ちょっと最近、自分でも唸ってしまうほどの忙しさだった。フリーランス稼業なのであり難いことではあるのだが、マレーシアで一番暇そうなことを書いている看板に偽りが出てしまう…。
さて、予告したとおりマレー音楽界で最大の才能を発揮し続けているシティ・ヌルハリザ(Siti Nurhaliza )の新作『Hadiah Daripada Hati』について。解説ともつかないので今回も感想ノートとさせてもらう。
本作は、自身の作曲も含めてインドネシア・メロディの志向が目を惹いた『Transkripsi』から一転して、シンガポールのディック・リーの曲があるものの、国内作曲陣で固めたいう印象が強くなった。
プロデュースには、シティ自身のほか、オーベリ・スウィート、アウディ・モック、アズラン・アブ・ハッサン、グレッグ・ヘンダーソン、ジェニー・チン、シャロン・ポール。シャロン以外は、国内の有名どころで固めた印象。
確かに初顔合わせの作曲家が10人(11曲)中7人(8曲)という新しい人材を起用するシティの姿勢は変わらないが、今回はサプライズはディック・リーのみでちょっと淋しい。
売りは、地元ドラマ『SpaQ』の主題歌の1と独立50周年を記念した歴史映画『1957 Hati Malaya』の主題歌7だが、前作からの“爽やか、軽やか”路線がさらに推し進められて主流になった。
初期のアルバムが『Adiwarna』や『Pancawarna』というように色(Warna)を強調してきたが、前作の『Transkripsi』はジャケットが白、今回の『Hadiah Daripada Hati』が黒と熱唱系から“爽やか、軽やか”系へと移行していくにつれて、タイトルやジャケットのコンセプトにも変化が現れている。
<『Hadiah Daripada Hati』感想ノート>
曲名(作詞作曲)
1. 「Ku Mahu」 (Audi Mok / Rina Khan)
ラテン風ソング。1曲目にちょっと意外な曲を持ってくるのが、前作からの傾向だが、「別にシティが歌わなけれいけない曲」という最初の印象は覆らない。
2. 「Melawan Kesepian」 (Pongky Barata / Pongky Barata)
全編しっとりした曲調。11でもそうだが、シティの声の伸ばし方が直線的で、揺らぐように伸びていくパターンが多かった過去のマレー・バラードとは一味違った歌い上げ方を披露し始めた印象。
3. 「Mulanya Cinta」 (Dick Lee / Adlin Aman Ramli)
シンガポール音楽界の大御所ディック・リーの曲。彼の曲は多く聴いたことはないが、彼の体内に内包する中華系とマレー系の要素がうまくミックスしている感じ。いいメロディーだが、スローテンポで、ちょっとシティによる盛り上げ方やメリハリのつけ方が今イチ。
4. 「Tampa Kalian」 (Taufik / Taufik & Siti Nurhaliza )
あまり派手でキャッチャーな印象ではないが、じっくり聴いているとこの曲が一番メロディが印象に残る。“爽やか、軽やか”の代表曲になるか。
5. 「Biarkan」 (Azlan Abu Hassan / Azalea)
アルバム『Adiwarna』収録の「Satu Cinta Dua Jiwa」を作曲したアズラン・アブ・ハッサンの曲。デビュー作から『Pancawarna』までのバラード中心のアルバム郡のなかで、「Satu〜」はシティ切ってのキャッチャーな曲だったが、その味をアルバムのメリハリのために持ってきた感じ。でも、「Satu〜」とは違って、それ以上のそれ以下でもない曲だ。
脱線するけどアズラン氏の本業は銀行員とのことで、マレーシアの小椋佳だ。彼の曲は台湾でも歌われていることを知って、勉強不足を恥じる次第。
6. 「Kerana Dirimu」 (Cynthia Lamusu / Cynthia Lamusu)
しっとり系の曲だが、マレー的な叙情も少し感じられる。
非常に感覚的な表現なのだが、2や11で披露する声の伸ばし方が直線的で澄んだ感じだが、この曲や過去のバラードでは、彼女独特の節回しが“揺らぎ”を生み出して、虹のように多彩な色を感じる気がする。ただ、曲自体はあまり印象に残らない。
7. 「Hati」 (Sharon Paul / Shuhaimi Baba)
映画『1957 Hati Malaya』主題歌であり、本作では唯一の熱唱ソング。個人的にはやっぱり胸を締め付けるような叙情のメロディは、マレー音楽の王道であり、シティも歌唱も本領発揮といった感じ。
余談だけど、『1957 Hati Malaya』の監督スハイミ・ババは、作品では主題歌で泣かせようという人だからかなり大仰なアレンジに仕上がっている。このアレンジが食傷と取られて、シティの真骨頂の歌唱スタイルが敬遠されるのは、昔からのファンとしては痛し痒し。
作曲家のシャロン・ポールは新人で、今回シティへの曲の提供は抜擢という感じで捉えられている。
8. 「Wanita 」(Muhammad Fahmi Rizal / Shanty Ramadani & Siti Nurhaliza) “爽やか、軽やか”路線で印象的なフレーズの曲。ただ耳にメロディーは残るけど、それ以上の魅力が見えてこない。
9. 「Cintamu」 (Sharon Paul / Faduri Yahya)
シャロン・ポールの曲で、なかなかツボを押えた展開。そつがないけど、個性もない感じで、シティの持ち味を引き出しているとはいえないが、アレンジのよさに彼女の才能は感じられる。
10. 「Sutramaya」 (Aubrey Suwito / Tinta S.)
今回、唯一前作に引き続き曲を提供している作曲家大御所オーベリー・スウィートによるもの。正直言ってこの曲もそつがないけど、個性もない感じ。
8からこの曲まで3曲も印象的な曲がないところに本作の物足りなさの原因のような気がする。
11. 「Sekian Lama」 (Azlan Abu Hassan / Azlan Abu Hassan)
全編でしっとりとした叙情が漂う静かな曲。
前曲の後半部とつながるように始まり、ミュージカルのような印象を受けるところに唸らせられた。大きな展開がない静かな曲なのだが、シティがきっちりとメリハリをつけているところが白眉。最後になって聴き所を用意していた。
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自分でもあらためて読み直しているとあまり褒めていないなぁ。
シティにしてみたら、もうインドネシア傾倒は他のアーティストもやり始めたので、国内のフレッシュな才能を起用したところに意図があるようだが、曲に個性が足りない仕上がりになってしまった。
でも、口づさみ易いメロディーが増えているから親しみやすいアルバムかもしれない。
シティは、新しい唱法を確立しているとはいかないが、いろいろと工夫しているので、ファンならそれを楽しみとしたいところだ。
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アサさん、
新作のレビューありがとうございます。自分もいずれは購入すると思いますので、その時にまた感想が書ければ、と思ってますが、作曲家のクレジットは興味をそそりますね。Dick Leeが曲を提供したというのはいやでも話題になるでしょうが、個人的に ”あっ” と思ったのがAzlan Abu Hassanの参加です。今年彼の書いた楽曲、Kaer Azamiの”Izinku Pergi(今年のNo1楽曲!)”とMisha Omarの”Dedebu Cinta"を聞いて、”彼はスゴイ(彼の楽曲の持ち味はいい意味で他のマレー語曲からかけ離れた、洗練されたアレンジ)”とあらためて彼が今まで手がけた楽曲を聞きまくっていた時期があるのですが、Sitiに提供した楽曲が"Satu Cinta Dua Jiwa"だけというのは意外でした。だから彼の楽曲が2曲も収録されていると聞くと、購入したくなりますね、新作。
あと、もう1つ個人的にはMelly Goeslawとまたコラボして欲しかったですね、前作収録の”Biarlah Rahsia”はSitiのキャリアに残る名曲だと思っているので。
P.S. Azlan氏の楽曲が台湾でも歌われているそうですが、タイトルは分かりますか? ひょっとしたらマレー語曲のカバーなのでしょうか?
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Ouたさん、お待たせしました。早速のコメントありがとうございます。
アズラン・アブ・ハッサンの曲が、このアルバムの一番のウリとはいえないけど、期待していた人も多いみたいですね。
確かに最後の「SuKian Lama」は、アレンジの妙が光っていますね。
アズラン氏の台湾での仕事は、ここから少し垣間見ることができます。
http://www.comp.nus.edu.sg/~nghoongk/lyrics/writer1203-1.html
ちょっとオリジナルがマレー語かどうかはわかりませんが…。