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東京新聞「わたしの3冊」

去る28日、東京新聞・中日新聞の朝刊・読書欄に『私の3冊』が掲載されました。
毎年恒例の企画で、文芸評論家や学者、作家などの先生方が、その年に発行された書籍からセレクトしたものを紹介しているようですが、今年は犬バカ・ノンフィクションライターにも声がかかりました。
3冊分使えるのは200文字前後。本紙では限られたスペースだったので、各書追加コメント含めて紹介します。(ちなみに順位は無関係)
㈰『奇跡の母子犬』山下由美著(PHP)
 宮崎県中央動物保護管理所で生まれた実話。
 犬というのは子犬と一緒に管理所に収容されると、子育てを放棄して職員に餌をねだるパターンが多いのだそう。でも、昨年の冬、捕獲された母犬は例外でした。子犬に近づこうとすると、唸る、吠える、威嚇する。徹底した防御体制を崩さず子育てを続行。本書は、母犬の毅然とした姿に心を打たれた職員が“勇気ある決断”をするまでを写真とともに記録したものです。
 ガルガル犬が、犬舎から出てきて職員の腕に顔を押しつけて甘えるところ・・・・、我慢したけれど、やっぱりボロ泣きしてしまいました。
奇跡というのは、単なる「幸運」のことではありません。
 この実話をきっかけに、宮崎県では管理所に収容された犬の飼い主探しを本格開始。
 子どもにも読めるように、本文はすべて読み仮名つき。でも本当に読むべきなのは、やっぱり大人なのだと思います。
㈪『歴史のかげにグルメあり』黒岩比佐子著(文藝春秋)
 年末年始、おもてなし料理に四苦八苦している人も多いはず。好みが少しでもわかればいいけれど、相手が初対面の場合、私なんて「さて、どうしよう?」とフリーズしてしまいます。
ここに登場するのは、究極のおもてなし料理とそれにまつわるエピソードの数々。饗応からたどる近代日本史は、ペリーの来航から始まります。琉球で豚肉&ラードを使った料理に舌鼓を打った一行は、江戸幕府の純和食の接待にガックリ。結果「日本より琉球の方が、はるかに豊かな国」と判断されたとか。
明治天皇の初ホストは「いきなり晩餐会は無理でしょう」ということで、茶会にするなど苦肉の策がうかがえます。晩年は、海外の要人相手にジョークを飛ばしながら場を仕切ったといわれる明治天皇ですが、それもナイフとフォークの使い方の反復練習あってのこと。
 もてなす者と、もてなされる者。それぞれの悲喜こもごもエピソードが満載で、最後のページまで唸ったり、笑ったり。膨大な資料を綿密に読みこみ、見事な料理に仕上げた著者に脱帽なのです。
㈫『南極1号伝説』高月靖著(バジリコ)
 かつて北尾トロさん著の『危ないお仕事!』を読んだとき、ダントツに興味深かったのがダッチワイフをつくる人形師の話でした。ユーザーの要望をできるかぎり取り入れながら、メーカーとしても利益を追求する。経営者の努力と探究のなかで、ふと“渡りに船”的な状況(少女っぽいのが好まれる→小さいから輸送に便利など)が生まれてしまうところなど、予想外の面白さがつまっていました。
この本は、北尾さんが取材した「ハルミデザインズ」はじめ、特殊用途愛玩人形の現場を徹底取材したものです。写真を見ると、新素材と最新の技術から生まれた人形たちは、驚くほど精巧。最新素材利用の精巧な商品だけに、一体のお値段は60万円。高価なのはまだしも、異常に重いというのは思いも至りませんでした。運ぶだけで重労働。メンテナンス時には破損しないように、そして自分が怪我しないように細心の注意が必要で「だらしのない人にユーザーは務まらない」のだそうです。
テーマはちょっと異色だけれど、ものづくり本として読み応えありました。


2008/12/31 | 告知・報告

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