だいたい四国八十八カ所
公開日:
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最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様
宮田珠己部長より久しぶりに電話がかかってきたので、
『だいたい四国八十八カ所』(本の雑誌社)が面白かったことを伝えた。
以下、宮田さんに直接喋ったことだが、
正直言ってウェブで連載中は「イマイチだな」と思っていた。
どことなく、トーンが暗いのだ。じじむさいというか。
途中で読むのをやめてしまった。
杉江さんも同じことを言っていたのだが、それでも単行本化に手をあげた。
「いや、通して読むと面白いんですよ」と言う。
さすが、杉江さんは見る目がある。
ウェブで「暗い」と思っていたのに、書籍として通して読むと全然そんなことはない。
明朗で快活どころか、ちょっと「この人、大丈夫か?」と心配になるほど著者の無邪気なほどの旅への喜びが伝わってくる。
結局、ウェブと書籍は媒体がちがうのだとわかった。
かつて私も漫画雑誌で連載したとき、トーンを合わせるのに苦労した。
ふつうに書くと、他の誌面より地味すぎて沈んでしまう。
無理してトーンをあげた。
画像処理で「明るくする」を100%にするようなものだ。
おかげで書籍として読むと、
トーンがちょっと高すぎてしまった。明るすぎるのだ。
書籍はしっとりじっくりした媒体なので、トーンは全体的に低めで、
そこに味わいがある。
ウェブも漫画雑誌並みに明るい媒体なので、それに合わせると、ウェブ連載のときはいいが、書籍化のときは明るすぎて白っぽくなる。
で、だいたい四国を読んだら、「いいなあ、旅。俺も旅ってもんがしてみたい」と思った。
そう言うと、宮田さんに「さんざんしてるじゃん!」と思い切り突っ込まれたが、
気分としてはそうなのである。
現実の旅ではなく、まだ子供の頃に憧れていたイメージとしての旅というのが
この本の中にある。
南の国でふわふわとさまようような浮遊感とでも言おうか。
名言の宝庫でもある。例えば;
「あんまり知らない人はいい人だ」
「やりたいことは面倒くさい」
「何事も最後までやり抜くよりも、途中でサボるほうが難しく、ステージのい行為だということがわかる。なぜなら、やり抜くのは惰性であって、サボるのは決断だからだ」
こんなことを大まじめな顔で言うタマキングは、いくつになってもやっぱりアホな好青年である。
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