僕が、落語を変える
公開日:
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最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様

私は自分のことを「文芸人」だと思っている。
文章を芸とする芸人であるという自覚だ。
だから、「芸人」の話にはすごく興味がある。
落語家の話はとくに興味深い。
落語家は芸人だし、一人ですべての世界を創るという部分も文芸人に共通している。
それから落語は、出版業界にとって、斜陽産業の大先輩でもある。
一時期ラジオの普及で全盛期を築きながらも、テレビの普及でどん底に落ち込んだ。
そして今は、メジャーでないのに人気はあるという微妙な地位をきずいている。
柳家花緑や立川談春、志らくだって一般の人がどれくらい知っているのか疑問だが、
独演会のチケットはとるのが難しい。そこだけ見れば超売れっ子なのだ。
私たちが目指すところもその辺かもしれないと思う。
なんてわけで、柳家花緑+小林照幸『僕が、落語を変える』(河出文庫)を興味深く読んだが、一つまったく関係ないところに引っかかった。
先代・小さんによれば、戦前は落語家がしゃべり終わっても拍手がパラパラ程度しか起きなかったという。
拍手は戦後になってからで、「アメリカ人が教えたのか?」と小さんも言っていたそうだ。
花緑は「落語はかつてテレビみたいなものだったんじゃないか」とも言っている。
だから「口」に「新しい」=「噺(はなし)」という字をあてたのだろう、と。
テレビやラジオに人は拍手をしないから、落語家(噺家)にも拍手をしなかったのかもしれないという解釈だ。
ちなみに、「落語家」か「噺家」かという議論があるらしい。
談志は「落語家」だと主張しているという。
本書ではあまり踏み込んでないからよくわからないが、
「オチ」優先が「落語」で、「新しい情報」優先が「噺家」なのだろうか。
こういうのも“同業者”としてはひじょうに興味深く、参考になる。
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