公開後、2週目に突入しているアフディリン・シャウキ(Afdlin Shauki)監督・主演作品『スモウ・ラー(Sumo Lah)』について。
原作者・第二監督として制作にかかわった当地在住の映画人窪田道博氏のブログによると『スパイダーマン3』、『ネクスト』といったハリウッド作のつぐ3位の興行成績を記録しているとのこと。
また、海外配給も視野に入れているとのことで、すぐにビデオ化はしないということなので、劇場に足を運んでもらいたい、という応援の意味も含めた一文だ。
まず、窪田氏が述べているようにこの映画はマレー映画ではなく、“マレーシア映画”である。
本作の前に公開され、地元映画興行記録を更新したホラー映画『Jangan Pandan Belakang』を観たのだが、やぱりマレー映画の範疇であった。何がマレー映画なのかという点で、難しい御託を並べるつもりはなく、簡単に言えばマレー語で多数派のマレー系を客として作った映画である。
やはり600万リンギット超という興行成績を叩き出すには、この基本線は動かしがたい、というところか。(まぁ、『Jangan Pandan Belakang』には、マレー映画でならなければいけない理由もあるのだが。また、いつか機会があったら詳説しましょう)
それまで10年も1位であり続けたユソフ・ハスラム監督『Sembilu2』も、マレー系のツボを押えた三角関係+悲恋という90年代の黄金のパターンだった。正直言って、マレー系以外を惹きつける要素は皆無という感じだった。
さて、本作『スモウ・ラー』がマレーシア映画というゆえんは、シンガポール人コメディアン、グルミット・シン(Gurmit Singh)やタイ人女優のインティラ・チャロンプラ(Intira Charoenpura)、中華系のパトリック・ティオらのキャスティングによるところが大きいが、それ以上にマレー語や英語、そして日本語までが飛び出す多言語であることであることを特筆したい。特に英語・マレー語がつなぎ目なく繰り出されるシームレスさというのが、マレーシアの都市で暮らす人々のリアルな状況を描き出しており、マレーシア映画として欠かせない要素になってきている。
(写真:着物風衣装で『スモウ・ラー』を思いっきり宣伝しているアフディリン、右。ちなみに真ん中は、『細い目』にも出演しているアディバ・ノール。それにしても3人あわせて○kgというショット)
それで、今の映画界の人材を見回して、マレー系に軸を置きながら、マレー系以外にも支持される作品を作れる可能性を一番秘めているのが、アフディリン以外に見当たらない。
さっき述べた言語のシームレスについて、アフディリンはマレー語、英語、それぞれの面白い話術や表現を場面によって効果的に使い分けることをコメディーで場数を踏だことで才能を磨いてきた。当地でも人気があるシンガポールの英語コメディー『プア・チュウカン』のグルミット・シンが、アフディリンと仕事をしているのも、この辺を才能をかぎつけているからだと思う。
まぁ、アフディリンは、太っちょでも演技で、温かい好人物になり、顔も観ているうちに味が出てくるタイプ。ちょっと日本の芸能人には疎いので例えられないが、『キングコング』に出演したジャック・ブラックのように弁が立って、頭が切れるという感じを、もっと人の良さでまろやかにしたタイプのデブ・タレントだ。
本作の相撲がテーマであるので、マレー色が薄いこともあるが、本作が成功したらこれからもっと地元映画が、多民族的なマレーシア映画への流れができることを確信する次第だ。
もうひとつ付け加えるならば、地元映画界で外国人の才能や手腕が注目されてきていることもある。窪田氏もさることながら、昨年ヒットした『Cinta』(関連記事はこちら)カビール・バハ監督は、インド人で、テレビ制作の経歴から一気に長編映画のメガホンを取る機会を得た。
まぁ、本作が地元映画を変えるという大風呂敷は、脇においておいてもらって、日本をテーマにした映画を劇場で地元の人の反応を見ながら楽しむの一興だと思う。
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