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アサヒビールとNHK。転職と起業という人生の点と点とがつながって仕事になった話

今年の春先から取りかかっていた本がやっと形になった。

スーパードライを思わせる特色銀のまぶしい書影。
「アサヒビールで教わった 自分の壁を一瞬で破る最強の言葉 「いい仕事」はいつも「すごい一言」から始まる!」(新しいタブでAmazonのリンクが開きます)

 

著者は、元アサヒビールの会長兼CEOであり、NHKの会長をつとめた福地茂雄さん。
酒類業界のアサヒビールと、メディアのNHK、まったく畑違いの世界を経営者として渡り歩いた福地さんのビジネス書であり、自己啓発本でもある。

私はこの本に〝進行協力〟としてクレジットされている。
福地さんの言葉を文字にしたあと、書籍として成立するよう、主にリライトを担当した。

 

三笠書房の方からこの話をいただいたとき、自分の仕事の今までの紆余曲折に、やっと一区切りがついたと思った。
アサヒビールもNHKも、どちらも一緒に仕事をしてきたからだ。

 

私がアサヒビールと仕事で関わったのは、大学卒業したてで入った日本盛という日本酒メーカーでのことだ。
私は当時、まだ天満橋のそばにあった大阪支店に配属され、堺市より南側、河内長野と富田林をのぞく、忠岡町から岬町までの大阪府全域を担当していた。
“だんじり”で有名な、岸和田や和泉、泉大津、泉佐野といった泉州地区。いわゆるコテコテの大阪南部エリアである。

仕事は、主に酒販卸と酒販店の営業回りだった。
長野生まれの兄ちゃんがいきなり泉州エリアにいって商売をするのは、さすがにハードルが高かったと、今では冷や汗がでる。
しかし、当時はそんなことも知らず、呑気に泉州をうろうろしていた。
そんなとき、和泉市のある酒屋の宴会で、アサヒビールの担当さんにあった。
M川さんといった。

ビール会社の人によくいる「昔はやせていたが、高カロリーの食事が続いたばかりに、がっちりした体型を余念なく保ち続けている」人だった。
切れ長の涼しい目元に、育ちのよさがどことなくにじみ出る話し方。
不思議な雰囲気をまとっていた。

 

その店は、おかみさんの営業マンに対する好き嫌いが、そのまま販売数字に表れるというスゴイお店だった。
私の前任者は何かでポカをやらかし、その前任者も今ひとつで、私は「飛んで火に入る夏の日本盛」状態で飛び込んでいったのだ。

 

宴席はビール会社3社に、日本酒メーカーが数社、その他メーカーや卸など、関係業者が一堂に会した。
3次会はカラオケだった。

トップバッターはM川さんだ。
マイクを持って簡単な挨拶をしながら、M川さんは反対側の手でリモコンを操作する。慣れた手つきで入力すると、すぐにイントロがかかった。

 近藤真彦の「ギンギラギンにさりげなく」だった。
しかも、完璧な振り付けつき。
年季の入った〝宴会芸〟であることは、ステップからも容易に見て取れた。

ビール会社の〝宴会芸〟は、この後いろんなバージョンを目にするが、M川さんのギンギラギンほど、キレのあるステップには、ついぞお目にかかることはなかった。

泉州支店の配属だったM川さんとは、その後もエリア内の酒販店や酒販卸で度々会った。

 

同じ酒でも、ビールメーカーと日本酒メーカーとでは、資本も売上も、規模がまったく違う。ビールが象なら、日本酒はアリだ。いや、ノミかもしれない。
当然、営業の人員も、フォローのきめ細かさもケタ違いだった。

ビール会社にとって、スーパーやディスカウント店などの小売販売と同時に重要視していたのが、ホテルや居酒屋などの業務用消費だ。
居酒屋チェーンで扱うビールの銘柄がひとたび切り替われば、ものすごい数の販売量を一気に獲得できる。私が働いていた1996年頃はまだビールの消費量は右肩上がりだった。そのため、ビール会社の大手4社は、日々、熾烈なシェア争いでしのぎを削っていた。

日本酒メーカーの営業マンもがんばってはいたけれど、市場のニーズも、人員も、ビールにはとうていかなわない。

M川さんは、「人のよさ」だけでうろうろしていた私に、あやうさを感じたに違いない。ことあるごとに、声を掛けてくれた。
あたらしい得意先を紹介してくれたこともあったし、トラブルになりそうなタネをいち早く教えてくれたこともあった。
ビール会社のもっている情報量と、人脈、資本の圧倒的な力。そして、地域の営業課題を次から次へと裁いていくM川さんの営業能力は、今でも忘れることができない。

 

その後、私は大阪市内の担当となり、泉州を離れた。

そこでも、アサヒビールの人との出会いがあった。
彼の名はY藤さんといった。アサヒビールの資本が入った酒類卸に、常務として出向してきたのだ。
Y藤さんは、私の上司が大学時代、偶然、同じ下宿先に住んでいた。その縁もあり、いろいろと目をかけてもらった。一緒に飲んでいて酔っ払い、家に泊めてもらったこともあった。
富山出身のY藤さんは、面倒見のいい親分気質だったから、酒類卸の社員からもすぐに慕われていた。夕方になると、営業マンを引き連れ、すぐ近くの酒屋がやっている角打ち、いわゆる立ち飲みに行くことも度々。
常務に会いに行ったら退社後で、後を追って角打ちに向かったことも1度や2度ではなかった。

Y藤さんには、数々の名言がある。
その中でも群を抜いておもしろかったのは
「10文字で簡潔に述べよ!」だった。

営業マンの売り込みトークを10文字にまとめられるわけがない。
新製品の案内や、月末の数字達成のお願いのたびに、Y藤さんから、「小林、長い! 10文字で!」と、同じことを何度も言われた。

おもわず、「にほんさかりをうってください」と返したら、
すかさず「4文字多い」と言われ、ぐうの音も出なかった。

その後、私は日本盛を辞め、東京に移った。
音楽の世界に関わりたくて、お酒の世界を離れたのだ。
そして、いつの間にか、音楽よりも文字を扱う世界に軸足が移っていた。

NHKの番組テキストも、最初はギターやピアノのレッスンを扱うものだった。しかし、次第に趣味実用全般に広がり、「趣味の園芸」など、別のジャンルへ移ってきている。

今、過去を振り返れば、すべてが1本の道でつながっていると実感できる。
しかし、その道のりは、あっちへいったり、こっちへいったり、曲がりくねっていて、20年前の泉州を駆けずり回っていた自分には、気づきようもない。

アップルの創業者、スティーブ・ジョブスは、次のようなスピーチを残している。
「未来を見て、点と点を結ぶことはできない。できるのは、過去を振り返って点と点とを結ぶことだけ。だから、いつかどうにかして、点と点が結ばれると信じなければならない」

私はジョブスのような偉人ではないけれど、点と点が結ばれる可能性を信じている。

今、その1つがこうしてカタチになったのだ。

 

 

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