昭和の名優逝く

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 実力派名優、緒方拳さんが逝きました。
 僕が最も好きな俳優の一人です。
 以前このブログにも書きましたが、NHK大河ドラマ「風と雲と虹と」で、加藤剛さんとのダブルキャスト的な名演で初めて緒方拳さんを見たとき、役者さんってすごいと思いました。
 緒方拳さんは、ご存じのように「源義経」「復讐するは我にあり」「楢山節考」「火宅の人」「おろしや国酔夢譚」「瑠璃の島」等、数えられないほどの映画・ドラマに出演されました。出世作「太閤記」や「鬼畜」の名演はだれもが知るところですが、僕が一番衝撃を受けたのは、「破獄」というNHKの単発ドラマでした。
 捕らえらても捕らえられても脱獄を繰り返す主人公。捕縛されるとあっけないほど素直に縛につき、さらに厳しい監獄行きになるのに、また脱獄を繰り返す。手枷・足枷をされても、口に含んだ味噌汁を少しずつ垂らして枷を錆びさせ、脱出不可能な極寒の収容所も、巨大な虫のように壁を這いつくばり、また脱獄する…。
 脱獄してシャバに戻るのが目的ではなく、脱獄すること自体が生きる目的でもあるかのようなその主人公を、鬼気迫る演技で、すさまじくも見事に演じていました。偶然に見たドラマだったのですが、緒方拳さんの顔や目がまぶたの奥にこびりつき、ある種の怖さも感じ、長年経った今でも忘れられません。
 昭和の名優が、次から次へ逝ってしまいます。なんとも哀しいことではありますが、今は緒方拳さんのご冥福を心からお祈りするのみです。

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