もうひとつ『15・マレーシア』(サイト)から。
昨日(9日)公開の「Meter」にタクシードライバーで主演しているのは、カイリー・ジャマルディン氏。この人、アブドゥーラ前首相の娘婿である。
氏は、ジャーナリスト出身で、前首相の娘、ノリさんと結婚し、03年から前首相の秘書を務める。08年の総選挙で下院議員に当選し、政治家として道を歩んでいる。そして、与党最大政党・統一マレー人国民組織(UMNO)の青年部リーダーにも抜擢され、言い回しが今ひとつ冴えない日本政界風に言えば、“政界のプリンス”である。
実際、かなりの野心家の印象がある。
さて、作品ではカイリー氏は、当地では初の“議員タレント”的なエンターティナーぶりを発揮している。堅実なことこの上ない当地において、真面目じゃなければいけない政治家が、おバカをやっているのがこの作品のミソ。
ちょっと解説しておくと、チェルシー・ファンの乗客にブチ切れるのは、氏が地元サッカー協会の副会長を務めているから。また、乗客役のジェイソン・ロー(Jason Lo)と共にサッカー・オーディションのテレビ番組企画から生まれたMyTeamをプロリーグ入りさせたりしている。それにしても自ら属する協会を馬鹿呼ばわりしているところも型破り。
また、彼は今年廃止が決まってしまった義務教育での理数科目の英語授業推進派であり、そこんところで笑いが生まれている。
最後のマレー懐剣、クリスの飾りを乗客に気前好くあげちゃうシーンもかなり象徴的。
氏が現在リーダーのUMNO青年部は、前任のヒシャムディン部長(現、内務相)がクリスを掲げてポーズを取ったことが、他の民族の反感を買ったことがある。
また、クリスの飾りを受け取った乗客は、このプロジェクト第1作目『Potong Saga』にも出演している「Negarakuku(オレのネガラク)」で物議をかもし出したNamewee(Wee Meng Chee、黄明志)。かなりブラック・ユーモアが利いているなぁ。
カイリー氏本人も自分がでしゃばりであることが反感を買っていることを計算に入れて、かつ過去ではなく、現在の自分を笑っているところが白眉。この突きぬけ度、マレーシアでは革命的でさえある。
最後になってしまって申し訳ないが、作品を作ったベンジー・リム(Benji Lim)とバヒル・ユソフ(Bahir Yeusuff)は、テレビ畑の人とのこと。カイリー氏を引っ張り出した企画力とハジけさせた手腕に脱帽だ。