以前、本欄で伝えたように一旦は上映禁止処分を受けた台湾で活動するマレーシア人のツァイ・ミンリアン監督作品『I Don’t Want to Sleep Alone』(英語タイトル)の当地での公開が17日から始まる。
(写真はスター紙:左からパーリー・チュア、ノーマン・アトゥン、ツァイ監督)
同作は、首都クアラルンプールで撮影され、強盗に遭って傷を負った台湾人を移民が助けるというストーリー。ヴェネチア映画際でプリミア上映され、7分間ものスタンディング・オベージョンが起こったという評判の作品だ。
同作の公開を機に英字紙スターに出たツァイ監督の紹介記事を読んで、表現者とはかくあるべきかということを考えさせられた。
ツァイ監督は東マレーシアのサラワク州出身。台湾を活動の場に選んだのは、やはりマレーシアには表現に対する制限が大きいことが理由だ。
同作も当地での公開に際し、まず検閲当局から「暴力を振るったり、人を欺くシーンがあり、マレーシア人が心が冷たいように描写されている」という理由から上映禁止処分を受ける。その後、5つのシーンをカットするという曲折を経て、公開にこぎつけた。
映画人として、ここまで表現を曲げてまで当地での公開にこだわったのは、ひとえに故国の人々に自身の作品を見てもらいたいという一念だ。そして、当地での検閲当局との対話への道を開きたい意図があることをスター紙に語っている。
実は、ツァイ監督は05年当地で行なわれたアジア太平洋映画祭に出展しようとした『The Wayward Cloud』という作品が、結果的に禁止処分を受けたことが故国マレーシアの検閲当局ともっと話し合いたいと思うきっかけとなった。
「映画人として、誰でも自分の作品に挟みを入れさせたくないのは当然だが、ここで上映をあきらめてしまったら検閲について考える機会がなくなってしまう」
一度は去った故国だが、それでも自分の生まれた土地。
その故国のために立ち上がった、と言える。
紙面では、表現のために“戦う”というニュアンスは使われていないが(直感的に反体制を受け取られるのは得策ではないからだと思うが)、ツァイ監督の心の中では、今回の一連の流れは表現のために戦いに他ならないのではないか。
また、ツァイ監督は台湾の映画祭である金馬賞審査員に同作が「自己中心的」と評されたことで、同賞のノミネートを辞退した。台湾の映画界にも金儲け主義の風潮に一石を投じている。
さて、同作はムティアラ・ダマンサラにあるキャセイ・シネレイジャー、ピクチャーハウスで公開されるとのこと。
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