会場となるシャー・アラム・スタジアム。伊藤選手にとっては、ペナン所属時代から2度目。思えば11年前、五輪代表が28年ぶりのアトランタ五輪出場を決めた場所。そのとき日本中ならず、マレーシアをも沸かした前園、中田英、そして城もピッチを去った。
今でもこのスタジアムは、セランゴールがホームとしている場所。
セランゴールのサポーターは熱く、一昨年は2部にあたるプリミア・リーグで、昨季はスーパー・リーグ(MSL)残留のプレーオフに回った元強豪を叱咤してきた。しかし、この夜に集まった観客はせいぜい500人程度。やはり人口流入が激しい首都圏の州。チームが不甲斐ないと、移り住んだセランゴールよりも、自分の出身州を応援して、ファン離れも激しいのかもしれない。
余談だが、今季から試合開始時刻が8時になる改革が始まり、子供連れでの観戦が多いファンにとっては朗報だったのだが、この夜は国営放送による生中継があることで8時45分の開始に変更。7時からスタジアム入りしてしまったので、思いっきり割を食った。どの試合に中継が入るかはリーグ情勢によるので、スケジュールは直前にならないと決まらないのだが、せめてスタジアム内では予告をしてもしいものだ。
試合前には、マレーシアとブルネイの国歌斉唱。国内リーグとはいえ、国際試合のしきたりは守られる。伊藤選手もブルネイ代表の一人なのだ。
セランゴールは外国人を起用しない方針で国内若手で固めた布陣。リーグ改革で、外国人の登録は4人から、3人に減ったため、思い切って国内選手重視の長期強化策に出ているチームも見受けられる。
対するDPMMは、助っ人の伊藤に加え、生え抜きのクロアチア人DFレーン・クマールが先発。ちなみに21歳以下の選手を先発に起用しなければいけないため、総合力のないチームは交代枠のひとつを前半に切らなければいけない。DPMMでも、前半10分ぐらいで21歳以下を交代させているという。こうなると交代枠の実質は2つという戦い方をしなければいけない。
試合前に伊藤は「8割はディフェンシブでいく」と話していた通り、試合開始からセランゴールのペース。ボールの起点となるべき背番号10の伊藤にボールが集まらない時間が続いた。それもそのはずで、DPMMに伊藤が呼び出されたのは開幕5日前。戦術も徹底していないのがチーム事情だった。
前半DPMMは、30分台までDFレーン・クマールのDFラインの統率でセランゴールの攻撃をしのぐ。しかし、37分、ゴール前の混戦からクリアーし切れなかったこぼれ球をセランゴール、シュクール・アダンのミドル・シュートが決まり、先制点。伊藤のクリアーが半歩及ばなかった。
後半に入ってもセランゴールのボール支配が続き、65分に味方DFの影で、GKがコースが読めなかったボールを押し込まれ、2−0とDPMMを突き放した。
70分台からはDPMMも次第にボールをコントロールし始め、伊藤にもボールが集まり始める。82分にFKを得たDPMMは、直接ゴールを狙い、相手GKがはじいた球をハルディがシュート。再び相手GKがはじいたこぼれ球を途中出場のファドリン・ガラワットが押し込んで、2-1とした。ちなみにDPMMのゴール後はスタジアムは無音。MSLで戦う限り、どこでも完全アウェイなのだ。
後半はカウンター狙いの速攻に切れが出始めたものの、DPMMの反撃もこれまで。
伊藤もゲームを通じてFKを蹴り、2度直接からゴールを狙ったが、得点には至らなかった。
試合を通じて感じたのは、外国人FW頼りで、前線にボールを放り込むだけのサッカーから、ちゃんと中盤でボールをつなぐ方向に向かい始めている。今季はセランゴールだけでなく、リーグ全体もその流れに向かっている観がある。ただ、いかんせんゴール前のボール処理や決められるシュートが決まらない稚拙さがあるが、それもチームが仕上がっていく過程で向上してくるだろう。
外国人選手以外は、“いてもいなくても同じ”という昨季よりも、個人的には面白くなった。
DPMMも国内では強豪とはいえ、人口30万人程度の国のチーム。人材が豊富だとはいえないし、まだマレーシアのチームと伍していけるレベルではないのも正直なところ。
変動期にあるMSLで、そして成長途中のDPMMで背番号10の伊藤選手が、中盤が必要なサッカーへの変貌でどんな貢献をするのか興味は尽きない。
DPMMの次戦は、27日、ホームで首位のペルリスを迎える。