まさにアジアンハートビートの地〜マレーシアに見る新世代音楽の胎動 後編〜
マレー、中華、インド系、アジアの3大民族からなる国マレーシアで開かれたにクアラルンプール(KL)音楽祭に見るアジア音楽の胎動を、マレーシア在住の音楽ライター、アサネギシがつづるレポート後編。
素晴らしいパフォーマンスを魅せたモーラム(Mohram)に続いて舞台に登場したのは、中国楽器による民族楽団プロフェッショナル・センター・カルチャラル・オーケストラ(PCCO)。音楽監督のチュウ・ヒーチャト氏は香港民族楽団の副指揮者でもあり、楽団自体もシンガポール、香港、豪州で演奏歴があるという。共産主義の本国から離れた華人は、海外でも中国的な伝統を守ることに熱心だったのだろう。曲は京劇など伝統的なものが中心で、今夜の出演者のなかでは異色だったが、10人編成の彼らは民族楽器を紹介しながら高い演奏力を披露。インドやマレーのメロディーを織り交ぜた曲では、聴衆から大喝采を受けていた。
▲まさに民俗楽器のミクスチャーオーケストラ、PCCO
「マレーシアン・クラッシックの夕べ」のトリとなったは、ヴァルナ(Varna)というシタールとアコースティック・ギター、ベース、そしてタブラなどインドのパーカッションという編成。当地で活動する英国人ギターリスト、ジェミー・ウイルソンとシタール奏者サミュエル・J.ダスが中心メンバーで、 Prana名義でアルバムもリリースしている。“ジェミー・ウイルソンのお遊びバンド”といった程度の認識でいた聴衆は1曲目に披露された「Prana Express」で瞠目した。いきなりシタールとギター両者によるロックなみの早弾きバトルが展開されたからだ。先のテンプル・オブ・ファインアーツでもそうだったが、「シタールはゆったりとしたインドの悠久の時を奏でる楽器」という観念を見事にひっくり返してくれた。一曲で聴衆をつかんだバンドは、一転して牧歌的な「Kampunku」へ。マレー語で“ボクの田舎”という意味のマレー語だが、曲はジェミーの故郷である英国の調べ。次にボンベイ・ボサノバと表した曲と、ブリックフィールドというKLのインド人地区をタイトルにした「Brickfield Blues」が続き、ジャンルを自在に飛び越えた曲を披露。特にシタールがブルーズ・ギターのようにむせび泣くところでは聴衆から大きな拍手が沸き起こっていた。最後は「Damascus」というアラブ・ムードを湛えた曲で締めくくり。たった30分で音の世界旅行を楽しませてくれた。
KL 音楽祭では、「ワールド・エスニック・フュージョンの夕べ」と題された2日目にアセアナ・パーカッション・ユニット(Aseana Percussion Unit)というマレー・中華・インドのパーカッションのグループが登場したり、「ジャズの夕べ」と題された4日目でもガンブス(ペルシャ起源のマンドリン)奏者ファリッド・アリ(Farid Ali)と津軽三味線の若き女性奏者、塙(はなわ)智恵の共演がみられるなど“国内にアジアがある国”マレーシアらしいステージが繰り広げられた。
アジアの坩堝(るつぼ)、コスモポリタンのKL、あたらしいアジアの音楽創造地としてマレーシアから目が離せない。(文・写真:アサネギシ)