9日、動画投稿サイトユーチューブ上に発表した動画で物議を醸し出してきたラッパー、“Namewee”こと黄明志(Wee Meng Chee)氏が、連邦議会内のロビーでナズリ・アジズ首相府大臣と面会が実現した。
(写真は、二人の面会を伝えるスター紙記事)
黄氏は、07年当地の警察や公務員、教育システムを批判する楽曲『Negarakuku』(オレのネガラク)や今年8月にジョホール州の小学校校長が非マレー系生徒に対して差別的な発言をしたことに対するを批判する動画を動画投稿サイトユーチューブで発表してきた。
ナズリ大臣は、政府内の要人の仲で最も黄氏を批判してきたひとり。『Negarakuku』が議会で話題になったときには、当時台湾に留学中だった黄氏に対し、「帰国したら法の裁きを受けるべき」と発言していた。
地元英語紙スター(記事はこちら)が伝えるところによると面会を果たした両者は、“歴史的”とも言えるかもしれない政治と表現者の間の「和解」を果たした模様だ。
ナズリ大臣は、「お騒がせラッパーNameweeは、人種差別主義者ではなく、メディアによる間違った扱いにより、大きな誤解を受けてういる若者だ」と語っている。
さらにナズリ大臣は、先の差別発言校長批判の事件で、黄氏が無罪であることを明言したほか、「黄氏の本分は、ミュージシャンであり、メッセージを伝えること」、「黄氏は政治家ではなく、彼が望まない当事者の問題に引き出すべきではない」と発言している。
ボクは、この発言に膝を打ってしまった。今までアーティストや表現者を問題視して政治の場に引っ張り出してきたのは、政治家だったからだ。アーティストの表現に対して、政治家は、「大衆に受け入れられない」とか「気分を害する人がいる」と幾度もなく発言してきており、そのくせその意見は政治家個人のものなのか、具体的に誰のものかの明言もない場合ばかり。そして、いつのまにか当地の表現は、政治家の顔色をうかがうものばかりになってきた。
ナズリ大臣のコメントは、黄氏が騒動の初期に問題の動画を削除したという事情があるから「引き出すべきではない」という意味なのだろうが、それでも二人の対談を“歴史的”と表現したくなるボクの感覚もわかってもらえるだろう。
今回の会談は、どうも黄氏が制作を進めている1・マレーシア(ナジブ首相が提言する人種融和のスローガン)をテーマにした映画作品に対する国家映画振興公社(FINAS)への補助申請が認められなかったことへを陳情するためであったようだ。黄氏は、またナジブ首相への面会を求めた。
これに対し、ナズリ大臣は黄氏に閣議での議題にすると請合った。
そういった事情をみると為政者に擦り寄ってきたから寛大なところを見せる茶番劇や総選挙が近いという観測も日増しに高まっているなかの人気取りともみられなくはないが、政権批判の矛払い役として政敵と戦ってきた強面のナズリ大臣が態度を変えたのだから、表現への自由に風穴が空くことを期待してしまう。
もうひとつだけ付け加えると両者とも当地メディアの「誤った扱い」を批判した。
確かに政治家をいじめられないメディアは、あら捜しでアーティストをいじめるのが得意だ。アーティストもメディアも表現の自由で飯を食っているという意識がなく、権力の走狗になってアーティストを売るようなメディアもある。
ナズリ大臣がそういう腰抜けメディアに活を入れるというのならば、メディア側も襟を正してどうどうと表現の自由のために戦って欲しい。
あと、黄氏が言う愛国心を作品として昇華し、世間に認められるのみだ。
Nameweeの関連記述
「お騒がせラッパーNamewee、再び騒動に」
「『オレのネガラク』学生ラッパー帰国に思う」