先日発売された新作『Transkripsi』は、シティ11年目にして初の自身の会社シティ・ヌルハリザ・プロダクション制作のアルバムとなった。シティ自身も総合プロデュースの一画に名を連ね、アーティスト色を強めた作品となった。
まだ情報が十分に出回っている時点でもないし、筆者自身が不勉強な部分も多いのであくまでも「感想ノート」として読んでもらいたいところ。あらかじめ断っておくが、意図的に「全体的にどうか」という部分には触れてない。
ただ言えることは、一作一作変化を求めるシティらしく、多くの挑戦が盛り込まれ、安住するところが少ない。予告されていたようにマレーシアとインドネシアの一線のヒットメーカーを起用した。前作『Prasasti Seni』から連続して参加している作曲家はヤシンのみ。
それでは自身最多となる13曲の大作を曲ごとに述べていこう。
<曲名(作曲/作詞)>
1.Siti Situ Sini Sana (Damian & Lah V.E/Cham V.E)
男性ボーカル・グループ、V.Eによるナンバー。本作で一番キャッチャーで、前作『Prasasti Seni』の軽やかなイメージを継続している曲。ヒップ・ホップ的な味付けが控えめでありながらも効果的。
2.Biarlah Rahsia (Melly Goeslow/Siti Nurhaliza)
本作の目玉であるインドネシアのヒットメーカー、メリー・ゴスローによるバラード。正直言ってメロディーは当地ではありふれた感じ。サビで転調して歌い上げるパートはシティの面目躍如だが、わざわざメリーからもらう曲かというと疑問が残る。
3.Destinasi Cinta (Lin Li Zhen/PSNN)
大御所オウベリー・スウィトの奥方であるリン・リゼンの曲。ロック調で爽快なポップ・ナンバーとなっており、シティにとっては意外にありそうでない曲に仕上がった。中華系の感性がプラスに作用している気がする。
4.Cuba Untuk Mengerti(Tengku Shafick/ Tengku Shafick)
新人作曲家トゥンク・シャフィックによる曲。今回唯一のしっとりした叔情のバラードで、シティの得意とする情感がこもった表現が冴えている。
5.Hidup Penuh Bicara(Yasin/Ewna Hauzyama & Yasin)
本作唯一前作にも参加したアラブ風ポップスの旗手ヤシン(Yasin)の曲。前作の「Lagu Rindu」のようにシティに合わないという印象もなく(あくまでもボク自身の意見)、アラブ風をベースに電子音やサックスなどが交錯する新感覚でヤシン・マジックの全開の佳曲なのだが、一足先にリリースされたヤシン作曲のビンス(Vince)の新作に収録されている「Berkobar -Kobar」の焼き直しに聴こえてしまう。しかし、ジャズに行ったと思ったらアラブ全開になったり、アレンジ的には非常に面白い曲だ。
6.Bila Harus Memilih (Glenn Fredly/ Glenn Fredly)
インドネシアR&B界のトップ・アーティスト、グレン・フレドリーによる曲。今回、有名どころ提供の曲ではヤシンに次いでアーティストらしさが出ている。シティも伸び伸びと歌っており、グレンとシティは意外に相性がいいようだ。
7.Pastikan (Melly Goeslow/ Melly Goeslow)
メリーによる曲。アレンジもメリーっぽさを出そうとしているがシティの唱方ではメリー的な味が出ないのが正直なところ。サビのメロディーは日本人には一昔前の歌謡曲チックに聴こえてしまうので、垢抜けない印象。やはりメリーの曲は本作の最大のウリであり、その出来栄えだけで本作全体が評価されてしまったらシティにとっては悲劇だと心配してしまう。
ちなみにトラックの後半でシティが“自身の曲”としって口ずさんでいるメロディー(次に続くシティ自身作曲の「Hati Berbisik」)はものすごくメリー的なのだが…。
8.Hati Berbisik (Siti Nurhaliza & Aubery Suwito/ Siti Nurhaliza)
シティ自身による初の曲。どうもシティ自身はメリー・メロディーに傾倒しているようなで、この曲で表現しようとしているようなのだが、それっぽっくならない。この辺の答えをじっくり聴き込んで見つけるのも本作の楽しみかもしれない。
9.Rupanya Kita Serupa (Cat Farish/ Cat Farish)
今や大ブレークした・がある男性ボーカル・グループ、Ruffedgeのキャットによる曲。キャッチャーでケレン味がある曲を想像していたが、意外に地味な印象。しかし、シティがジャズ・ボーカルっぽいハイトーンを多用し、軽やかに歌っているところが新鮮。シティが歌はなければいけない曲ではないが、大物らしいお遊びとしては出色の出来だ。
10.Tampa Dendam Di Hati (Erwin Gutawa/Habsa Hassan)
初顔合わせのエルウィン・グタワの曲。ミドルテンポでしっとりとした曲調。ありがちなメロディーでありながら、シティらしい歌い上げの使い分けでメリハリが利いた曲に仕上がったいる。
このトラックの後半でもスタジオとおぼしき状況で次に続くシティ作曲のメロディーの原型を口ずさんでいる。
11.Intrig Cinta(Siti Nurhaliza/Loloq)
シティ作曲の明るく元気なポップ・ナンバー。ちょっと先輩女性歌手ジアナ・ゼイン(Ziana Zain)の昔のヒット曲に似ている。
12.Impiankan Nyata (Abdul Rahman Bachik, Firdaus Mahmud/Rauf)
クレジットからして彼女のプロダクション会社お抱えの作曲家らしい。前作の軽やかに歌い上げるテーストを引き継ぐ曲だが、印象的なフックがない。
13.Bisakah (Aubery Suwito/Tresh RS)
アルバムの最後を締め括る当代のヒットメーカー、オウベリー・スウィトの曲。しっとりとしたバラードなのだが、この曲もサビが日本の歌謡曲っぽさがある。終章に向かって情念的に歌い上げるメロディーというマレー・バラードの黄金パターンなのだが、絶頂の部分でメロディーがフラットしたりして予定調和から外れる“ゆらぎ”がある。手練手管のオウベリーの意図なメロディー・メーキングの技なのか、シティの超絶したテクニックなのか、ボクには判断出来ないが簡単には評価は下せない曲だ。
*番号はあくまでも曲順で、トラック番号とはことなる可能性あり
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こんにちは。私のような音楽にまったく造詣のない人間にとって、このような「羅針盤」があることはありがたいです。
シティがおしゃべりしている部分が多かったですね。こういう演出、日本でやってもすごいオシャレだなーと私なんかは思うのですが、よくあることなんですか?
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あっすぅさん、こんにちは。
実を言うと曲ごとの感想ノートって、ただ自分にとって便利なだけで書くのです。日本人でもかなりの通なファンがいるシティの場合、いきなり全体の総評を書くと異論がわんさかでてくるので。(苦笑)
他のアーティストの場合は、現地的にみてこんな感じ、と総評は書きますが。
今回のおしゃべりは、シティ自身の曲の創作ノートみたいな感じですね。シティが自身のメロディーをハミングして見せるときに「へへへ」と笑うところが“すっぴん”でいいですね。