上野動物園ゾウ秘話(2)
公開日:
:
最終更新日:2012/05/28
辺境動物記
それは上野動物園最初のゾウ使いの話だ。
上野動物園に初めてゾウがやってきたのは大正13年(1924年)。
インド象のジョンとトンキーである。
二頭とも仔ゾウだったので、人によく慣れた。動物園では、この仔ゾウに芸を仕込むためにマメット・エリーというインド人のゾウ使いをどこからか探してきた。
マメットさんはすぐさまゾウに足を折ることと敬礼することを仕込み、これが大変な人気を呼んだ。大正14年4月3日の神武天皇祭には一日で3万人が見物に来たという。
ところが、その翌々日、四谷警察署から刑事がロシア人を連れてやってきて、マメットさんを拘引してしまった。
実は、彼はインド人ではなく、本名マホメット・バセノワという亡命ロシア人で、「偽名を使った犯罪者」だった。
マメット、いやバセノワさんは顔にすすを塗ってインド人に化けていた…。
まったく冗談みたいな話だ。顔にすすを塗るって、ふつうわかるだろう。
いくら数日間しか勤務しなかったとはいえ、気づかない上野動物園の人もどうかしている。日本も牧歌的な時代だったのだ。
本書では、この偽インド人のロシア人については、これ以上触れていない。
しかし、私はすごく気になった。
どうして、 亡命ロシア人なのに、ムスリムの名前なのか? だいたい、亡命していた犯罪者とは何者か?
それが最近別の本を読んでいてわかった。
(つづく)
関連記事
-
「ハンニバルの象」はアジア象かアフリカ象か?
シドニーに住んでいる義姉から一足早いクリスマス・プレゼントが届いた。 2005年の、ゾウのカレン
-
上野動物園ゴリラ秘話(3)
ゴリラ”ブルブル”のテレビ観賞、次は格闘技だ。 プロレスは力道山こそもう死んでいたが、馬場猪木組
-
上野動物園ゴリラ秘話(2)
ゴリラ”ブルブル”のテレビ観賞記録はつづく。 「野生もの」に引き続き、飼育係が見せたのはプロ野球で
-
上野動物園ゾウ秘話(番外篇2)
タタール系ロシア人、ユセフ・トルコはその後どうなったか。 ユセフはリング内外で悪役の道を歩みつづ
-
上野動物園ゾウ秘話(1)
長らく行方不明になっていた本が発見された。 「もう一つの上野動物園史」(小森厚著、丸善ライブラ
-
上野動物園ゴリラ秘話(1)
また変な本を発見してしまった。 いや、「変な本」はまずいか。 現職の上野動物園園長(1989
-
上野動物園ゾウ秘話(番外篇)
タタール系ロシア人の話で書き忘れたことがある。 日本でも、ひとりだけ、一般によく知られたタタール
-
象も人間も野生育ちのほうが使える
昨日、象の話を書いたところ、私の飲み仲間である二村氏から「アジア象でも野生の象はやたら危険」という
-
上野動物園ゾウ秘話(3)
日本には東京と神戸に最初にモスクが作られた。 その二ヵ所にムスリムが多かったからだが、主体となっ
- PREV :
- 上野動物園ゾウ秘話(1)
- NEXT :
- 上野動物園ゾウ秘話(3)