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今年はこんな本がほしい

公開日: : 高野秀行の【非】日常模様

2013-12-19 15.41.47
新年明けましておめでとうございます。

昨年は私にとってラッキーな年だった。
『謎の独立国家ソマリランド』が思いのほか評価され、売れもした。
講談社ノンフィクション賞、R-40本屋さん大賞、そして年末にはダ・カーポ「今年最高の本」1位にも選ばれ、
私はまだ実物を見てないのだけど、杉江さんが「三冠」を祝ってゴールドの帯を作ってくれたりもした。

今までも「これは売れる!」「これは賞がとれる!」と思ったことは何度もあるが、
一度も実現しなかったので今回は狐に化かされたような気がするほどだ。

ソマリランド本はまだ売れ続けているし、今後ももしかしたら何かの賞をもらえるかもしれないし、
私にとって実に孝行息子なのだが、一つ、重要な欠陥を抱えていることに気づいた。

厚くて重すぎる。

「今さら何いうてんねん!」と関西の人からツッコミが入りそうだが、もちろん最初からわかってはいた
ことだし、いろんな人に「電車の中で読めない」「バッグに入らない」「寝そべって読んでたら本が滑って
顔面を直撃しそうになった」「危険」などと直接間接にコメントが寄せられていた。

でも、私はソマリランドの本を通勤電車や寝床の中で読まないから、他人事のように思っていたのだ。

それが今、万城目学『とっぴんぱらりの風太郎』を読んでいて痛切に思う。

厚すぎて重すぎる本は問題だ、と。

740ページもあるのだ。
私のデイパックは25リットルもある大容量だが、パソコンや資料類、辞書、水泳道具などでいつもパンパン、
風太郎を入れるのはかなりキビシイ。

布団で読んでいても、さすがに手が疲れてしかたない。
電車の中でさっと取り出せない。

やっぱり740ページというのは厚すぎだ。せいぜい520ページが限界だろう。

…って話じゃなくて、自分でこの本を読んでいて、ようやく『ソマリランドは厚すぎる』という事実を実感もって受け止めたわけだ。

まあ、次からは厚い本を書かなければいいわけだが(なにせ読むのも大変なら書くのはもっと大変だから)、
今言いたいのはそういうことじゃない。

紙の本に電子書籍をつけてほしいってことだ。

風太郎は本としても美しい。厚いということは存在感もある。家でふつうに読むときは、紙の本で読みたい。
でも外に持っていくときや布団の中ではiPad(この前ミャンマー取材に行く前に買った)やキンドルで読みたい。

そう思っている人は多いんじゃないか。

もし紙の本に電子書籍のダウンロード権をつけたら、いろいろといいことがあるんじゃないかと思う。
私は夏のタイ旅行でキンドルを、先月ミャンマー取材旅行でiPadで読書していたが、
その便利さにハマってしまった。
電子書籍をとやかく言う人がいるが、もうダメである。
なにしろ、あの薄っぺらい板の中に本が何十冊も入るのだ。
そして、いつでも読みたい本がその場で買えるのだ。
もう私は旅行に紙の本は持っていかないと思う。(電気がない場所は別だけど)

レコードがCD、CDがiPodなどにとって変わられたように、手書きがワープロ、ワープロがパソコンにとって変わられたように、この便利さに人は耐えることができないだろう。

だからこそ、紙の本に電子書籍をつけたらどうかと提案したいのだ。
そうすれば、書店だって存在意義を失うことはない。やはり、本屋に行って、あれこれ棚を見て買うというのは
楽しいし、新しい発見もあるからだ。

たぶん、電子書籍をつけることに引っかかる人は「本が二冊になってしまう」と言うだろう。
でも、そうなのだろうか。
紙の本はともかく、電子書籍は人に貸せない。
私は妻とタイ旅行をしていたとき、妻がジョブズ伝記を読んで「これ、すごく面白かったよ」としきりに言うので
貸してもらいたかったのだけど、彼女のiPadを借りるわけにはいかないので、結局買ってしまった。
二人それぞれが上下巻1995円、つまりトータル7980円も費やしたわけで、講談社大もうけだ。

データというのは、貸し借りがない世界なのだ。原則として「あげる(もらう)」か「売る(買う)」しかない。
(だから図書館が電子書籍を「貸す」というのはナンセンスだと思う。出版社にデータ代を払い、住民にただで「あげる」と言うべきだろう)

電子書籍権のついた本を本屋で売っていたら、読者が紙の本をブックオフとかに売ってしまうんじゃないかと
心配する向きもあるだろうが、どっちにしても読み終わったらブックオフやアマゾンに売る人が多いわけだし、
電子書籍は売れないのだ。
つまり、新刊書店で売られる本と、ブックオフやアマゾン・ユーズドで売られる本に明らかな差異ができる。
今の状況よりフェアじゃないだろうか。

正直言って、私も本を買うとき、アマゾンのユーズドが安ければそちらを買ってしまうが、
もし新刊書に電子書籍がついていたら、そうはならないと思う。

また、電子書籍つきの本を買った場合、買った人は電子書籍を読み、紙の方は誰かにあげてしまう、
あるいはその逆もあり、それを「著作権の侵害」と心配する人がいるかもしれないが、それを言うなら、もともと紙の本は
すぐ誰かに貸してしまうことができるから同じだ。
実際、私の本を「家族で回し読みしている」という人の話はものすごくよく聞く。

…と、ここまで書いて思うのだけど、私ごときがこのように考えるのだから、出版社や大手書店の人たちも
きっとこんなことは考えているにちがいない。
ならば、なぜやろうとしないのか(少なくとも私は聞いたことがない)。

何か理由があるのかな。システム作りが面倒だとか。
私が考えるには、著者、出版社、書店、読者のいずれにも利点があると思うのだが。

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Comment

  1. 白黒羊 より:

    はじめまして。大学図書館員で、電子書籍に興味がある白黒羊と申します。

    『謎の独立国家ソマリランド』は、勤務先の大学図書館に所蔵されていたので、借りて読んだところ、とても面白かったです。

    分厚い本は、読んだ後、保管しておく場所にも困りますので(自宅が狭いので)、ついつい、購入せず、図書館で済ませる習慣がついております。
    すみません。

    電子書籍つきの本ですが、
    私が知っているのは、今のところ、
    平野友康著『ソーシャルメディアの夜明け : これからの時代を楽しく生きるためのヒント』のみです。

    これは、
    <紙の本を買うと電子書籍のライセンスも付いてくる>という企画の「書籍++」の実験プロジェクトの第一弾、ということです。
    紙の本(1冊)+電子書籍のライセンス(2つ)で、電子書籍のライセンスは、自分の分と知人にプレゼントする分という風にも使えます。

    ただ、このプロジェクトはあくまでも、実験ということで、採算は度外視だったようです。

    また、電子書籍を読む際は、キンドル等ではなく、BCCKというサービス(webやiPhoneアプリ等)で行う形でした。

    ご参考まで。

  2. とある旅行者 より:

    昨年ソマリランドに行ったときは、買ったばかりの『謎の独立国家ソマリランド』をばらしてスキャンして ipad に入れて持って行きました。
    (電子書籍版があれば良かったのに…)
    特に旅行に持って行くときは電子書籍である事が望ましいと思います。
    ガイドブックもロンリープラネットの電子書籍版を使っています。昔あの辞書の様に重い本を複数持っていた時代からすると夢のようです。
    電子書籍の難点は、端末が盗まれる可能性が高いのと電気が無くなるとどうしようも無い点でしょうか…

  3. 高野秀行 より:

    杉江さんによると、紙の本に電子書籍を付けるという案はダメだとのこと。
    まあ、そんな需要はないってことですかね。

    たしかに端末が盗まれたり壊れたりしたらアウトですね。本を盗むやつはいないけど。

  4. こはる より:

    ソマリランドを読んでる途中にkindle paperwhiteを購入してしまい
    ソマリランドを読む手が止まっております・・・
    ほんとに!!!電子書籍がついてたら嬉しいです!!!!

    タイムリーなブログだったので思わずコメントしてしまいました。

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