昨年、最も話題となったマレー語商業映画『Cinta』<について。
タイルとからして“愛”というのは、ちょっとツカミ的に重いのだが、しみじみとした情感とやさしさに包まれる余韻に浸れる作品だ。
本作は、クアラルンプール(KL)に暮らす5組の男女を巡る物語が交互に展開していく。登場人物がわずかながらどこかでつながっており、KLという舞台で同時進行しているところが特徴となっている。
キャストもなかなか話題性がある俳優を起用している。日本の映画ファンには、なんといってもヤスミン・アーマッド作品でオーキットを好演したシャリファ・アマニ(Sharifa Amani)が主演に名を連ねていることが本作の売りだろう。
他には一昨年の東京国際映画祭に出展された『ゴールと口紅』で、美男ではないが感じのよいヒロインが心を寄せる青年を演じたピエール・アンドレ(Pierre Andre)や若手演技派として注目されてきているキュー・ハイダール(Que Haidar)、いま話題作に引っ張りだこの若手美人女優ファシャ・サンダ(Fasha Sandha)らも名前を連ねている。
監督はカビール・バハタというテレビやCM畑の人材。本作は初の長編映画だ。インドで映画を学んできたという経歴があり、活況を呈する映画界で新しい流れを作ろうという気概に満ちている。
本作が描いているのは、5組の男女を巡るストーリー。認知症である元教師と女手一人で食堂を切り盛りする寡婦との老いた男女に通う思慕、雑誌出版社のエリート社長と書店員の身分の違う恋、不倫で身動きができない姉と社会的地位を捨て路上の似顔絵描きをしている弟の姉弟の絆、危機を迎えている若い夫婦、そして恋人を探して上京した若い女とそれを見守る青年の恋…。
まず、これだけ多くのストーリをみぜられて、消化不良にならないかという点が、先に立つ。しかし、逆に個々のストーリーに深く立ち入らず、さらりと流してくれていることで、当地恋愛物にありがちな食傷気味の後味に陥らない。
皮肉な見方をすれば、脚本書きの力量隠しにもなる上、集中力のない観客を飽きさせない方策ともいえないでもないが、テーマであり、タイトルそのものである“愛”の形にバラエティーを持たせた組み合わせは評価できる。
もうひとつ、本作が脱地元レベルであるのは、必要以上にドラマ性を掻き立てるお膳立てを意識的に排除していること。平たく言えば、突っ込みどころとなる“ありえない”度が低く、あくまでも日常の場面を切り取るところでドラマを進めていることだ。
それでもエリート社長と書店員が人目をはばかる恋愛の成就とすれ違い夫婦の和解の過程など、陳腐なところはあるが、観客が感情移入できないほど非現実的ではないところにとどめた。
見どころは、やはりシャリファ・アマニとピエール・アンドレが演じる、距離が縮められないもどかしい愛編だろう。闊達で感情表現の激しいアリアナを演じるアマニと無口で朴訥とした場末の新聞編集者タフィックを演じるピエールが、一番画面に引きつけられる存在だ。しかし、アマニはオーキッドの延長線上という感じで、女優としてのステップアップの評価は次作に持ち越されたというところが正直なところ。
個人的には老いた男女の思慕編が、一番泣かせる。若い男女の愛を描いても、感情移入できない要素があればそれまで。でも、自分の親や自分が老いたときのことをことを考えると、誰でもジーンと来てしまうものだ。家族から見放された老人に心を寄せ、支えていこうという寡婦のストーリーなどは、単独で一編の作品にはなりにくいだろうが、人間が最後に行き着く無償の愛を、これ以上効果的なお膳立てで提示しているところを評価したい。
マレーシア映画の新潮流を語る作品として重要な作品だ。長編初メガホンの監督が、でこれだけのキャストと予算を扱えることも映画界の好調さを示している。
男でも女でも、ひとりになったときに観てもらいたい。
だって、愛なんて誰かと議論して、考えるもんじゃないからね。
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おーネギシさん 見たんですね!
しかもかなりな高評価!!
僕は詰め込みすぎて消化不良ということになるんでは
ないかと思っておりましたが。
ちょっと前にテレビのMTV関係番組を席巻していた
cinta挿入歌“群”についてもコメントお願いします。
僕は個人的には夜のKL、特にムルデカスクエア前を
歩き続けるPVの曲が好きです。