャケットも意味深だ。
 全8曲と、現在にしては非常に少ない曲数だが、腹一杯になることもなく、空腹感もない。聴き終わった頃には、妙にホッとした気持ちになる。これは僕だけかもしれないが、このアルバム、もちろんファンキーだしプログレッシブだしサイケデリックなのだが、全体的に中世的な雰囲気が漂っていると思う。モノクロームの古いヨーロッパ映画を見ているような感覚にさえ陥る。

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