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無言のセリフの謎

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 辺境コトバ道

 久しぶりに吉川英治「三国志」を読み始めた。
 最初に読んだのが中学生のとき、2回目が10年前大連に滞在していたとき、そして今回が3回目となる。
 いかにも大時代的なコテコテの芝居調だが、それはいいとして、気になったことが一つある。
 会話のそこかしこに沈黙を表す「……」がある。
 劉備が相手の質問に答えたくないとき。劉備が母に説教をされているとき。
 それから、劉備の母が日の出に神々しさを感じ、思わず手を合わせるシーンでも、「……」とわざわざ「無言のセリフ」がある。
 他が大時代的なだけに、その部分だけ妙に「今風」に感じられ、違和感がある。
吉川英治がこの小説を書いたのは昭和14年ごろらしい。そんな昔から「……」はあったのか。
 私はてっきり、さいとうたかをが「ゴルゴ13」において発明したものと思っていた。
 だいたい、この「無言のセリフ」とはいったい何なんだろう?
 私はいわゆる古典文学をほとんど読まないので、書棚には夏目漱石が数冊ある程度だが、「坊ちゃん」「それから」「吾輩は猫である」をパラパラっとめくっても、見当たらない。 いつ、誰が始めたものなのだろう?
 大衆文学にはもっとずっと昔からあったのだろうか?
  外国文学にはこんなものがあるのだろうか?
 とりあえず、手が届くところにあったドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」、ヘッセ「デミアン」、エイミ・タン「ジョイ・ラック・クラブ」では見当たらなかった。
 英語やフランス語で読んだ本は数えるほどしかないが、それでも”……”なんて奇妙なものはなかったように記憶する…。
 誰か知ってる方、教えてください。

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Comment

  1. 義姉 より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1)
    「誰か知ってる方、教えて下さい」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・」
     そう言われてもねえ、という気持ちだったんだけど、ふと思い出して手持ちの本を見てみましたよ。楽しく読んだ夢野久作「少女地獄」(角川文庫)、この本(同作家の昭和11年に発表された4つの短編が収録されています)には、「・・・・・」の完全対応の例はそれほどではありませんが、「・・・・・」で始まるせりふがいっぱいです。言いにくいことを切り出す時とか、ちょっと考えてから答える時とか、相手の反応を見ながら念押しする時とか、色んな使われ方をしています。「・・・・・」始まりのセリフって話し手の表情が見えるようで、なんかビジュアル的効果を感じるのね。仮説ですが、戦前のいわゆる大衆小説に「・・・・・」が多く使われて、それが後に漫画・劇画に受け継がれていったのかもしれませんねえ。こうした小説にありがちな荒唐無稽なストーリーも漫画・劇画に通じるところがあるし。
     同文庫に収録されている「女坑主」は無言の「・・・・・」がバッチリ出ている作品。資金を提供してくれると信じていた、やり手で美人で冷酷な(このあたりがもう劇画的)女炭坑会社社長にだまされた左翼青年が警察に引き渡される場面です。
    「ホホ。お気の毒でしたわね」
    「・・・・・・・・・・」
    (中略)
    「ねえ。女だと思ってタカを括っておいでになったのがイケなかったんですわ。ええ」
    「・・・・・・・・・・」
    「ホホ。死にたくても死ねないようにして差し上げるって申しましたこと・・・・・おわかりになりまして?・・・・・・・」
    「・・・・・ド・・・・・毒婦ッ・・・・・・」
    (後略)
    昭和11年よりも前に出現した「・・・・・」を発見した方、お知らせを。

  2. タカノ より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1)
    「……ド……毒婦ッ……」!!!
    す、すごいッ!
    まさに劇画の世界ですねえ。
    なるほど、「大時代的なセリフまわし」というのも、現代の小説と比べると
    違和感があるけど、マンガなら今でもふつうですね。
    「……」がヴィジュアル的だというのも、言われて見ればそうで、おもしろい。
    言葉では表せない時間のよどみを「……」に託すとそれがヴィジュアル的になる、と。
    やっぱり、ビルマ文学にはないですか?

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