その担当者の方と会ってみると、かつて世界一を誇ったマレーシアのゴム産業は今や
斜陽化の一途を辿っており、特に家族経営のような小規模農園は経済的に
非常に厳しいことになっているそうだ。
小規模農園はその当時400,000軒も存在し、彼らを経済的苦境から救うことが
ゴム研究所の重要なミッションになっているという。
なぜこんなことをだらだら書いたかというと、小規模農園に副収入をもたらすために
ゴム研究所では、ゴムの木の列と列の間の空いているスペースに
何か商品作物を植えるという試験を行っていたからなのである。
参入しやすさを一番に、果樹(マンゴー、パパイヤ、バナナなど)の栽培を立案。
そのためにまず5m間隔の列を20m程度に広げ(その為に3列を伐採する)
日当たりをよくするというプロジェクトがスタートしていた。
しかし、これではゴム農園を維持するという本来の目的からずいぶんはずれてしまう。
薄暗いゴムの木の樹間で栽培できるものに決定的なアイデアがなかったらしいのだ。
そこへ突然の
『クルクリゴと薬用植物はどうでしょうか?』
という提案である。
驚くなかれ、この提案は即座に受け入れられ、RRIM-トシの共同研究プロジェクトとして
2.7haの土地と予算が与えられ、5人のスタッフによってプロジェクトは
スタートすることになった(笑)。
農園の風景、白い車が当時の愛車Proton satria
若いゴムの木のエリアが与えられたため遮光設備も設置された
植栽を待つクルクリゴ
私は共同研究者ということで、栽培計画を立案したり、クルクリゴ以外の
商品価値の高い薬用植物を選択したりという仕事に携わった。
そして翌年にはプロジェクトはゴム研究所だけではなく、マレーシア農業研究所
(Malaysia Agriculture Research & Development Institute MARDI)も参加して
どんどん大きくなっていったのである。
下は、このプロジェクトを取り上げた2000年2月8日の日経産業新聞の記事。
スーツを着た手前の男がトシである。
続いて翌日の記事。
このプロジェクトのおかげて私のマレーシアにおける
認知度が高まって、このあとの仕事が非常にやりやすくなった。
どこの馬の骨ともわからぬ外国人の提案を受け入れてくれたRRIMの皆さん、
本当に感謝します。
人生ってこれだから面白い!ね?
追加:上記マレーシアゴム研究所の研究ページ下の方に
今もプロジェクトの名残りがあります。
Other research activities
・Mixed cropping of rubber and cash crops
がそれです。
なんのことはない、それは整然と並べて植えられたパラゴムの木の農園だったのだ。
これはと思った。
ゴムの木は雑木林と見まがうばかりに生い茂り、農園を薄暗くしている。
そしてもちろん、この環境をクルクリゴが好むことは事前に確認済みだ。
しかも栽培をするのに十分な間隔(約5メートル)である。
すかさずUターンしてこの農園の入り口を探すと、いきなり飛びこんだ。
それが全くの偶然だが、世界最大のゴム研究機関として名高い
マレーシアゴム研究所(RRIM)の実験圃場であったのだ。
帯に短し、たすきに長し、なかなかよい物件がみつからないまま
いたずらに時は過ぎていく。当時は生活のための仕事もあったし。
もちろん栽培地がみつからないだけではなく、コストや運営方法を含め
解決しなければならない問題点は山積していた。
そのうちで最も大きなものは以下の二つ。
遮光をどうするか?
クルクリゴはジャングルやゴムの農園でよくみつかることからおそらく
直射日光は避けなければならないはずだ。すると遮光のネットをつけなければ
ならず、そのためにはフレームも必要になりコスト高になる。
グリーンハウス的設備にしなければならないとしたら、私の手に余る。
手が足りるか?
記事の前半では『ゼミ長の沽券に係わる』という書き方をしたが、それは冗談で、
商業栽培がやりやすいかどうかが、この仕事のカギだと思っていたので
ある程度の規模での実施は譲れないポイントだった。
しかしひとりでそれを見るのはかなり厳しい。
いろいろと試してみたい試験もあったし(ただの栽培ではないのだ)。
その場合、ひとを雇う金銭的余裕があるか?
気が小さい割に楽天的な私は、2番目の人件費をとりあえず無視して
(自分で出来るだけやってみようと思った)一番目の遮光の問題に
しぼって考え始めた。
遮光を含めた設備は言ってみれば初期投資の問題なので
この仕事を立ち上げられるかどうかにも密接に関わってくるわけだ。
車を走らせながら道路脇の空き地や放置されているグリーンハウスなどに
目を光らせていたある日…。
ということで、今回は登りながらの写真をいくつか。
地上10メートルほど。
登る登る。
途中でセルフフォト。
次の写真ではすでに普通の木の樹冠上に出ていて、
こうなるとあまり恐怖感はない。
こちらはプラットフォームから。
はしごが幹の形に合わせて曲がりながら設置されていることがわかる。
それにしてもこんなに恐ろしいことをよくもやったものだと思う。
しかし、繰り返しになるがプラットフォームからの展望は抜群で、
恐怖も一度に吹き飛ぶ。
また登ってみたいが、もう体力的にダメかも。
以前も書いたように現場はタマンネガラ(国立公園)。
樹木に釘を打つことは一切まかりならぬ、ということでアルミ製の
梯子(3.6m)を幹に結びつけることになった。
写真は梯子が幹から若干浮くことで段に指がしっかりかかるように
角材のスペーサーを固定しているところ。
狙いをつけた木(直径1m弱か?)のすぐ近くにある細い木を木登り名人が登り、
20メートルほどの高さから張り始める狙いの木の下枝を伝って移る。
あとは50メートルを登り切り、滑車を固定してロープを通せば、
作業者の命綱兼材料運搬リフトの出来上がりである。
作業中の筆者
作業の様子
こちらは樹冠部での作業(恐ろしい)
こちらは樹冠部のプラットフォーム。
背後に見える緑は40メートルクラスの樹冠。
イメージが掴めるだろうか?
続く
ミラクルフルーツと呼ばれる実を口に含んだのち、レモンをかじると、甘いオレンジのような味がする。クルクリゴという植物の実は、レモンを甘くするだけでなく水も甘くする。これらの実に含まれる活性成分は、それぞれミラクリンとクルクリンと呼ばれるタンパク質で、味細胞に吸着し、味覚の機能を変える作用をもっている。すっぱいものや水が砂糖なしで甘くなるので、新しいタイプの甘味剤として注目されている。
御存じの方も多いだろうが15,20年ぐらい前にメディアでずいぶん取り上げられた
アオキのような赤い実がミラクルフルーツである。
すっぱいものを甘くするという作用はやはりインパクトがある。
しかし、このあとは3ページにわたって、ミラクリンの構造や化学的考察が繰り広げられ
化学に疎いトシなどはほぼ斜め読みするしかなかったが、4ページ目から注目に値する
記述が登場する。
東南アジアのマレーシア地方に野生しているキンバイザサ科の植物クルクリゴ(Curculigo latifolia)は、根元にラッキョウのような形をした白い実をつける。この実を口に含んだあとに水を味わうと甘く感じる。紅茶を飲むと、砂糖なしでも甘くなる。またミラクリンと同じように、すっぱいものを味わうと強い甘みを感じる。昔から現地の人は、この実をすっぱいものに甘味をつけるのに用いてきた。このように、クルクリゴの実は非常に興味のある成分を含んでいるにもかかわらず、従来この成分に関する研究はまったく行われていなかった。
1行目からいきなりマレーシア原産がうたわれているではないか!
そしてすっぱいものを甘くする作用を持っている。
しかも研究はまったく行われていないのだ。
(もちろん栗原先生が行った結果この文章があるわけだが、
少なくとも栽培に関してはまだこれからだろうと思った。)
「これだ!」と私が思ったのもあながち短絡的とは言えないだろう。
おそらく、この引用文を読んで、「?」と思われた方も多いだろう。
すっぱいものを甘くする作用が面白いと言うのはわかる。
しかし、それ自身が甘くて、水や紅茶を甘くするというのは
砂糖以外の甘味料だってそうじゃないの?と。
甘い物を口に入れて水を飲めば水が甘く感じることはあるだろう。
口中に残存した甘い物のせいで。
実はそういうことでないことは、私自身が後にジャングルの中で
実感することになるのだがこれは後述する。
この文章を読んだ私は早速著者の栗原先生に手紙を書いた。
クルクリゴの大量栽培をやってみたいので、栽培方法についてご教授願いたい、と。
栗原先生からは数週間後に丁寧なお返事をいただいた。
郵便受けの中に二三日放置されていて、こちらの悪食のかたつむりに
封筒の差出人部分が食われていて中身を読むまでは誰から来たのかわからない状態だった。
とにかく、石が転がり出したのだ。
現代化学 1991年3月号(東京化学同人)
「味を変える不思議なタンパク質」という見出しが読めるだろうか
当時、マレーシアへ来てようやく3年目。
確かその頃オープンした伊勢丹クアラルンプール
(Lot 10というショッピングモールのメインテナントだった)内の
紀伊国屋書店の雑誌コーナーで目についたのがこの雑誌である。
今はしらないが、当時海外の日系書店では書籍は返品が不可能なことから
基本的にすべて買い取りであり、この手の専門誌が
一般読者向けに仕入れられたとは考えにくい。
おそらく注文で取り寄せたものが何かの事情で引き取り手が現れず、
やむなく少年漫画誌などに並べて陳列したといったところだろう。
この本との出会いが私の人生を大きく変えることになる(笑)。(続く)
頭頂部に第三の目の存在が(ムカシトカゲみたい)確認できる。
こちらは大きさ確認のためにカセットテープを並べたもの。
このころすでに煙草を止めていたので車に載っていたカセットを置いている(いまや死語ですな)。
頭骨の大きさにも驚くが、カセットが『カーディガンズ』というのも気恥ずかしい(笑)。