*

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

公開日: : 高野秀行の【非】日常模様

2016.01.28itodan
世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている人なのか説明できない」という人がいる。残念ながら私もそういう一人と目されているようだ。

ところが最近、自分がTBS「クレイジージャーニー」に出演することになり、過去にどんな人が出演しているのかチェックすると、実にそういう「説明できないユニークな人」が多いことに気づいた。

北極専門の探検家、奇妙な景色やモノを探して世界中を旅している人、誰も入ったことのない洞窟だけを探検しつづける人……。

みなさん、ものすごいこだわりをお持ちだし、行動力や気力は常人離れしているが、どうしてそんなことに情熱を燃やせるのか、端から見ていてもさっぱりわからない。

クレイジージャーニーにはそんな人ばかり登場する。
逆にいえば、そういう人は「クレイジージャーニーの人」とくくることができる。
これは画期的なことだ。今まで分類できなかった人々を集めて、一つのジャンルができたのだから。

昨日読み終えた『自分を開く技術』(本の雑誌社)の著者、伊藤壇さんはまさにこの新ジャンルの人だ。
伊藤さんはプロサッカー選手であり、それだけならこれほどわかりやすい仕事はないほどだが、変わっているのは、これまでアジア18カ国でプロ選手としてプレーしてきたということ。
18カ国!!
旅行で行くだけでもけっこう時間と労力を費やすというのに、プロとしてサッカーをやった国が18カ国。
しかも「一年一カ国で、毎年プレーする」と自分に縛りを課しているというから、やはりそのこだわりは理解不能だ。でも面白いことはまちがいない。

プレーすると一言でいっても、簡単なことではない。
まずその国のプロリーグのチームに入団するために、自分を売り込み、交渉しなければならない。
本書にはその驚くべきノウハウが書かれている。
例えば、私が驚いた(というか笑った)のは、そのチームがFWを求めているとわかれば、自分がMFでもFWのふりをしてテストを受け、契約を勝ち取ってしまうこともあるという。
で、後で「正直に自分は実はMFだ」と言うとのこと。それを「正直」というのかどうかわからないが、
契約が結ばれたらもういいらしい。日本人から見ていかに非常識であっても、その国の「ルール」に則っていればいいのである。

本書は体裁がビジネス書なのだが、こんなビジネス書を誰が必要とするのかさっぱりわからない。
作り手もクレイジージャーニーの人といっても過言ではない。
ただ、伊藤さんはたとえサッカーを辞めて別の仕事についても確実に成功するだろう。

なぜなら、彼は「相手が何を求めているかを適確に理解する力」と「自分が何を望んでいるかを適確に表現する力」を兼ね揃えているからだ。ちなみに「表現」とは“言葉”と“実際にやってみせる力量”の両方を指している。
文筆業を含めて、ほとんどの職業は、この2つの力があればやっていける。逆にいうと、素材は素晴らしいのに目が出ないという人はいずれかの力が欠けている可能性が高い。

ただ、やっぱりこれだけの能力があって毎年ちがう国でプレーするなんてこだわりをもたないよなあ…。
その逸話がイチイチ笑えるので、ビジネスとして真似が出来なくてもお勧めである。
そして実際のTBS「クレイジージャーニー」でもぜひ登場してもらいたいと強く希望する次第だ。

関連記事

no image

漂流するトルコ

小島剛一『漂流するトルコ』(旅行人)をついに読んだ。 もともとは私が小島先生に「(名著『トルコもう

記事を読む

no image

世界の巨乳に夢を見ろ?!

   珍しく午前中に家を出て、東西線で移動中、突然便意を催した。  九段下の駅の便所に駆け込んだとこ

記事を読む

no image

惜しい!

 前から見たいと思っていた三池崇史監督「ジャンゴ」を見た。  スキヤキ・ウェスタンという異名のとお

記事を読む

no image

東京うんこナイト

探検部の後輩が2月5日、東京うんこナイト 〜ウンコロジー入門。「のぐそ」は地球を救えるか?〜」とい

記事を読む

no image

新連載はまさか、あの…?!

『アジア新聞屋台村』本日発売!…なのだが、なんか、今回もまた売れない予感がしてきた。芥川龍之介ではな

記事を読む

no image

火サスの人

妻・片野ゆかが小学館ノンフィクション大賞を受賞、その授賞式兼パーティに行ってきた。 日比谷の東京会館

記事を読む

no image

ひそやかな花園

友人と午後1時に品川駅高輪口に待ち合わせだったのだが、 こういうときにかぎって30分以上も前に着い

記事を読む

雷王は誰だ!?

昔、コロンビア・アマゾンの町でばったり出会った鬼才ドラマー・のなか悟空さんが主催する D-1ド

記事を読む

no image

太平洋もインド洋も波高し

 私の「ビルマ・アヘン王国潜入記」英語版"The Shore beyond Good and Evi

記事を読む

no image

怪獣ノノゴン、上智に現る!

「探検業界の寅さん」「永遠の日雇い青年」こと野々山富雄氏が 上智大学の対談ゲストに登場。 かつて一

記事を読む

Comment

  1. 高野ファン より:

    高野さんのお勧めの 『自分を開く技術』(本の雑誌社)をアマゾンで注文しました。って高野さんに報告しようと思ってネットで高野秀行って検索したら、 最初に「 高野秀行 アヘン タ イ ホ 」って出てきました。TVに出たからでしょう。『 アヘン王国潜入記 』は私の感想は ハート・ウオーミング・ ヒューマン・ラブ・辺境 ストーリー のカテゴリーに入るのに..高野秀行の本を読んだことがない人はそんなような発想になるのかと驚きました。TVや検索ワードが高野さんのこれからの活動に影響しないように願っています。どうしてTVは危険なんでしょうか?
    私が小学生の時は朝番組TVのNewsでありもしない行事を番組の人が作ってその小学校では恒例になっているように生放送で放送されて子供ながらショックでした。どう考えても日本の小学生クラス全員や教師が朝7時に学校にいるだけでもおかしいのに。。でも、高野さんにはまたTVにでてほしいです。出来れば編集無しがいいです。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年12月
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    293031  
PAGE TOP ↑