今日はマレーシアの目指す“モダン・イスラム”について。
まぁ、あまり堅苦しくならないように話していこう。
イスラム教住民多い国は、近代化の過程でどれだけイスラム教の及ぶ範囲を限定するかが政治課題である。トルコのように政教分離を実現したところもあれば、アフガニスタンのタリバン旧政権のように宗教による統治を目指した例もある。
マレーシアはマハティール前首相時代から“モダン・イスラム”を標榜してきた。前首相の意図するところは、現代社会の発展を停滞させたり、多民族社会の調和を乱さない程度のイスラム教の解釈というところだ。
もっとわかりやすく前首相の発言を拾っていこう。
「豚肉や酒を供する食卓でなければ、他の民族との会食を積極的に行うべきだ」
「緊急の場合は、非イスラム教徒の医者に診てもらうことを厭うべきではない」
さらには国のエリートの外交官にはこんなことも言っていた。
「相手が酒を飲んでいるカクテルパーティーには積極的に出席するべきだ。酒が入っている相手は普段よりも饒舌になるから」
首相にとっては、マレー系の地位向上が最優先であり、宗教の解釈がそれを阻害することをいつも危惧していた。マレーシアが中国系やインド系といった民族との多民族国家でなければ、これほど首相も宗教の解釈について多くを語らなかったかもしれない。
それで、昨日「宗教当局の風紀取締に警察の認可を」というニュースがあった。
前にマレー系がミスコンに出られないという話でも書いたが、マレーシアには宗教の戒律を取り締まる宗教警察というものがある。
最近になって宗教警察が夜の盛り場に手入れに入り、イスラム教徒のセクシーな服装や女装したオカマなどを拘束する事件が続いている。また、宗教警察は結婚前の男女が一緒の部屋にいる罪(カラワット)を取り締まることも行っているが、覗き魔の一団がカップルを嵌め込み、宗教警察の取締りを仕組ませたという事件も起こっている。
先のオカマの取締りでは、拘束された非イスラム教徒のオカマ氏が人権侵害だと訴えていた。さらに取締りの実行には、イスラム教徒のスパイがいたことも問題になっている。また、女性の服装の取締りでは、拘束された女性が警察ではなくモスクに連れ込まれ、大勢に囲まれて糾弾されることによって侮辱されたという話が伝わってきている。
こんな話が若い世代に伝われば、おちおち遊んでられないし、息苦しいことこの上ない。
こうした宗教当局の動きに対し、イスラム教団体や野党を中心とする『風紀狩りに反対するマレーシア人の会』が、プライバシーの侵害、言論・表現の自由を理由に抗議の声を挙げている。同会では「どんな服装で、どのように誰と社交するかは個人の選択によるべき」という声明を出し、モハメド・ナズリ首相府大臣に提出している。
同会の声明を受けて内閣では、宗教当局の風紀取締に警察の認可を義務付けることを検討するという。同大臣も「マレーシアがタリバンの統治になることは望んでいない」と理解を示している。
前政権のときは、前首相は不快感を現しながらも、ミスコン参加イスラム教徒の取り締まり事件後も明確な善後策はなかった。大学でイスラム神学を修めたアブドゥーラ首相ならばこの問題をよりうまく扱えるのではないだろうかと期待する。
でも、マレー系ミスコン復帰までは無理なのかなぁ、と蛇足。