『Urusan Aizat Amdan』
アイザット(Aizat)
新世代ポップ・ロック・アーティストのアイザット(Aizat)の2作目。ヤスミン・アーマッド(Yasmin Ahmad)の遺作『Taletime』で、主人公ハフィズが歌う「Pergi」などの吹き替えを担当していたアーティストだ。
デビュー作では、ちょっとセンス的に古臭いマレー歌謡的なメロディも散見したが、本作は、オリジナリティが高く、より洗練された印象だ。「Fikirlah」(考えろよ)とスタートしたデビュー作、本作は冒頭の「Years From Now」で、「I Think Too Much」というフレーズが入っているところにアーティストとしての煩悶も始まったのかな。あるのか。
明るくポジティブなテイストとキャッチャーなサビが持ち味となっている前作を引き継ぐ「Susun Silang Kata」や「Mana Oh Mana」、「Senyum」、などの曲に混じって、サウンドに内省的な香りが漂う「Emotion」や「Erti Hati Ini」など表現の幅を広げたことで成長を印象付ける。
蛇足ながら昨年の歌謡賞ジュアラ・ラグで最優秀賞を獲得した「Pergi」を入れず、自作の曲だけで通したところもなかなかプライドがあるところをうかがわせる。(大手レーベルと契約したらこうはいかない)
ただ、アレンジがちょっと大げさな感じもするのも正直なところ。あと、ステージで「Pergi」の後にガンズがカバーした「Knocking Heaven’s Door」なんかやってしまうセンスもいただけないのだが、若いってことかな。
疑いもなくマレー音楽のメロディ・メーカーの一人に成長した観が
ある。
『Lonely Soldier Boy』
Hujan
ロック界の先頭に立っているHujanの3作目。前作『Mencari Konkulusi』は、ミニ・アルバムの観があったものの、地元アーティストとしては、稀なほどのハイペースだ。
さて、タイトルを聞いて、すぐピーンと来る人は、相当なアニメ通だろう。タイトル曲は、『機甲創世記モスピーダ』のマレー語カバーのようだ。(ちなみに作曲は、なんと久石譲!!)ウィキペディアでは、日本での放映は1983年10月から翌年3月とある。海外向けにも輸出されてるようだから、彼らが観たのはそちらのほうだろうが…。
本作もボーカル兼ソング・ライティンターNohの手練手管の才能が光る14曲入り。今回は、際立ったキラー・ソングがない感じだし、使い古したフレーズも散見するが、メロディもけっこう練られているので楽しめた。後半のメロウな曲は、新境地というほどではないけれど、いい味を出している。
話は変わるけど、今年も活躍が目立ったNohが婚約。お相手は、ヒップホップ・グループTeh Tarik CrewからソロになったMizz Nina。彼女のお父さんは、歌うタンスリ(称号)として知られる(?)銀行界の名士アズマン氏と知って驚いてしまった。ちょっとキツそうな女の子なんだけれど、お嬢様だったわけだ。
逆玉成功で、今後もがんばって欲しいNohとHujanである。
『+−×÷』
6ixth Sense
新世代のポップ・ロックバンドの3作目。
個人的には、デビューからモロにインドネシア・ロック・サウンドという点で、避けていたバンドだが、先行発表された「Khatimah Cinta」につられて本作を手にしてみた。本作のレコーディングには、ジャカルタのスタジオも使用されているようで、本人達も意図してインドネシア・ロック・フリークである様子である。
本作から「Yang Sempurnakanku」や「Cinta Yang Sempurna」、「Menyasal」などが、ラジオでオンエアーされ、テレビドラマの主題歌にもなっている。まぁ、こういった曲でのインドネシア・フリークぶりは、個人的には積極的に評価する気はないけれど、コマーシャル的には最も成功したアルバムである。
さて、ボクが注目した「Khatimah Cinta」は、中性的なボーカルがMuseの「Time Is Running Out」を思い起こさせる耽美的な香りのメロディーに絡みつく曲。ゴシック的な耽美がマレー・ハードロックから綿々と受け継がれている泣きの抒情と結びついたおり、この路線でいったらかなり面白いジャンルが出来ると期待させてくれる。