自転車爆走400キロ!その7 〜ついに完結、宮崎へ〜
公開日:
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最終更新日:2012/05/25
無茶旅行
ケータイの目覚ましが鳴る3分前に目が覚めた。外はまだほの暗い。九州は日が長い分だけ朝寝坊だ。
7時、高千穂を出発。あたりに停めてある車は窓ガラスが霜で覆われ、吐く息が白い。
高千穂駅を過ぎ国道218号線を右折、一路東に向かって爆走。でこぼこした山が霧に煙り、切り立った崖の下を龍が這うように川がくねくねと流れている。川を跨ぐたび川面から100メートルはありそうな高架橋を越え、視線を下に落とすと吸い込まれそうになる。
標識が見えた。
延岡45km
宮崎150km
二人とも固まる。
延岡まで行ってもまだ100キロ近くある。
「延岡までは下りのはず。時速20キロで10時には着くよ」
信号が青に変わり高野さんがロケットダッシュでぶっ飛ばす。
私も続く。
が、ほどなくキタ2号がパンクした。
後ろのタイヤにぶっといクギが刺さっていた。
昨日は1000メートルの山、今日はクギ。
1号ゆずりの温厚なキタ2号も、さすがにキレた(と思う)。
タイヤをハズし、チューブを入れ替えやっとのことでタイヤをはめたが、どうもおかしい。
再び開腹手術のキタ2号。
見れば替えたばかりのチューブに穴が空いていた・・・。
二度にわたる大手術(一回目は医療ミスの疑いアリ)を終え、新米医師らが喜びで固く手を握りあう。
時計は10時を2分回っていた。
出発して1時間ほどで食らった大ブレーキは精神面にも効果てきめんで、宮崎が一段と遠のいてしまう。
朝から一度も神頼みをしていない高野さんがぼやく。
「先を急ごうなんて、バチが当たったかな」
弱気がスピードにも表れて、延岡に着いたのは午後の2時。宮崎はここから100キロも先である。
だが、転機は突如訪れた。
さびれた駅前を通り過ぎ、郊外にあるジャスコへ向かう。宮崎県の地図(なぜここで買うのかはコチラ)と、高野さんが高千穂で忘れてきた耳当てを買うためだった。閑散とした駅前商店街とジャスコの賑わいぶりの落差には相当びっくりしたが、何はともあれ出発と、自転車にまたがったまさに“その時”、1本の電話で歴史が動いた。
さっきまでふにゃふにゃしていた高野さんの顔が、ふにゃ→苦笑い→ふつう→しゃきっ→とまどい→苦悩へと変化していく。
「おいワタル、4日後、ユカ様、ダル様(*1)が鹿児島入りする。それまでに鹿児島まで(*2)辿り着いて、原稿を2本書き上げて(*3)、お迎えの下準備をして・・・うー、こうしてはおれん。おれは今日中に、何が何でも宮崎に行く!!」
*1ダル様は御歳1Xのミニチュアダックス。高野家勢力ランクではユカ様に続くNo.2。ちなみに高野さんは最下位のNo.3。
*2延岡から宮崎を経由して鹿児島に至るには300キロ近くあり。
*3旅に出る条件が「仕事はちゃんとすること」であり、さらに集英社文庫HPの原稿を落としたり、旅を途中で断念した場合は家に入れさせないという約束であった。
こうして我々は、猛烈な勢いで一路宮崎へと爆走、100キロを5時間で駆け抜けて、8時に宮崎駅に到着した。
キャリア・荷物満載、ペダルはノーマル、しかもマウンテンバイクのキタ2号に、SPDペダルのついているロードレーサーのワタル2号が引き離される場面も度々あっただけに、ユカ様とダル様の威光は神様級、いや、神様をかるく超えている。
無事宿も決まり、地鶏料理屋で互いの頑張りを生ビールで称え合った。「安堵」という二文字が高野さんの顔に書いてある。私は私で明日、空港まで5キロ走るだけだ。
うまい地鶏と宮崎料理に促されて、焼酎が進む。
時はすばやく日付変更線をこえ、二人はしたたかに酔っぱらった。
翌朝、土砂降りの中、二日酔いでびしょ濡れになりながらペダルを漕ぎ、しかも出発10分前に到着することなど夢にも思わずに。
あわてて自転車をバラし、ロビーへ駆け入ると大きなアナウンスが聞こえた。
「ANA●●●便、9:45分東京行きは、遅延のため11時出発予定に変更いたします」
最後の最後で、神頼みのおこぼれが私にも落ちてきたのだった。(了)
▲著者極秘来店(偵察?) 明林堂書店日向店さんへ
高野さんの自転車爆走日本南下旅日記「神に頼って走れ!」
集英社文庫のウェブサイトにて。こちらをどうぞ。
▲自分のコーナーを見つけ、喜びを隠せない本人
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