地味葬と派手葬について考えた。
先週の土曜日、日本冒険小説協会会長だった内藤陳氏のお別れの会に出席した。
冒険小説の世界はほとんどわからず、
個人的に内藤陳氏といえば“イカ天”審査員として親しみを感じていた方。
数年前、友人の結婚披露宴で隣席になりお話する機会に恵まれ、
なんてチャーミングな方なのだろうと、
披露宴そっちのけで感じいったのだった。
お別れの会は、帰天大宴会と称され、
多くの大作家先生はじめ出版&映像関係者など、コアで強面(?)な人々が大集合。
会場には山積みの蔵書(の一部)とバーボンのボトルと笑顔の遺影。
準備にあたった方々はさぞ大変だったろうと思ったけれど、
「明るく楽しく飲ってくれ」という故人の遺志を感じられる、
センスあふれる演出で、心に遺るすてきなお別れの会だった。
そんなことがあった翌日、親戚Hさんからめずらしく連絡があった。
三桁目前という高齢の母親の世話をしつつ、
万が一の準備をどうすればいいのか?
そんな相談だった。
私よりもかなり年上のHさん。
しかし、今まで喪主の経験はなし。
一方、私は数年前に父親と母親を送っているので、
あの“何を基準に決めればいいのかわからない”感じは、
すご〜くよくわかる。
Hさんに相談されたのをきっかけに、
最新情報をチェックしようとネット検索などしていたら、
頭のなかはすっかり葬式運営モードになったのだった。
父と母の葬式は、とても対称的なものだった。
「葬儀はするな」
そんな言葉を遺して、自宅で息をひきとった父。
親戚や近所、かつての仕事関係者にも知らせるなという。
見送っていいのは、母と姉、弟、私と夫、そして我が家の先代犬ダルマ。
5人と1匹だけ。
それ以外はダメだというのだ。
詳しい意図は不明だけど、死去した事実を
どうやら世間に知られたくなかったらしい。
なんだか異常に負けず嫌いなタイプだったから。
「ほんとにパパのいうとおりやるの?」
母がそういうのも無理はない。
だって死去したことを誰にも知られないようにするなんて、
ちょっと考えれば非現実的なことだってわかるから。
しかしハッキリした遺志があるわけだし、
それを完全に無視するのも家族としては微妙な気分。
代案もないので、とりあえず遺志優先の方向で・・・・・
ということで葬儀屋を呼ぶことになった。
見積もりは数社からとったほうがいい、
と小耳にはさんだことがあるので、
1時間違いで3社に来てもらうことにしたのだけれど、
ほとんど意味はなかった。
1社目が到着するやいなや遺体にドライアイス投入。
その早業に感服しつつ、返却するとも言えなくなったので、
残り2社にはお引取り願うことに。
詳しい打ち合わせは葬儀社の専務みずから。
「ご希望は何でもおっしゃってください」
近所に知られたくないなど事情を話すと、
「喪服着用しません。車もフツーのものにします」
と打てば響く対応。
しかし、問題は棺桶の搬入だ。
あんなもの車から降ろしたらご近所さんはすぐ気づく。
「それなら夜遅くに来ます」
そこまでやってくれるの?
臨機応変な専務に励まされる私たち。
“秘密の葬式”実現可能なのか??
そんな気分にさえなってきたのだった。
そして夜になって棺桶到着。
第一印象は、デ、デカイ!!
それは気のせいではなかった。
玄関から入らないので、庭に面したリビングの窓から入れた。
それでも近所に気づかれていないと思っていた私たち。
今思えば、もうほとんどコントである。
その晩は、父の好きだったCDをかけながら思い出話。
ゆっくりできて、こういうのもいいね〜
などと家族で話ながら、私の喪服はダルマの毛だらけで、
これぞ本物の密葬か?? などと和んだのだった。
そして翌朝は、火葬場へ向かうため出棺。
ご近所の人々が見送りに出ていて、ギョッとした。
「だってお棺が搬入されるのが見えたから」
夜とはいえ、あんな大騒ぎしていたらわかるにきまっている。
まったく赤っ恥もいいとこなのであった。
こんな超シンプルなスタイルで父を送った私たち。
手間もお金もかからず、他人に気を使うこともなく、
終わってみると意外とヨカッタのではないか。
そんなふうに思っていたものの、
思わぬ落とし穴があった。
葬儀をすませたことを記載して、
各地に報告のハガキを発送した。
すると弔問客が実家に訪れるようになった。
もちろん各自バラバラ。
予告なしに訪れるのがマナーというのは、
このとき初めて知った。
来訪者の気持ちに感謝するものの、
いつ誰が来るかわからないとい状態が、
半年以上続き、応対をしていた母は疲労困憊。
「やっぱりあの時にちゃんとすればよかった。
私のときは一気に終わるようにやってね」
そんな冗談を言っていたら、
父の死去からわずか1年で逝ってしまった。
母の葬儀は、父とは真逆のコンセプトになった。
とにかくできる限り多くの人に連絡して、
きっちり葬儀をやりとげる。
母はクリスチャンだったので、
葬儀は教会の礼拝堂で、牧師の進行のもとおこなわれた。
仏教式と一番違うのは、誰にでもわかる言葉が使われること。
牧師の説教は難しい話ではなく、故人の思い出話に近いもの。
そして礼拝堂は花で飾られる。
そこらの結婚式よりボリュームがある。
進行はシンプルで、しかし雰囲気は華やかなのだ。
「葬式だけキリスト教式でやりたい」
数人の友人からそういわれた。
私はクリスチャンではないけれど、
たしかに悪くないなぁと思った。
母は80歳代だったけれど、同世代の友人は皆ピンピンしていて、
弔問客は想像していた以上に多かった。
それを見て、やはりキッチリ葬儀をやってよかったと思った。
もし密葬にしていたら、おそらく仕事している暇がなくなっていただろう。
よく新聞の死亡記事で「葬儀は近親者で済ませた」とあるけれど、
あれは後日、有志がお別れの会などを企画するから
おさまりがつくのだろうと思う。
密葬が通用するのは社会的ステイタスのある人、
あるいは超高齢で弔問客がほとんどいないと予想される場合。
それ以外は、家族やまわりに混乱を与えるのではないかと、
思ったのだった。
そして金額について。
父の時を1にすると、母はその4〜5倍くらいか。
「今どきの相場は200万円っていわれた」
Hさんが某社でとった見積り金額だという。
母でもそんな金額には遠く及ばなかったので、
かなり驚いてしまった。
もっともキリスト教式は、戒名とか無いので安めになるのだけど。
弔問客予想300人以上なんて規模なら、
“相場”でもいいのかもしれない。
でも親戚筋のみ10名くらいという場合には、
それに見合った規模に近づけるのが
正解(なんてないけれど)なのではないかと思ったのだった
2012/02/07 | アレコレ
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