すてきなマイク兄さん
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最終更新日:2012/05/28
B系友人図鑑
私の義兄はマイク・ノックという、オーストラリアを代表するジャズ・ミュージシャンである。
私の連れ合いの姉−−このブログでも「義姉」の名で登場する人−−のダンナなのだ。
義姉は、まったくの偶然だが、ミャンマー研究者である。ミャンマー文化についての研究では日本の第一人者といえる。
ミャンマー文学を2冊日本語に訳しており、翻訳者としても活躍中だ。
彼女の仕事については、またあらためて紹介するとして、マイク兄さんである。
義姉は多趣味な人であるが、中でも小学生の頃からものすごいジャズとプロレスのファンだった。女性としてはかなり珍しい。
(彼女はシドニー在住のため、なかなか会う機会はないが、メールや電話で、ミャンマーとプロレスの情報交換を欠かさない)
義姉は仕事でシドニーに滞在していたおり、ライブハウスでマイクの演奏を聴いた。それがすごくよかったので、名前を聞くと、マイク・ノックとわかった。
しかも、彼女はマイクを知っていた。なんと中学生のとき、「スウィング・ジャーナル」誌でマイク兄さんのインタビューが載っていたのを記憶していたというのだ。
それがなれ初めというわけで、名前を知ってから二十数年かけて出会ったという稀有なカップルである。
マイク兄さんは、もともとはニュージーランド出身。
バークレー音楽院では、ナベサダこと渡辺貞夫と同期だった。
同じフラットの一階と二階に住んでおり、当時、ニューヨークにやってきたばかりで、まだ英語もおぼつかなかった頃のナベサダが親しくなった最初の友人であるという。
アメリカ時代には、当時の有名なミュージシャンと共演した。
その後、オーストラリアに拠点を置き、今では大学で教えたり、若手の指導にもあたっている。作曲にも熱心だ。
ナベサダ以外にも、有名なジャズミュージシャンと交流があるようだが、残念ながら、私にジャズの知識がないので、よくわからない。
私が唯一知っていた名前はハービー・ハンコックくらいだ。
惜しいことに、オーストラリアのジャズは日本では知名度が低い。
マイク兄さんもジャズマニアの間では知られているが、一般にはまだまだである。
それでも、昨年、日本で「チェインジング・シーズンズ」というCDをディスクユニオンから発売した。
「スウィング・ジャーナル」誌でも絶賛されていたが、私のような素人にもたいへんわかりやすい、リリカルな作風・演奏である。
リリカルなんだけど、ところどころに現代音楽風のちょっとはずしたような音が入っている。そこがマニアにも評価されるゆえんなのだろう。
しかし、私にとっては、プロレス好きの義姉の夫であり、気さくなおじさんである。
日本に来たときにはうちで一緒にトリ鍋をつついて、和気あいあいとしてるし、そんなにすごい人だということがなかなかわからない。
その翌日にナベサダに会いに行ったりしてるのだが。
マイク兄さんとしても、妻が日本人なので、できるだけ日本で演奏活動をしたいと思っており、旧友のナベサダと旧交を暖めるついでに相談したのである。
「サダオ、ねえ、日本でライブやるのにいい場所教えてよ」みたいな話をしたのだろう。
しかし、音楽に疎い義父母はそれを聞き、「日本に来てまで職探しをしているとは、あの人は生活に困ってるんじゃないのか」と心配していた。
なかなか「いい話」である。
マイク兄さんは私たちにもすごく気をつかってくれていて、素晴らしい義兄なのだが、
唯一の問題は、彼がプロレスに対し、偏見を持っていることである。
私はときどき義姉に「週刊プロレス」や「週刊ゴング」を送るのだが、それを見ると、マイク兄さんは顔をしかめるらしい。
この前来日したときも、夕食の席で私に「プロレスのどこがおもしろいのか? あれは八百長だろう」と詰問してきた(もちろん、英語で「ヤオチョー!」と言ったわけではないが、そういう意味のことを言った)。
しかし、私もプロレス擁護運動歴30年である。
私はこう答えた。
「あれはジャズと同じもんなんですよ。ほら、ジャズも一緒にプレイしている人と腕を競いあうでしょ? それも観客の前で。だけど、自分だけ目立とうとしてもいけない。相手のよさを引き出しつつ、自分の技を見せる。実際に、日本ではプロレスの試合がうまくかみあっているときの状態を『スウィングする』って玄人筋は言うんです」
もちろん、私がこんな流暢な英語をしゃべるわけがないのだが、かっこよく要約すると以上のようになる。
すると、マイク兄さんは深くうなづいて「なるほどねえ」とにっこりしていた。
私が著名ジャズミュージシャンにプロレスについて講義をしたという麗しい武勇伝だが、そんな愚弟を暖かく見守ってくれる人なのである。
というわけで、みなさん、ぜひ、マイク兄さんのCDを聴いてみてください。
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Comment
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高野さん、素朴な疑問があります。
この素敵なマイク義兄さんを
B系友人図鑑に入れるのはどんなもんでしょうか?
私の勘では、義姉さんは十分に資格があるように思えますけど。。。
ちなみに上とか下とかの話ではないことは、お察しいただけると思います。
ただ単にカテゴリーの問題というか(笑)
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素敵なノック義兄さん、私がかつて聴いたのは彼のトリオでザ・フォース・ウェイ(the Forth Way)というジャズロックテイストのグループのレコード(CDではない)でした。
このジャズロックというのは非常にアイマイなカテゴリーでして、純然たる(小難しい? 気取った? 陰鬱な?)JAZZに比べるとハッピー度、心地よさ150%増し(当社比)なうえ、リズムは時に8ビートなども用いながら、いわゆるFusionよりいい意味で垢抜けない感じが、好きな人にはタマランのです。
ノックさんの参加作品では、上記リーダー作に加え、これもジャズロックの超名盤であるスティーブ・マーカスの「カウンツ・ロックバンド(伯爵のロックバンド?)」というのがあり、主役のサックス、弾きまくりのギターに隠れつつ、特徴あるタッチでじわっと聞かせてくれています(いずれも現在入手の難しいのが残念)。
ともあれ、若いころのノックさんは、さわやか純情音楽青年風(ちょいヒッピー系入ってましたが)のお顔がチャーミングでした。
今はどんな感じになられているのかな? 今度、ライブでお顔を見るのがとっても楽しみです。
それにしても、小学校時代からジャズが好きだったというお義姉さん。友だちがアイドルにキャーキャー言ってる脇で「この曲のこのピアノソロが……」なんて言ってたのかなぁ。シブ過ぎですね。
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「ぼかア、幸せだなあ」
このブログを最後まで訳して説明したところで夫が発した一声です。
「こんなにいい義弟(おとうと)を持って。書く腕だけじゃない、もっと広い意味で多才な義弟がいることを誇りに思うよ」
あとはビッグ・スマイル、スマイル・・・・
私はこのスマイルを「マイク・ノック・スマイル」と呼んでいます。ホントに顔中「笑!」になります。irisさんの言葉を借りれば「ジャズ・ロック・スマイル」と言ってもいいかも知れません。ジャズ・ロックは垢抜けない、というのは言いえて妙です。どんなに違った曲想のナンバーを演奏してもどこかに土くささ、人間の温かみを生かすのが夫の音楽の身上でもあるようです。元々ニュージーランドの農村育ち、繊細にまた豪快に演(や)るのが好きなようです。私としては、やはり野に置け、レンゲ草、かなと思ったりしています。
でも、ジャズ・ロックのノックから数10年、我が夫ながらすごいなと思うのは、新しい音楽にチャレンジするのが大好きなことです。ソロでトリオで10人編成バンドで、色々プロジェクトを展開しています。60歳の時に手首に負担のかからない新しい弾き方を確立して一層バリバリ弾いています。おそらくフォース・ウェイ時代よりもこの10年余りの方が何倍も忙しいはずですが、オーストラリアにいるために日本のジャズ・ジャーナリズムにはあまり知られていないようですね。アメリカから始まったとは言え、今やジャズは世界的音楽でヨーロピアン・ジャズもJジャズもあるけれど、オーストラリアのジャズ・シーンは遠い世界に感じられるのでしょうか。日豪は時差も1時間しかないし、実際は身近な国同士なんですけどね。
オージー・ジャズの特徴?モダンありデキシーあり、アメリカのコピーありジャズと呼ぶべきか迷うような、色々なタイプのミュージシャンがいるけれど、この一点を挙げるとすれば、ジャズの伝統の音をしっかり生かしながらフレキシブルに新しい音を作り出す、ちょっと前衛的に聞こえる音も自然体で取り入れちゃう傾向ありでしょうか・・・ここらへんで今日はやめときます。ジャズにのめりこんでくると私はいつも夫との家族関係を忘れてしまうので。
それと、筆もたつけど弁もたつ、我が賢弟、高野秀行のレクチャーのお陰で、夫のプロレスへの態度も変化を見せはじめ、最近は日本の女子プロレスなるものも見てみようか、というコメントも聞かれたことを申し添えます。
ともかくマイク・ノック、今も元気です。
もしご興味があれば下記のサイトにどうぞアクセスを。
ありがとうございます。
http://www.mikenock.com