天空の草原のナンサ

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 先週、久々に映画館へ足を運んだ。高田馬場の早稲田松竹で上映される「天空の草原のナンサ」を見るためだ。この映画館は、20日から今月一杯は館内改装で休館になるため、ギリギリのタイミングだった。
 モンゴルの写真を紹介してくださった岡本さんの勧めだったのだが、恥ずかしながら僕はこの作品を知らなかった。
 この映画は、映画と言うより、日常をそのまま綴ったドキュメンタリーといった色合いが強い。何か大事件が起こるでもなく、わくわくするような冒険が待っているわけでもない。実に淡々とストーリーは流れる。
 しかしながら、この日常こそに大きな意味がある。
 自然とは、家族とは、生きるとは、愛とは、優しさとは…を淡々と、実に平凡に描く。「見失った何かをきっと見つけられるでしょう」などといった陳腐なコピーフレーズでは表現しきれない「なにか」がそこにはあった。どこまでも続く大草原の中で暮らす一家の、なんとつましいこと、そして、なんて暖かいこと。自分よりも弱いものを守ろうとする、でも自分もまだ幼い少女の、なんとたくましいこと。
 遊牧民の移動式住居「ゲル」を中心に、なんのてらいもなく、ごく自然にカメラが追う。
 しかしながら、上映終了後、涙があふれる。なぜだかわからない。
 なぜだかわからないから、日常なのだろうか。

<photo by Yoshio Ogura>
 ストーリー等については詳しく触れない。モンゴル遊牧民として生まれた6歳の少女ナンサを中心とする一家のたあいもない日常が、一匹の子犬ツォーホルとの出会いから微妙に変化していく、といったところだろうか。僕の世代では、アメリカ大西部を舞台にした長編ドラマ「大草原の小さな家」をなんとなく思い起こさせるが、モンゴロイドの血のせいか、より身近に感じられた。
 馬頭琴や中国箏を織り交ぜたBGMも、風景にうまく溶け込んで心地よい。
 6月中旬まで東京飯田橋のギンレイホールでも上映されるので、時間が許す限りもう一回見に行こうと思う。また違った感情が呼び起こされるかもしれない。
天空の草原のナンサ(原題:The Cave of the Yellow Dog)
・監督脚本:ビャンバスレン・ダヴァー(2005年 ドイツ 93分)
・出演:ナンサル・バットチュルーン一家
・オフィシャルサイト:http://www.tenku-nansaa.com/

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