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上野動物園ゾウ秘話(番外篇)

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 辺境動物記

 タタール系ロシア人の話で書き忘れたことがある。
 日本でも、ひとりだけ、一般によく知られたタタール系ロシア人がいたのだ。
 ユセフ・トルコだ。
 力道山時代に日本のプロレス界にデビュー、悪役として活躍(アントニオ猪木と対戦して、1勝14敗という成績が残っている)、その後、レフリーに転じた。
 はっきりとは憶えてないが、うさんくさい雰囲気をかもし出していた気がする。
 子供心にも「あの怪しげな外人は何者だろう?」と思っていたが、まさか偽インド人の同胞だったとは…。
 「ムスリム・ニッポン」(田澤拓也著、小学館)によれば、このユセフという人は、本名ユセフ・オマー。すごい変わった経歴の人物である。
 祖父はウズベキスタンでイスラムの宣教師(そんな身分はイスラムにはないから、具体的に何者だったのかは不明)だったが、ロシア革命前に政治犯として樺太に流刑になった。
ユセフはその樺太で生まれる。日露戦争で南樺太が日本領となったため、 ユセフの父は日本語を独学で習得、どういうわけか陸軍参謀本部と親しくなる。
 ユセフの父は、東京モスク建設の際にも暗躍する。
 もともと、東京モスクというのは、日本がアジアに進出するためにイスラムを利用しようという明確な腹づもりがあって、政治家や軍の支持のもと、当時の各財閥が大金を出し合ってつくられた。
 モスク建設の中心になったのはクルバンアリーというタタール人だが、軍がモスク建設に日本ナショナリズムを組み込もうとするのに反対。そのとき、軍の手先となって動いたのがユセフの父だったという。
 ユセフの父は、相当いいかげんなムスリムだったらしく、出入りする日本ムスリムや軍人たちと酒を飲むばかりか、自宅でウィスキーの密造までやっていたというナイスガイである。
 純粋なムスリムであるクルバンアリーはユセフ父の工作で追放され、モスクの開堂式に出席することができずに終わった(それどころか満洲に追いやられ、二度と帰ってこられなかった)。
 ユセフ父は軍から月々の手当てをもらっていたとか。
 以上は、その本の中でユセフ本人が得々と語っているもので、そんなことを自慢するセンスもすばらしい。
 親子そろって「悪役」なのだ。
この本は「ムスリム・ニッポン」であって「プロレス・ニッポン」じゃないので、それ以上のことは書いてない。あとは私がつける蛇足である。
(つづく…え、まだ続くのか?!)

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Comment

  1. 太郎 より:

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    ユセフ・トルコがタタール系ロシア人だったとは。 確か梶原一騎先生はトルコ人と紹介してました。 あの虚実がいい感じで交じり合った梶原作品の中でもひときわ、怪しかったですね。 梶原先生はセメントならユセフは強いような事を書いてましたが。 今も生きているのかな、 ユセフ・トルコは?
    高野先生には「ムスリム・ジャパン」の向こうを張って「怪しい外国人・ジャパン」を書いて欲しいですね。取りあえず 「ムスリム・ニッポン」(田澤拓也著、小学館)は買います。 続けて下さい。 太郎

  2. ホーク より:

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    氏は健在であります。
    氏とは、時々電話で連絡を取り合ったりしております。

  3. タカノ より:

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     ユセフさんとお知り合いでしたか? それはとんだ失礼を。
     できたら、今度ご紹介していただけませんか。

  4. 通りすがりの者 より:

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    ですけど、テュルク系(タタル系)ロシア人の有名人としては、もう一人ロイ・ジェームスがおります。
    エセアメリカ人的なこの芸名からは全く想像つきませんが、本名はハンナン・サファ。
    亡命タタル人(だかバシキール人だかよくわからない)アイナン・サファの息子で、東京生まれではありますが。

  5. おうちゃん より:

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    ホークさん、ユセフさんとお知り合いとのことですが、もしよろしければご連絡先など教えていただけませんか? いま柔道の木村政彦のことを書いている新聞記者です。よろしくお願いします。

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