おそらく猫ひろしがいなかったら日本では、存在さえ知られていなかったであろう東南アジア競技会(SEAゲーム、インドネシア開催)が閉幕した。SEAゲームは、東南アジア版オリンピックで、マレーシアをはじめとする東南アジア各国のスポーツ界は、強化の重点を置いている。
マレーシアにとっては、目標を上回る57個の金メダル獲得で総合4位(インドネシア、タイ、ベトナムに次ぐ)となり、一定の成果を挙げた。また、21日に終わった男子サッカー種目で、マレーシアは決勝戦でインドネシアをPK戦(延長戦1-1)で下し、2大会連続で6度目となる金メダルを獲得した。
SEAゲームのサッカー種目は、U-23代表であり、日本と同組である来年のロンドン五輪予選参加チームとほぼ同じ顔ぶれ。今年9月に鳥栖で行われた日本との緒戦を戦ったチームが、東南アジア王者となった。
チームのあだ名は、ハリマオ・ムダ(若き虎たち)。パブリック・ビューイングが行われ、試合直後のニュース番組では、女性キャスターがユニホームを着て登場するなど、文字通り国民の熱狂するニュースとして深夜に歓喜の輪が広がった。
2大会連続制覇は、王者の矜持と貫禄を漂わせるにふさわしい結果だったと、実は言い切れない。なんとも“とらえどころない存在”なのである。
昨年のAFCスズキ杯(フル代表)、そして今回のSEAゲームとマレーシア・サッカー界の伸張が目立つが、その背景にタイ・サッカーの不振がある気がする。時には、難敵として日本や韓国を苦しめ、不動の王者として君臨していたタイが、このところ域内大会では、決勝トーナメントにも顔を出さない。(この辺の事情、誰か教えてくれないでしょうか?)その圧倒的なタイの不在で、第2グループであるベトナム、インドネシア、マレーシアといった国々による覇権争いが始まった。
特にマレーシアは、フル代表よりも五輪世代の強化に重点を置き、U-23代表を常設のチームとしてリーグ参戦させるなどの方策を取っている。ちなみにシンガポールも同様な策を取り、来期からはお互いの国のリーグに参戦する。その成果もあり、マレーシアはロンドン五輪最終予選に勝ち残った唯一の東南アジア地域の国となっている。
さて、ハリマオ・ムダが“とらえどころない存在”であることについて話をしていこう。
マレーシアで傑出した選手を上げるとしたらまず、五輪アジア予選の日本戦で26本のシュートで2失点しか許さなかった守護神GKカイルル・ファーミー。フル代表にも招集されるなど、実力は折り紙つきだ。攻撃陣では、SEAゲームでMFバドルル・バクティアールが3ゴール、FWイザック・ファリス・ラムランが2ゴールといったところ。ただ、優勝チームとして最多ゴール選手を輩出していない(ちなみに最多ゴールは6)ので、堅守のチームのイメージが強い。
さて決勝インドネシア戦は、主力選手4人を欠く布陣であり、開始早々の5分にCKから失点するという苦しい立ち上がり。攻撃陣に個人技がある選手を据えるインドネシアに対し、マレーシアは、カウンター攻撃でもマレーシアの守備陣は、自陣から離れないほど、ガチガチに守る展開となった。
実は、この試合展開には、伏線があった。前哨戦となるグループAのリーグ戦でも両者は対戦しており、そのときは、お互いに引き分けでも両チームが決勝トーナメントに進出が決まる状況だったが、マレーシアは1-0でインドネシアを退けた。無理に勝とうとしたわけではないが、勝ってしまったマレーシアに対し、インドネシアは、死んでも負けられないと、牙を剥いて襲いかかって来た。マレーシアが34分、ゴール前に上がってきたDFアサルディンが地上20-30cmを這ってきたグラインダーのボールにヘディングで反応。意表を着かれたインドネシア守備陣は、同点ゴールを許してしまう。泥臭いと言えば、少しは体裁がいいが、あまりにも不恰好な得点シーンだった。
その後もガチガチに守るマレーシアの姿勢は変わらず。また、ほぼ同民族の隣国という近親憎悪関係国にありがちな、喧嘩サッカーとなり、ラフプレーの連続。(120分で両軍ともファール数が20という多さ)延長戦前半には、両軍とも一度ずつゴールを揺らすシーンがあったが、どちらもオフサイド。終了間際には、インドネシアがゴールを直接狙える位置でFKを得るものの、得点にはいたらず、PK戦となる。
マレーシアとしては、同世代では、東南アジアでナンバー1GKであるカイルル・ファーミーがキーマンとなる展開に持っていけて御の字といったところだった。結局、インドネシアは、ホームの大観衆を前にしたプレッシャーに潰れた。2年前のマレーシアによるSEAゲーム制覇時(1-0)は、相手ベトナムによるOGが決勝点だった。2大会続けて、負けた方は、負けた気がしていない決勝戦だった。
ハリマオ・ムダは、負けないチームとは言えるが、かといって運を味方にできるほどの風格というのも感じられない。戦術も、個人の能力も、タレントも、優れているわけではないが、、常に同チームとして戦っている結束力を土台とし、大量失点しないというGKカイルル・ファーミーの堅守という一点のみに立脚し、その時々の状況を生かしながら勝ちに結び付けてきたチームである。
繰り返しになるが、東南アジア王者であるが、最強とは言えず、本当にとらえどころのないチームなのである。