自転車爆走400キロ!その6 〜神の国、高千穂 後編〜
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最終更新日:2012/05/25
無茶旅行
あれこれ慌ただしくしていたら、県境の頂に2人を残したまま2週間も経ってしまった。その間、本家本元の旅日記は完結してしまったらしい。すでに蛇足の感濃厚ではあるけれど、道行きを先に進めたい。
まずはこの写真を見て欲しい。
まっ暗なトンネルを抜け、宮崎は高千穂の大地に足を踏み入れた瞬間である。トンネルの出口が南向きだったため、逆光で暗くなってしまったが、「やったぜー」とか、「ついに到達!」みたいな吹き出しがぴったりくる格別の表情が見てとれることと思う。しかも天をつくような恥ずかしいガッツポーズ、奥には高千穂の山がそびえ立っておりナイスだ。
写真撮影もそこそこに路肩の神様に無事高千穂へ入れたことの感謝と感激を伝える。高野さんは年季の入った石のお地蔵さんへ奮発の100円をお供えしている。
暖かな陽射しの中でパンをかじり、先を急ぐ。時刻は1時。下りも負けず劣らずの急坂で、日陰を走ると全身が一気に冷えて死にそうになる。高野さんの旅日記でお馴染みの「高速冷凍」。私も笑って読んでいたが、当事者になると笑えない。涙と鼻水を垂らしつつ手足をバタバタさせて冷凍を防ぐ。しばらく行くと集落が見えてきたが、見た感じは竹田側とあまり変わらないような気がする。バス停の中に神様がいるのも同じだ。峠の頂上から下ることたった15分で天の岩戸神社に着いた。15キロを15分。登りは20キロに3時間近くかかったのに…。
日本史や神話の好きな人なら、天の岩戸についてよくご存じだと思う。弟、素戔嗚尊(スサノオノミコト)の横暴に怒った天照大神(アマテラスオオミカミ)が隠れ、神の住む高天原や人間界が闇に包まれたという場所である。神話が諸説あるのと同様、天の岩戸の所在も沖縄や九州、中国地方とそれぞれあるが、天の岩戸神社は場所そのものを御神体としてお祭りしている。岩戸は社屋から川を挟んだ向かい側にあり一般の参拝者は見ることが出来ない。社務所に声をかけると宮司さんが神域へと案内してくれるが、あっさり諦めた。鳥居を出て真っ先に向かったその先は参道の定食屋。信心も空腹の前には無力である。
どんぶりが空になるまで飲んだ肉うどんのつゆが、冷え切った手足の指先に熱を運ぶ。お腹も体もやっと落ち着いて自転車へ戻ると、目の前の小学校から下校する子ども達が続々と出てくる。活発そうな男の子の集団が全員で何か言いながら歩いていた。
「○○と●●はラブラブばいっ! ○○と●●はラブラブばいっ!」
子どもの冷やかしも方言で聞くとしみじみ度UPで、目のあった高野さんと笑いながら「ラブラブばいっ!」を連呼した。それまで竹田側との違いがないように感じていたのはあくまで見た目の雰囲気だけで、言葉を始めとした生活圏内は古代より熊本方面の影響を強く受けてきた。県庁所在地である宮崎市は150キロも南だが、熊本市なら80キロほど。「東京へ行くには宮崎空港ではなく熊本空港を使う」と地元の人が教えてくれた。
しばらく走るとたんぼ道に交通標識。
【気い付けて行かんとぼくばい】
「ぼくばいってなんだ?」
標識は皆に注意を促すために掲げられているはずなのに、土地の人以外は意味が分からないという迷作は、交通標識によくある。早速、このブログにも遊びに来てくれるめぐみさん(高千穂出身)に聞いてみると、「ぼく=ダメ」ということらしい。禁止系の標語は、のきなみ「〜ぼくばい」になるので、トイレなんかでも「手を洗わないとぼくばい」とか「汚したらぼくばい」とか、あちこちぼくばいだらけ。地元じゃあまりにポピュラーすぎて、「だめです」なんて書く方がよっぽど野暮ったいのだろう。
高千穂に到着すると、真っ先に高千穂神社へお参りして今日の神頼み終了、とおもったら宿のそばに良い雰囲気の神様スポットを発見した。恵比寿さんと大黒さんの横によく分からない土地神様も並んでいて、「さあさあ、わしらと一緒に」みたいな懐の深さが感じられる。流石は神の国高千穂。軒先には一年中注連飾り(しめかざり)が掛けられ、銀行や商店の入口にも立派な注連縄が飾ってあった。
本当は今日のうちに延岡あたりまで出ておきたかったが、尾平越えですっかり体力を奪われた2人には気力も元気も残っておらず、宿が決まると復活をかけ温泉へ行くことにした。高千穂温泉が定休日だったので、来た道を戻り天岩戸温泉に入る。アルカリ性のお湯に疲れた体を浸し、サウナと水風呂の繰り返しで全身の毛穴をオープン&クローズ!ぬるぬるとした湯ざわりが如何にも疲れに効きそうな気がして、体の芯までお湯が染み渡るよう長風呂をした。
さあ、風呂から出たら、やることは一つしかない。
ビールだ!
高野さんが「高千穂のおすすめ」なるチラシを握りしめている。宿のカウンターでもらい、すでにあらかた決めているらしい。
「今日は何食いましょうかねぇ」
「焼き肉!」
二人の声が見事なユニゾンで決まった。
偶然入ったその店は、地元の人なら大抵知っている超有名店だった。旨味たっぷりの高千穂牛にビールでは飽きたらず、調子に乗って焼酎のお湯割りもガブガブ飲む。焼酎はもちろんご当地銘柄「天孫光臨」。旅に相応しい酒である。アルコールが体中に行き渡り、(1)宮崎まではまだ150キロはあること。(2)明後日の午後には東京で取材があること。そして(3)明後日の9時半には宮崎空港についていなくてはいけないこと。等々、現実問題が山積みであったが、とりあえず明日考えることにし、お湯割りをおかわりした。
(つづく)
高千穂牛を食べるならここ!
焼肉 初栄(はつえい)
お肉屋さん直営の、地元でも有名な焼肉店。なんと作家:内田康夫が気に入り「高千穂伝説殺人事件」のドラマ収録時はここで打ちあげをやった程。甘い九州醤油でからしを溶いたからし醤油で食べる初栄ステーキは絶品。
焼肉 初栄
宮崎県西臼杵郡高千穂町大字三田井10
TEL:0982-72-3965
高野さんの自転車爆走日本南下旅日記「神に頼って走れ!」
集英社文庫のウェブサイトにて。こちらをどうぞ。
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わー懐かしい!写真が全部懐かしい!!!
初栄の焼肉は超ごちそうで、私も小さいときに2回しか行ったことないです。
私のこと紹介してくれてありがとうございます♡
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おー、めぐみさん〜。
高千穂情報ありがとう。
初栄はほんと偶々というか、
宿の数軒となりだったんだよね。
6時頃入ったのに、7時には満席でした!!
もう一度食べたいです。
高千穂、山が深くて、本当良いところでした。
続きもよろしく〜。
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え〜〜〜〜〜
宮崎にいっちょっったと〜〜〜?!?!
なんで言わんとやぁあ〜〜w
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おお、なっすじーんさん、ご訪問ありがとうございます。
そうです、宮崎にいっちょったとです〜。
次はいよいよ市内へ行きます!