昨年、最もヒットしたマレー語商業映画『Cicak-Man』のVCDが発売された。
なんとパッケージの帯には“520万リンギットの興行成績”を謳っている。
これは、ユスフ・ハスラム監督『Sembilu2』(95年)の650万リンギット、アジズ・M.オスマン監督『Senario Lagi』(00年)の600万に続く、マレー映画史上3位の大ヒットではないか。
監督は、マレー音楽界のゴッド・ブラザーズKRU三兄弟の次兄ユスリー(Yusry)は、初メガホンで記録を打ち出してしまった。
まぁ、ちょっとだけ紹介していこう。
本作は、KRU制作のスーパーヒーロー・コメディ。“Cicak”とは、当地でお馴染みの「ヤモリ」のこと。まぁ、切り口からして、「何じゃコリャ」なのだが、もともとビデオ・クリップのクオリティーでも定評があるKRUファミリーのこと、全体の40%が特撮という意欲作なのである。
キャストは、マレーシア版ドリフターズ、Senarioの志村けん級人気者サイフル・アペッ(Saiful Apek)を主役に起用。ヒロインに今、人気ナンバー・ワンの美人女優ファシャ・サンダ(Fasha Sandah)、悪役クローン教授に司会界の人気者アズニル・ナワウィ(Aznil Nawai)、ユスリーは脇役としても出演している。
あらすじは、紹介するのもちょっと脱力気味なのだが…。
架空の街メトロフルス、クローン教授(アズニル・ナワウィ)の研究所に勤めるダニー(ユスリ・KRU)とハイリ(サイフル・アペッ)は、新型ウィルスの撲滅に研究を捧げている。ある日、ダニーとハイリは、新型ウィルスを蔓延させたのは、クローン教授自身ではないかと疑いを持つ。
ハイリは、研究室で間違ってヤモリを飲み込み、壁や天井に張りつき、舌で獲物を捕らえるという特異な力を身につけていることに気付いた。
一方、クローン教授の秘書であるタニア(ファシャ・サンダ)は、クローン教授がメトロフルスの大臣を誘拐し、クローン人間と入れ替え、街を自分の手にしようとしている野望を知ってしまうことに。
ひそかに気を寄せているタニアに危険が迫っていることを知ったハイリは、チチャ・マンとなり、タニアを救い、クローン教授の野望を挫くことに立ち上がる…。
なんだかまじめに書くのが馬鹿らしくなってしまう筋で、映像的にもバットマンなのだが、サイフル・アペッが自在にギャグを披露するところで味付けとなっている。でも彼のギャグもマレー語がわからないと面白みが半減してしまうのが外国人には辛いところ。
チチャ・マンの弱点は、輪ゴムってのも、やっぱローカル・ギャグだよな。その心は、ヤモリは子供に輪ゴム射撃の的にされる、、、って、すぐ笑えないでしょ。
特撮の見どころは、チチャ・マンと適役のジンジャー・ボーイズという用心棒との対決シーン。ちょっとトホホで、突っ込みどころ満載。それに大臣役にベテラン俳優が起用されているところも、当地の芸能界を知る人には笑いどころなのだが…。
まぁ、外国人には、やっぱ可愛いファシャ・サンダでも観てればいいのかなぁ。彼女は、ハーフばやりの最近の芸能界で稀な典型的なマレー美人だ。(どうでもいいですね)
ちょっと褒めるべき点は、特撮で街を作っているので、地元っ子には異国を観ている感覚に浸れるところ。当地の映画は概して、「あぁ、あそこで撮っているんだなぁ」という安手のロケーションが目立つので、違う世界を観ることにおカネを払った気分にはなる。
あんまり褒めていないが、なーんにも考えないで子供から大人まで楽しめるという点では、ツボはちゃんと押えている。加えて、チープなストーリーにおカネをかけというのもマレー語映画ではなかったことだ。(言い換えると、今までチープなストーリーは安手にしか作ってこなかった)
おカネをかけて馬鹿馬鹿しいことをするのも文化の成熟の尺度だとすれば、好調なマレーシア映画界で生まれるべきして生まれた作品だと思うよ。
ところで、VCDはサントラCDと抱き合わせ販売。価格は29リンギットだから、10リンギットでサントラCDを買わされた感覚。でも、このサントラCD、なかなかいいんだなぁ。やっぱ、KRUファミリーだから粒が揃っている。昨年の話題作『Cinta』は、サントラの選曲と挿入のセンス、あんまり感心できなかったので、あらためてKRUは音楽の方でも1日の長あり。
ちょっと話が逸れるけど、KRUファミリーのDr. Kronikって、ラップ・ロックの草分けで、このサントラに提供している曲を聴く限り、まだ実力もセンスもあり。彼らの新作でないかなぁ。(どうでもいいですね)
それでエンディングは、なんだか続編が出来そうな気配。個人的には、2匹目のドジョウは取らない方がいいと思うのだが…。