*

角幡唯介はノンフィクション界の村上龍

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

昨日は東北から帰った直後だったせいか、いつになく「正論」を述べてしまった。
現地に一週間ほど行って「つまみ食い」した程度のくせに。
読み返すと面白くない。
事実関係はそのとおりかもしれないが、こうやってマジメに書くと、
なにか肝心なことがこぼれおちてしまうような気がしてならない。
例えばタイガースTシャツなんかも、現地では「被災者を応援しなくて阪神を応援してどうする!」「やっぱり阪神ファンは頭おかしいな」などと突っ込み、みんなで笑ったりして、それなりに現場の空気を和らげることに貢献していたのだ。
で、そういう笑いは現場でも大切なものなのである。
つい、「震災報道モード」に引っ張られて、いつもの自分を見失ってしまった。
反省して、この過ちを二度と繰り返さないようにしたい。
      ☆        ☆        ☆
さて、まったく震災と関係ないが、後輩の角幡唯介が『空白の五マイル』(集英社)
なんと大宅壮一ノンフィクション賞を受賞してしまった。
開高健賞とダブル受賞だ。
ノンフィクションにあまり詳しくない人のために説明すると、ノンフィクション賞には大きなものは今のところ4つある。
大宅壮一ノンフィクション賞
講談社ノンフィクション賞
小学館ノンフィクション大賞
開高健ノンフィクション賞
このうち下の2つは、応募制である。募集に応募した作品の中から選ばれる。
文芸でいえば、小説すばる新人賞や群像新人文学賞やこのミス大賞などと同じ。
いっぽう、上の2つは、出版されたあらゆる本が対象となる。
文芸の直木賞、芥川賞、三島由紀夫賞などに近い。
当然こっちのほうがステイタスはずっと高い。
中でも大宅賞は芥川賞と直木賞に匹敵する。
角幡は開高健賞に応募して本を出し、さらにそれが大宅賞をとったのだから、
群像新人文学賞に応募して賞をとり、それが芥川賞にもなった村上龍の『限りなく透明に近いブルー』
匹敵するということだ。
ノンフィクション界の村上龍。
凄すぎるじゃないか。
ちなみに大宅賞のもう一作は、国分拓『ヤノマミ』(NHK出版)
どちらも作品としては文句なしの傑作だ。
しかし受賞作が二つとも探検モノだ。しかも前回、「本の雑誌」3月号で二人とも登場している。
うーん、とまた考えてしまう。
同じ探検モノを書いていても、私は大宅賞の候補にすらなったことがない。
ていうか、そういうメジャーな賞から無縁だし、ノンフィクションでも文芸でもどっちからもほとんど無視されている。
いつまで経ってもキワモノとしか扱われないんだなとしみじみ思う。
と、暗くなっていたら、『ワセダ三畳青春記』が10刷になったという知らせが来た。
累計部数も9万部を超えた。
結局このまま独自路線を歩むしかないか。

関連記事

no image

鬼のミイラと地震予知動物

「未確認思考物隊」の仕事は続く。 先週は大分県宇佐市にある「鬼のミイラ」(写真・右)と 「地震予知動

記事を読む

no image

クリント・イーストウッドとモン族

一年ぶりにTSUTAYAでDVDを借りて、観た。 ウチザワ副部長がかつてブログで絶賛していたクリン

記事を読む

no image

独裁者列伝

いわき市にいるとき、コンビニで『東日本大震災 レンズが震えた 世界のフォトグラファーの決定版写真集

記事を読む

no image

異文化の二日酔い

何でも面白かったり気持ちよかったりすると歯止めが効かなくなるのが 私の悪癖だ。 「ほどほど」でいられ

記事を読む

no image

ゾウ本について他

まずはお知らせから。 『辺境の旅はゾウにかぎる』(本の雑誌社)を ただいま「本やタウン」でご予約いた

記事を読む

no image

ムベンベは捕獲されていた!!

『怪獣記』刊行に先駆けて、「サンデー毎日」と、 取次ぎ会社・日販のPR誌「新刊展望」のインタビューを

記事を読む

no image

突然、魂の叫び

どこか遠くへ行きたい−−。 これは平凡な日常に飽きた人間がよく思い浮かべることだろう。 私もよくそう

記事を読む

no image

モガディショで宮田珠己

ソマリランド&ソマリアでは、いろいろな理由で暇な時間がひじょうに長かった。 とくにソマリアの首都モガ

記事を読む

no image

英雄の葬儀

 先日、私がチェンマイに見舞いに行ったシャン人の長老セン・スック(別名クン・チャ・ヌー)が亡くなっ

記事を読む

no image

銀河ヒッチハイク・ガイド

 「しばらく新刊を断ち、家にある未読の本を読もう」という“新刊ラマダン”をやっていたが、実はユーフ

記事を読む

Comment

  1. ナカニシ より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; U; PPC Mac OS X 10_4_11; ja-jp) AppleWebKit/533.19.4 (KHTML, like Gecko) Version/4.1.3 Safari/533.19.4
    高野さんのよりファンになりました。
    多いに反省して下さ〜い。

  2. コシチェイ より:

    AGENT: DoCoMo/2.0 N05A(c100;TB;W24H16)
    たまには正論、いいじゃないすか。言いたい時に言いたいことを言わないと!そういえば、「空白」と「ヤノマミ」は高野さんも絶賛でしたねぇ…「他人の才能を見抜く才能byホル・ホース」があるのかも?!なんてね(笑)

  3. アズマ より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (iPad; U; CPU OS 4_3_1 like Mac OS X; ja-jp) AppleWebKit/533.17.9 (KHTML, like Gecko) Mobile/8G4
    そんな高野さんのファンです。

  4. Ichiro より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.4506.2152; .NET CLR 3.5.30729)
    高野さんの「西南シルクロード」はノンフィクションの大傑作ですよ。あれはすごい本です。なんで賞取れないのかさっぱりわかんない。ユーモアセンスを交えて書くと権威ある賞は遠ざかるということか?? でもそれが無いと高野本の一番の良さが減ってしまうし…。
    もうこのまま行ってしまうしかないですよ、高野本の面白さはここ数年ですっかり(やっと)世間が認知してきたのですから。「早稲田三畳青春期」10刷おめでとうございます。つい数年前まで「重版童貞」とおっしゃってたのがウソのようです。これからも応援してます。

  5. bomingo より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 6.1; en-US) AppleWebKit/534.16 (KHTML, like Gecko) Chrome/10.0.648.204 Safari/534.16
    高野さんのファンです!
    引越しが多いため持ち物は最小限な私ですが、買った高野本はほとんど持ち歩いて来ました。
    去年のロンプラマガジンにナガランドが載ってて、おっ、と思って読んだのですが文章は面白くなかったです…
    高野さんには特別な才能があるんだなぁとしみじみ感じましたよ。
    愛読者としては、賞なんかいいじゃないですか!って思うのですが・・・賞取った方が本が売れて高野さんは潤うのかな(^^;
    何はともあれ、応援してる人間がここにもおります!と言いたくてコメント残しました。
    がんばってくださいね〜。

  6. 小林 純 より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; U; Intel Mac OS X 10_5_8; ja-jp) AppleWebKit/533.19.4 (KHTML, like Gecko) Version/5.0.3 Safari/533.19.4
    いいじゃないですか。賞なんて。
    あれは、それぞれの枠組みの中でのコンペな訳で。
    独自の路線を持ってる方がはるかに偉大です。
    少なくとも、高野本は、生きる意味を見失っていた僕を助けてくれました。
    祝「三畳記」10刷!!

  7. izumi より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; GTB6.6; .NET CLR 2.0.50727; eSobiSubscriber 2.0.4.16; .NET CLR 3.0.4506.2152; .NET CLR 3.5.30729)
    海外に住んでいると、何していいかわからないし、被災地の情報もあるようでないし(体験談、頑張って立ち直る等の話が多い)、高野さんの記事を読むと、ほっとします。

  8. ahmad より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 6.1; en-US) AppleWebKit/534.16 (KHTML, like Gecko) Chrome/10.0.648.204 Safari/534.16
    いまの高野さんにぴったりの肩書を送ります。
    「エンタメノンフ界の無冠の帝王」!
    私が好きな作家の山本周五郎も生涯文学賞とは無縁で、打診があっても断っていたと聞きます。賞うんぬんよりも読者を第一に考えていたからです。
    高野さんには是非「エンタメノンフ界の山本周五郎」を目指してほしいと思います。

  9. nil より:

    角幡さんとの対談本、題名悩ましい限りですね。
    角幡さんがしきりに強調する旅の主導権の握り方にヒントがありそうですが・・・
    「ソリを引く人ゾウにのる人」・・・早坂茂三のようです。
    「郵便的冒険/航海的探検」・・・東浩紀でしょうか?
    「妄験者、探検家と大いに語る」・・・アブディンさんのパクリの上、高野さんが永遠の三枚目になってしまそうですね。
    ご多幸をお祈りします。

  10. ajiketo より:

    この2011年のエントリーを読むと隔世の感ありですね。
    賞を取れないことを愚痴る高野さんに
    慰めるファン。

    「まさか角幡ばりに一冊で二つも賞を取るとは。この時秀行は予想だにしていなかった…」

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年7月
     123456
    78910111213
    14151617181920
    21222324252627
    28293031  
PAGE TOP ↑