上野動物園ゴリラ秘話(1)
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最終更新日:2012/05/28
辺境動物記
また変な本を発見してしまった。
いや、「変な本」はまずいか。
現職の上野動物園園長(1989年当時)である中川史郎氏が書いた『動物たちの昭和史』(太陽選書)という立派な本だ。
全2巻で、1巻が「戦争の影をひきずったスターたち」、2巻が「夢と希望を与え続けたアイドルたち」という副題がついている。
これがまた、「秘話」満載である。
真っ先にお伝えしたいのは、1巻収録の「ゴリラはテレビを愛す」の章である。
昭和46年(1971年)、当時としては一般家庭にも普及していなかった19インチのカラーテレビが”ブルブル”という名前のゴリラの部屋に持ち込まれた。
別にギャグでやっていたわけではない。
ストレス対策であったという。
ゴリラはひじょうに繊細な動物である。動物園では概して短命だが、それは群れから引き離されたストレスのせいではないかと言われている。
ブルブルも一緒に暮らしていた雌ゴリラがリューマチ治療のため隔離されて以来、孤独感から脱毛症になってしまった。
(驚いたことにリューマチは、ゴリラの間ではポピュラーな病気だという)
上野動物園と深い交流のあったフランクフルトの動物園で、同じように精神的に参ったゴリラを元気づけるためにテレビをためしたら成功をおさめた。
その情報を聞いて、上野動物園でも大枚をはたいてテレビを買ったのだ。
まず、上野では彼に何を見せたか。
「野生の驚異」シリーズと「野生の王国」シリーズだった。
笑ってしまうが、やはりギャグではない。
実際にブルブルは画面の中の動物たちにものすごく興味を示したという。
最初は「なんだこれは?」という感じで遠くから見ていたのだが、やがてどんどん近づき、しまいには「腹ばいになって両ひじを床につけ、顔をブラウン管のすぐ近くまで寄せて見ていた」。
なんだか、ひとり暮らしの学生みたいだ。
特に、クマが犬に追い詰められ、戦いのシーンになると、唇を尖らせ、肘を張り、口を鳴らすという興奮ぶりである。
しかし、番組が終わって、ニュースの時間になると、ブルブルは途端に興味を失って、舌打ちをしながらテレビの前を離れた。
なんだか、ナイター中継が途中で打ち切られたときのお父さんみたいな態度である。
同じ「野生もの」でも、アフリカものが好評で、チンパンジーやライオンが出てくると手を伸ばしてさわろうとしたり、驚いて飛び退ったりと激しい興奮ぶりだ。
いっぽう、南アメリカの動物には関心がなかったという。
不思議である。
ブルブルはコンゴの隣国カメルーンの出身だが、日本に来たときはまだ4歳の子供だった。あまりに小さくて、期待していた観客から「こんなのゴリラじゃない!」と罵声を浴びせられて震えていたという。
だから、野生時代の記憶はひじょうに薄いはずだ。だいたい、ライオンなど、ゴリラと生息圏がちがうので(ゴリラは森、ライオンはサバンナ)、見たこともないだろう。
「野生もの」に引き続き、飼育係がブルブルに見せたのはプロ野球、プロレス、キックボクシングであった。
(つづく)
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とっても興味深く読ませていただきました。私がゴリラに惹かれるようになったのは、立花隆著「サル学の現在」を読んでからです。そこにある山極寿一先生とのやりとりから、ゴリラは、とても魅力的な生き物だと感じるようになりました。私が住んでいるところに残念ながらゴリラは居ません。故郷京都にはいるのに、しかも家から近く子どもの頃、毎週動物園に行っていたというのに、ゴリラの記憶がほとんどなく、「あー、なんで憶えていないんだ。なんてもったいないことを・・。」と残念に今更ながら思う次第です。この記事に出会って、ますますゴリラに惹かれました。ありがとうございました。