AISA（アイザ）、社名の由来

　最近、新しい得意先だけでなく、長い付き合いの人からも、
「AISAってどういう意味なんですか？」
　とたずねられることが増えてきた。
　そういえば、会社の表玄関であるホームページにも、それらしいことは何ひとつ書いていない。というより、更新そのものが、数年まえに途絶えている……。
　社名の由来にはいろんなエピソードが絡んでいるのだが、おおもとは、あるバンドのサポートをやっていたことに端を発する。
　マネージャーの真似事らしきことをするには、ひとまず連絡先がいる。それも、個人より団体の方がいい。
　歌のないインスト（インストゥルメンタル）バンドのメンバー2人は、どちらも大陸的なフレーズやハーモニーを大事にしていて、その片方が
「アジアをひっくり返すのはどうだろう。つまり、AISA」
といった。
　当時のわたしは、事務所のネーミングなんてどうでもいいだろうと思っていたので、「ミュージックファクトリー」だの、「音楽工房」だのを押してみたが、トイレで適当に閃いた程度のアイデアはあっさり却下された。
　実は、そんな名前の事務所や音楽関係会社が世の中にはゴロゴロある。今思えば却下されて本当によかった。
　さて、大陸大好きな2人により、バンドの事務所名はAISAになった。
　読み方は、アイザ。
　しかし、そんな大層なネーミングにすっかり名前負けで、アジアどころか国内をライブで回るのが精いっぱい。しかも、メンバーの1人は極度の飛行機嫌いである。機材車で日本中を回りながら、東京で定期的にライブをやっていると、ある日、まったく違うところから道が開けたのである。
　初の海外は、大陸の東南端。マレーシアだった。
　現地の有名なミュージシャンとやりとりすることも決まり、記者会見やら、テレビ出演やら、スタジオセッションやらに追われたが、思わぬ誤算が1つだけあった。
アジアを逆さまにしたからAISAと書いてアイザ……、というのは日本語の理屈で、彼らには「アイサ」としか読めない。
　一応あれこれ説明を試みたが、乏しい英語力とグローバルスタンダードを前に、海外では「名称変更」という玉虫色で落ち着くことになった。
　その後、わたしは出版社を辞め、事務所を法人化させる格好で独立した。
　今から5年前の10月である。
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　結果的にバンドは解散してしまったが、コンサートの企画やプロデュースのノウハウは「酒井松道 尺八リサイタル 尺八の系譜」が去年の文化庁芸術大賞を受賞したことにつながっている。
　マレーシアは、音楽ではビジネスにならなかっだけれども、マレーシアと日本に会社を持つ社長たちと知り会えたおかげで、パッケージやデザインの仕事に結びつくようになった。
　そして、古巣の編集仕事は音楽書籍をメインにしつつ、山やゴルフに手を広げてしまうのは、これまでの流れの通りである。
　ということで、最近はこれらの経緯をギュッとまとめて、
「アジアと仕事がしたかったので、アジアを逆さまにしてみたんです」
と、つとめてサラッということにしている。