*

九州最高峰!屋久島の宮之浦岳(1936m)に登る

公開日: : 最終更新日:2012/05/25 無茶旅行

 せっかく『日本の名山』(ユーキャン)を書いたのに、今年は高尾山しか登れなかった…。
 と、おもったらチャンスが巡ってきた。
 鹿児島出身のギタリストで、十数年来の友人Yoshiが数年ぶりに鹿児島に帰るという。
「屋久島にも渡ろうと思うけど、渡も行かんかい?」
 本人は標準語と言い張るも、誰の耳にも違うと分かる鹿児島訛りで、Yoshiが切りだした。
 行きたい場所を問えば、縄文杉か最高峰の宮之浦岳という。
 渡りに船とはこのこと。
 帰りに大分に寄れば、息子の顔も見られて一石二鳥である。
 その場の勢いでケータイから鹿児島行きの航空券を押さえた。
 
 そして、当日。
 Yoshiを古くから知る人は、その雨男ぶりに驚愕する。
 降るはずのない場所に雨を降らせるばかりか、嵐を呼び、あまつさえ台風も進路を変える。
 しかし、屋久島は作家林芙美子が「屋久島には一月に35日雨が降る」と綴った島である。
 元来晴れ男の私でも、雨が標準ベースの屋久島では心許ない。そこで、さらに強力な晴れ男助っ人、白石さんを仲間に引きずり込んだ。狛江で琴屋を営む白石さんこと、“徳さん”も、学生時代からの腐れ縁だ(年はだいぶ上だけど)。起業の際は、物心両面から助けてもらった。

 さて、そんな男三人が鹿児島に降り立つ。
 見ての通り、晴れ男の完全勝利。そのまま屋久島へ渡る。
 三人とも飲み助なので、外に出ては明日に差し障ると思ったら、宿のオヤジが酒好きだった…。
 “競艇の必勝法”から始まったオヤジの武勇伝は、銀行マンだった北陸時代を経て、屋久島での農園話に飛び、次男が国士舘を断って相撲部屋へ入門する経緯をきれいにまとめたアルバムと共に聞かされる頃には、11時を軽くまわっていた。
 翌朝。4時起きで、5時前に宿を出発。
 宮之浦岳の登り口、淀川登山口までは車で1時間10分ほどかかる。
 6時過ぎには空も白み、いよいよ出発した。
 屋久島は、宮崎駿のアニメ「もののけ姫」に出てくる森のイメージとして、参考にされた場所でもある。本州ではすでに伐採で採り尽くされたような、樹齢数百年以上の杉や樅などの大木がいたるところに生えている。
 島全体が、海底の奥深くから隆起してきた花崗岩でできており、山の上には、まるで巨人が石遊びをしたかのように、巨石がポコッと乗っかっている。
 投石平(なげしだいら)という地名は、大きな石を投げたように散乱している様子からつけられたという。「もののけ姫」にでてくるダイダラボッチを連想させる地名だ。

 宮之浦岳は奥深い。
 屋久島では古くから、それぞれの集落がそれぞれに山を拝していた。宮之浦岳とは、屋久島の玄関口である宮之浦集落が崇めていたことに由来している。しかし、宮之浦から宮之浦岳を見ることはできない。そのため奥岳とも呼ばれ、麓に近い山を前岳とし、ともに信仰の対象としていた。
 容易に姿を現さないが故に、信仰の対象となったのかも知れない。

 さて、その山に挑んだ我々はほぼコースタイム通り、5時間で山頂についた。
 山頂についても、突き抜けるような青空が広がり、眼下に雲海が広がる。
 暖められた海面から雲が湧き上がり、空と海とが織りなす紺碧のキャンバスに白のハイライトが浮かぶ。
 この瞬間のために、重さも厭わず担いできた冷え冷えのビールで乾杯。
 山頂で小一時間を過ごし、下山を開始した。
 山登りで何がきついかといえば、登りではなく、実は下りである。
 それは、さんざん長いことかけて登ってきた後に“ひざが笑う”状態となって現れる。とにかく踏ん張りが利かないし、足が上がらないので、簡単な段差につまずくようになるのだ。普段から山登りを経験していたり、歩き慣れていればスタミナやペース配分によって、ある程度カバーできる。
 しかし、これが「人生初登山」というYoshiに、山の洗礼は容赦なかった。
 
 山では歩みをすすめていれば、確実にゴールへと近づく。
 ところが、その一歩が出ない。
 一度コースタイムから遅れ始めると、それから元に戻すのはたやすいことではない。
 どうにかこうにか、花之江河(はなのえご)まで戻ってきた。
 この時、すでに4時間経過。
 目の前をヤクシカが苔をはんでいる。
 ほほえましい光景だが、パーティーの空気は重い。

 思い立った私は、ザックに忍ばせていた尺八をやおら取りだし、ヤクシカに向かって「鹿の遠音」を吹いた。
 しかし、反応は無かった。
 山中で鹿が縄張り争いをする情景を音色に込めた曲のはずである。
 
 「鹿にシカト」
 ここから登山口までの2時間、パーティーの空気が重苦しく、長かったのは言うまでもない。

PR

関連記事

no image

自転車爆走400キロ!その2 〜臼杵ナイト〜

 「ポー」  警笛が港にこだますると、2時間余りの船旅も終わり、フェリーはゆっくりと旋回しながら臼杵

記事を読む

流行る店と流行らない店を分ける、飲食店の意外な条件とは?

どういうわけか「立地はいいのに、どんなお店ができてもすぐに潰れてしまう」という場所があります。

記事を読む

no image

北海道は寒かった

 GW明けからあっという間に2週間が経とうとしている。  ゆっくりと旅の想い出を紹介したいが、どうに

記事を読む

no image

自転車爆走400キロ!その1

 今月は雑誌の校了が2つと、教則本と曲集の進行を2本抱えているのだが、そんな切羽詰まった状況にこそ、

記事を読む

no image

ミャンマー紀行〜チン州への道〜(1)

 まるで冷蔵庫にいるような効き過ぎのエアコンから徹夜明けの体を守るには、紫色の毛布では少々薄すぎた。

記事を読む

no image

ミャンマー紀行〜チン州への道〜(6最終話)

 先日、ある著名な先生と「なぜ2時間毎なのか?」という議題でお話しする機会があった。このネタは全世界

記事を読む

no image

自転車爆走400キロ!その6 〜神の国、高千穂 後編〜

 あれこれ慌ただしくしていたら、県境の頂に2人を残したまま2週間も経ってしまった。その間、本家本元の

記事を読む

no image

チンの映像を出展します

 当ブログにて連載中の「ミャンマー紀行〜チンへの道〜」を映像版にてご覧頂ける機会ができた。明日9月3

記事を読む

no image

ミャンマー紀行〜チン州への道〜(4)

 日本の登山道では大抵の場合、行き交う人々は同じ様な登山者であることが多い。しかしヴィクトリア山への

記事を読む

no image

激走!鈴鹿8時間耐久ちゃりんこ

 締切やら、ラフ制作やら、未収の取り立てやらに追われ、あっという間に11月が終わってしまった。よく「

記事を読む

PR

Comment

  1. Yoshi より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; U; Intel Mac OS X 10.5; ja-JP-mac; rv:1.9.0.3) Gecko/2008092414 Firefox/3.0.3
    抜けるような空の青が美しか〜。
    鹿にシカトされたのは笑ったけど、笑顔もそこまででした。。。でも、いい経験になりました。
    次回はまだ考えられませんが(^_^;)、もっといろんな挑戦もしてみようかなぁと思っています。
    ほんとにありがとさんでした。

  2. TOSHI より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 7.0; Windows NT 5.1; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.04506.30)
    どーして男は山登りにあこがれるんでしょ? こんなインドアな僕ですが、一時世界の山々に登頂成功。
    の想像をよくしておりました。
    ロマンでございます。
    なのに渡さんにお願いして一緒に登るなんて間違っても思わないのは。。。。やはりインドア人間でーす。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

PR

2020年1月21日(火)@赤羽/新宿二丁目ママ歴27年、涼ママの歌とトークと焼肉ホルモンde笑ってナイト、大盛況でした。

 久しぶりのイベント復帰、どんなことになるだろう……と思いつつ、フタ

2020年1月21日(火)@赤羽/新宿二丁目ママ歴27年、涼ママの歌とトークと焼肉ホルモンde笑ってナイトをプロデュースします。

 あっという間に2019年が過ぎ去り、2020年入り。 明けましてお

小林家と居倉家の対面について書かれた福島民友新聞社の記事。
小林家のファミリーヒストリー 〜信州から会津に行ったご先祖様〜

NHKに「ファミリーヒストリー」という人気番組がある。 毎回、ひ

出版不況の中、デジタルオンデマンド印刷の登場は、業界をどう変えるのか?
出版不況の中、デジタルオンデマンド印刷の普及で出版界はどう変わる?

このところ、本の雑誌社の杉江さんと「おとなの社会科見学」が続いている。

レンガ状に配置された「Project」。今回、会社のサービスを紹介する場所に使いました。
WPテーマ「Perth」の設定で困ったこと③プロジェクトが表示されない!

先日、会社のホームページをリニューアルしました。Wordpressの「

→もっと見る

  • 2024年12月
     1
    2345678
    9101112131415
    16171819202122
    23242526272829
    3031  
PAGE TOP ↑