唯一無二のソウルボイスシンガー、ニン・バイズーラ(Ning Baizura)の欧州デビューを目指した新作英語アルバム『East To West』である。
本作は、ローカル市場向けの『Always』(97年)、上田正樹の妻であり、プロデユーサーである朝本千可の手による日本市場を目指した『Natural Woman』(01年)に続く、彼女にとって3作目の英語作である。
今のマレー音楽界を見回してもマレー語のメインストリームに身をおきながら、これだけ野心的に活動している人はいない。やはり、シティ・ヌルハリザ(Siti Nurhaliza)とは違う意味で、マレーシアを代表するシンガーである。関係ないけど、最近英国人と結婚し、マレーシア人コミュニティーも大きいロンドンにレストランを開いたりしているところもなかなかスケールの大きい人である。
さて、本作はイタリア人ピアニスト兼プロデューサーと組んで制作されたもの。作曲陣にもイタリア人とおぼしき名前がクレジットされいる。
正直言って、マレーシア音楽専科のボクがこの作品について語る能力はないのだけれども、もちろんマレー語アルバムとはまったく違うサウンドであるし、英米主流の英語ポップとは一味違った作品に仕上がっているとは言える。(ボクは、『Natural Woman』は未聴なのだけれども、そっちはどうだったのだろうね…)
彼女のMySpace試聴できる音源「Age Of Pollution」を聴いてもらえば、余計な解説は要らないだろう。
でも、ちょっと古くさいサウンドもあるし、どこかで聴いたことがあるアレンジも散見しているのが気になるが、すべてが彼女にとって新しいスタイルであり、1曲1曲が個性的で飽きさせない構成だ。ただ、彼女の味であり、一聴して彼女とわかるちょっとくぐもった感じのボーカルを押さえ気味なのが気になるところ。インドネシアのアングン(Anggun)なんかは、欧州進出してもどうしようもなく個性的な声は健在なので、もっと自信を持って武器にしてもいいと思うのだが…。
それでも、収録曲の「Water And Salt」では、押さえ気味でも“ニン節”を披露しているし、「Assassina」ではもともと透明ではないくぐもった感じの声を思いっきりハスキーにして荒々しく歌っているところにアーティストとしての意地が見て取れる。あと12曲中1曲だけ、マレー語を英語化した「Drama」が入っているが、もっとマレー・テイストで本領を発揮した曲を選ぶべきだ。
アジア人の彼女が欧州を相手に健闘していると評されるのかは別として、ファンには「欧州人がニンをプロデュースするとこうなるのか」という部分には大いに楽しめる作品だ。個人的には、メランコリックな味のする「Again」や「Mother」なんかが、アーティストとしてのレベルを押し上げてくれる曲だと思う。
それで肝心の欧州市場でこの作品がどうなのか気になるのだが、くだんイタリア人プロデューサ、一生懸命やっているようだけれでも、まだ欧州でリリースしたとのニュースは届いていないなぁ。
もちろん期待して待っているよ。