すんくじら

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 帰郷二日目。昨日の飲ン方(飲み会)の席で、T氏が「南さつま市に来てみませんか?」と誘ってくれた。夜は飲ン方で予定ビッチリだが、昼間は特になにもないので、その誘いに喜んで応じ、この日は南薩地方の観光としゃれこんだ。
 南さつま市は、文字通り薩摩半島の南部地域だが、鹿児島に住んでいた頃にもほとんど行ったことがなかった。T氏はわざわざホテルまで車で迎えに来てくれ、朝9:30出発、片道約1時間のドライブになった。
 余談だが、鹿児島県でも市町村合併の嵐が吹き荒れており、それまで90以上あった市町村が、現在では50そこそこに激減したそうだ。南さつま市もその一つだが、馴染み深かった地名がなくなるのは悲しいことだ。
 道すがら昔話をしたり近況等を語らい、南さつま市の中心、旧加世田市にある南日本新聞社南さつま支局に着いたのは11:00前。この加世田市は、小泉首相のお父さんの故郷だそうで、首相も幼い頃によく来ていたらしい。でかい邸宅も、穏やかな加世田の町並みに溶け込んでいる。

「杜氏の里」のすぐ近くから東シナ海を臨む。


 支局で一服し昼前に再出発。いよいよ南薩観光だ。雨どころか嵐まで呼んでしまうほどの雨男たる僕のせいか、あいにくの天気。天気が良ければ、遠く屋久島も見えるらしい。リアス式海岸には、奇妙な形の島が点在している。
 最初の目的地、笠沙町の「杜氏の里」に着くまでに、T氏はこの地域の話をしてくれた。「霧島の高千穂連山には天皇降臨の神話が残っているが、この南薩地方にもニニギノミコトが上陸したそうな」とか「この一帯は平地がないので、石垣を組んで防災や垣根としており、今もその風情は残っている」とか。さすがに報道マン、わかりやすい。

笠沙町黒瀬の「杜氏の里」入口


 そうこうしているうちに「杜氏の里」に到着。
 この笠沙町黒瀬地域は、明治時代頃から芋焼酎の杜氏が多数いた、いわば焼酎の故郷である。彼ら杜氏はその技術を持って全国各地へ散り、それぞれの蔵元で活躍し「黒瀬杜氏」と呼ばれ大切にされたそうな。そんな杜氏達が、丹誠込めて焼酎を紡いできた技術を保存・継承する為に建てられたのが、この「杜氏の里」である。
 とんでもない山の中にあるが、芋焼酎の造り方が丁寧に描かれ、昔からの製造器具も数多く展示されている。今ではほとんど機械化が進んだ焼酎造りだが、ここではかたくなな杜氏の姿が見え隠れする。
 出るとき、この笠沙だけでしか手に入らない「すんくじら(※)」という焼酎を買った。渋谷に一軒だけ、この焼酎を飲ませる焼酎バーがあるらしいが、その店も笠沙出身の人がやっているとのことだ。
街灯も一升瓶をかたどっている。
 T氏とも語った。焼酎ブームになって久しく、にわかにうんちくを語る焼酎ファンがいたり、「幻の焼酎」とかいう名目で高価な焼酎を販売している飲み屋もあったりするが、そんなことはどうだっていい。「しょせん、焼酎は焼酎」なのだ。高価な酒ではない。庶民の飲み物なのだ。手軽に気持ちよく酔えて、会話もはずみ、楽しい飲ン方ができ、だいやめ(晩酌)で一日の疲れが癒されれば、それでいいのだ。
 この「すんくじら」は、希少価値があるはずなのにそれほど高価でもなく、決して高飛車に構えてもいない。縁があってこの杜氏の里に立ち寄ることができたから、ここの焼酎が飲んでみたい、ただそれだけなのだ。そんな気持ちのまま、奢らず媚びず、純粋なまでの職人達の心意気を感じて「杜氏の里」をあとにした。

※「すんくじら」は、鹿児島弁で「隅っこ」の意味。まさに日本列島の隅っこにある蔵から生み出されるという、絶妙のネーミングだ。

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ざぼんラーメン

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 市内へ着くなり、最初のラーメンタイム。今回は以前ほどラーメンは食しなかったが、それでも5日間のうち3回食べた。そのうちの第一食目は与次郎ケ浜にある「ざぼんラーメン」。僕が鹿児島在住の頃からある老舗だ。ここは味はもちろんだが、大根の漬け物が食べ放題という点が嬉しい。ほとんどの場合、ラーメンとご飯を一緒に注文するのだが、この漬け物はいいアクセントになってくれる。さっきまで腹ペコだったのに一挙に満腹になり、繁華街にほど近い「いづろ通り(※)」にあるホテルへ。
 この「オリエンタルホテル」は、迎えに来てくれた友人Fが紹介してくれたビジネスホテルなのだが、一泊4,500円という安さ。しかも、彼の勤め先のお得意さんということで、なんと毎朝の朝食までつけてくれた。ありがたや〜、タイガーオートさん。

「さつま温泉」入口。温泉というわりには生活に密着している。


 彼はそのまま仕事へ戻り、僕はというと、昨夜からの疲れがどっと出てきたので、さっそく近くの温泉へ。徒歩10分ほどで「さつま温泉」に到着し、銭湯ほどの値段で温泉を満喫。昼過ぎだったこともあり、中はガラガラでほぼ貸し切り状態。いや〜気持ちんよか〜。早朝からやっており、休憩所もあるのでお勧めです。
 それからしばらく仮眠をとり、夜は当然のように鹿児島一の繁華街=天文館へゴー。

夕刻の天文館メイン通り


 連絡していた後輩Tと待ち合わせる。彼は、鹿児島最大の新聞社=南日本新聞社の南さつま支局長を務めている。仕事の忙しい合間を縫って、約1時間かけてわざわざ駆けつけてくれた。彼の紹介で、まだ若くて威勢のいいマスターと、僕好みのきれいなおかみさん(というにはあまりに若い)がやっているこぎれいな居酒屋へ到着。久々の薩摩料理と焼酎に舌鼓を打ち、話もはずみ大満足。その後Fも合流し三人で盛り上がり、2年ぶりの鹿児島の長い一日は終わりを告げた。
※この界隈は昔から石灯籠が多かったので「石灯籠通り(いしどうろうどおり)」と言われ、それがなまって「いづろ通り」になったそうな。ちなみに、鹿児島が故郷だというのになぜホテル宿泊なのかというと、すでに実家は全部引き上げ、こっちには誰も住んでいないからでござる。

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足湯

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 今回の帰郷は中学時代の同窓会が目的だったが、足かけ5日間は鹿児島にいたので、ヒマな昼間はあちこち出かけた。少しずつ紹介していくとしよう。
 8月10日9時20分羽田発、お昼前に鹿児島空港へ到着。羽田空港〜鹿児島空港はおよそ100分なのに、なぜか自宅から羽田空港まで2時間はかかる。どういうこっちゃ!
 前日ほとんど寝ず、ギリギリの電車に飛び乗ったので少々焦りもあったが、無事に搭乗。機内で新聞を読んでいたら、もう四国は過ぎていた。

鹿児島空港の足湯

 鹿児島空港に着いたら、「足湯んとこいで待っちょれ(足湯のところで待ってろ)」と電話をくれた友人が迎えに来てくれた。彼は高校時代のブラスバンド仲間なのだが、帰省するたびになにかにつけ世話してくれる。空港への送迎はもとより、宿泊所の手配や、仕事の合間を縫って、市内の移動にも車を出してくれることもある。でも、あれこれと話をするわけでもない。久々なのに「高校野球は明後日じゃっど」「ラーメン食うか」といった、たあいもない会話がぽつぽつと続く。だからというわけではないが、かけがえのない、大切な友だ。
 最近鹿児島では、足湯が流行っているらしい。空港敷地内や、ドライブインを初めとする県内のあちこちにできたとのことだ。靴と靴下を脱ぎ、Gパンの裾をたぐりあげて足だけ湯につける。心地いい。旅の疲れが足下から癒される。なかなかの企画だ。

桜島と鹿児島湾(錦江湾)を模した湯船周り

 そもそも鹿児島は温泉の上に町があるといってもよく、銭湯と言えどもすべて温泉だ。都内の銭湯よりも安くで温泉を楽しめるし、ちょっと田舎に行くと、自宅に温泉をひいている家庭もあるくらいだ。来鹿の際は、なにはともあれ温泉とラーメンをお勧めする。

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帰郷

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 8月に入った途端に夏が来ぬ、ってな感じですねぇ。そんな暑い中、明日から5日間ほど、さらに暑いとこに行ってきます。我がふるさと、鹿児島です。

夕暮れのMotonolian Blue vol.1


 実は、上京以来25年、お盆の帰郷というのは始めてなのですが、この時期に帰ることになったのにはわけがありまして。
 今年のまだ寒い時期、一本の電話が携帯に入りました。「吉野中学校卒業の○○といいますが、覚えてますか?」。いきなりそんな電話が、しかも携帯にかかってくると、だれでもヒキますわな。「またどこかで名簿かなにかを見てかけてきた、証券会社とか先物取引の勧誘じゃろ」と、全く相手にせずそっけない受け答えをしていたんですが、どうも様子が違う。
 よくよく聞いてみると「僕らの代は吉野中学校の30期生にあたるんですが、今年は中学を卒業してちょうど30年目なので、卒業以来初めての同窓会を開こうということになりまして」云々。
 自分が30期生であることも、卒業後30年目だということも、とうの昔に忘れていたところへの晴天の霹靂。途端にむちゃくちゃ懐かしくなり、とは言っても電話の主の顔をすぐには思い出せず、とりあえず先ほどつっけんどんにした詫びを入れ、むろん即効で「ぜひ出席します」旨を告げました。
 高校時代の友人は、ブラスバンドを通じて今でも会う機会はけっこうありますが、中学時代ともなるとほとんど音沙汰なし。というか、自分自身、高校卒業後転々としており、幹事も「探すのに苦労しましたよー」と言っていたくらい住所不定状態だったので、この一本の電話はすごく嬉しかった。
 卒業アルバムを押入の底から引っ張り出し、当時のことを少しずつ思い出してみました。ほとんどはおぼろになっているんですが、記憶の底に隠れている思い出って、けっこうあるもんですね。当時聞いていた曲とかを、それこそ何十年かぶりに聞いてみると、当時の風景や匂いが思い起こされ、懐かしい気持ちを通り越して、何とも言えない幸福感を感じたりします。

夕暮れのMotonolian Blue vol.2


 始めて音楽に触れた吹奏楽部、始めてギターを教えてくれた友人、一緒にバンドを組んだ連中、受験勉強を一緒にやったクラスメート、初恋の人、卒業後もなにかにつけお世話になった恩師…。
 初恋の人をイメージした「木屋町の白い花」という曲も作ったくらいなので、そういう意味でも会うのが楽しみ&ちょいとコワさがあります。冒険カードを引くか、友情カードを引くか、はたまた封印カードか。でもまぁ、それをさっ引いても、旧友や恩師に会えるってことは、何物にも代え難いわくわくした気分になります。
 桜島と西郷どんに挨拶し、焼酎を飲みながら友と語らい、つかの間の休息をとってこようと思ってます。

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