自転車爆走400キロ!その5 〜神の国、高千穂 前編〜
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最終更新日:2012/05/25
無茶旅行
九州の山は深い。
長野県生まれの私だが、目の前に広がる景色を見てそう思う。盆地の東西に南アルプスと中央アルプスが横たわり、何処を見渡しても山が見える景色は子ども心に窮屈で仕方なかったが、実は結構落ち着くものだということは、大学進学のため東京に出てきて初めて気がついたことだ。九州は福岡から鹿児島に向かって南北に九州山地が走っており、最高峰は1791mの中岳(大分県)。今日は、その九州山地で三番目に高い、祖母山(そぼさん)1756mの脇を自転車で越えていく。
ラク度で言ったら絶対に海辺の道を走るべきだが、大分からそのまま宮崎に下ってしまっては芸がない。しかも、同行旅とはいえ「神に頼って走る!」という名目がある。大分から鹿児島へ至るにはいろんなルートが考えられるが、地図をめくれば各地の神様が手招きしており、天岩戸、高千穂とビッグな神社が二つも待っていては寄らないわけにはいかない。
竹田から高千穂へ入るには、絶対に九州山地の尾根を越えねばならない。地図を見ると、地元の人が使う道路は20キロ近く遠回りだということが分かった。最短ルートで高千穂をつなぐ道には、良い具合に天岩戸神社もある。「これで行こう!」と決め、話を聞くと、宿の人も、昨日の店のオヤジも口をそろえて「あれは大変だから、絶対辞めた方が良い」の一点張り。よほどすごい道なのかも知れないが、20キロ余計に走るのはもっとイヤなので、ありがたいご進言はそのまま聞き流すことにする。道中はコンビニどころか店も食堂もないだろうと、宿のそばのヤマザキショップでパンと水を調達し、出発した。
今回の旅で大活躍した文明の利器が一つある。北海道の歩き旅でもフル活用しているEZナビ、ケータイのナビゲーションだ。目的地の検索はもちろんだが、周囲数キロ圏内の駅や食堂、温泉などの有無を検索したり、次の休憩地点の詳細な地図(50m解像度)を見る事も出来る。歩くスピードでのナビを想定しているので、チャリで快走していると表示が追いつかない場合もあるが、田舎でよくありがちな、方向案内の地名がローカルすぎて地図にも載っていないような時には心強い。特に都市部から遠く離れ「この辺でコンビニにあったらいいのに」なんて時に「2.5キロ先ローソン●●店」とか出てくるとおもわずケータイを拝みたくなる。
自転車を漕ぎ始めるとすぐに綺麗な街並みに出くわした。走り出してものの3分しか経っていないが、あまりに渋いので二人して竹田の武家屋敷群にふらふら立ち寄ってしまう。桃の節句だろうか、各家の軒先に竹の中に和紙でつくったお雛様がちょこんと収まっている。通りを少し走ると赤い鳥居が見えてきた。出発すぐにお稲荷さんとは縁起が良い。早速旅の安全と、会社の繁栄を祈る。すると谷の反対側にキリシタン洞窟礼拝堂が見える。臼杵の夜、嫁のいとこのユカから
「ああ、あそこはたいしたことねえけん、見らんでいいわあ」
と言われていたところだ。
「史跡だったら行かなくてもいいや」
と高野さんが酔っぱらいながらいっていたのを思い出す。さすがは神様、罰当たりな二人組をさりげなくかつ強引に呼びつける。礼拝堂の前にある縁起を読んだり、写真を撮っていたら、辺りを囲むように群生している竹林に風が吹き付け、互いにぶつかり合うからだろうか、ガサガサ、ガンガンとすごい音がする。ちょっと不気味なので、すみませんでした。と何に対してか分からないけれど、とりあえず謝ってその場を離れる。
ケータイナビに途中の集落を打ち込んで、案内されるままに田舎道を快走する。地名通り、竹と田んぼが視界に広がり、勢いよく後ろへとすぎていく。通りすぎる車も軽トラや郵便局のバイク、クロネコヤマトぐらいで、二車線の自転車専用道路みたいな非常に贅沢な使い方をして竹田路を西へと向かう。小さな峠を9時過ぎに越え、徳田の集落に降りてくると、標識に尾平・高千穂の文字が見えた。ここから高千穂へは県道7号線を尾平峠のてっぺん、尾平越(標高980m)に向かってひたすら登り坂だ。市街地の標高が300mくらいだから、その標高差700m。東京、高尾山の標高が599m、天下の険と歌われる箱根でも国道1号の最高標高地点は874mだから、それより上を両足の力だけで登っていくことの大変さは分かって頂けると思う。もっとも、箱根の最高地点より高いことは後から分かったことなので、もともと知っていたら安易な二人はあっさり高千穂行きを辞めていたに違いない。
バス停を一つ越える毎に、集落が寂しくなっていく。所々とんでもない下り坂で谷底まで一気に下り、同じようにとんでもない上り坂がドーンと行く手を阻む。こうやって尾根から尾根へと移りながら、確実に山の奥深くへと進んでいくのだが、人力エネルギーでやっている身としては、下り坂が実に恨めしい。一瞬の天国の後に、過酷な地獄が待っているからだ。後ろにキャリアを積んでいる高野さんのキタ2号が前輪を浮き上がらせ喘いでいる。いつからか急坂を見かけると、二人とも「ま、まぼろしが・・・」と互いにぼやく(知らせる)ルールが出来たのもこの辺りのことだ。
尾平は江戸時代から鉱山で知られ、スズや銀、銅などを産出、昭和になると三菱の財閥パワーで、辺り一帯に人が溢れ最盛期は2000人を超える鉱山関係者が家族連れで居住していた。集落にはスーパー、料亭、映画館、ダンスホールにテニスコート、クラブハウスまであり、映画は大分市より先に尾平で封切られたほど。いつしか「大分の文化は尾平から」と言われるまでになり、流行に明るい尾平の女性が道を歩くと、地元の女性は恥ずかしくて外に出づらかったという逸話まで残っているくらいだ。もちろん今はその面影もなく、東京から来た我々が地元の人を見かけないのは、恥ずかしがっているわけでも何でもなく、ただ人が住んでいないからである。
急坂が一段落すると、最後の最後で尾根を舐めるように走るなだらかな道に変わった。今までの急坂が大リーグ養成ギブスとなり、坂が平地の様に感じられる。
「これはラクだ!!」
二人のペダルが軽くなる。ところが、斜度が甘くなるという事は、その分登るのに距離がかかるということだ。また、登ったり下ったりという交互の運動が足のリフレッシュに貢献しているということも身にしみてくる。いくらなだらかな坂でも、一度も下ることなく何キロも延々と続くとつらい。二人ともさっきから弱音を吐きっぱなしだが、なぜか「休む」という言葉だけが出てこない。お互いその気配は十分に感じているのだが、“それを言った方が負け”というつまらない意地の張り合いが僻地で繰り広げられる。
ワ「やー、まじきついっすよ」(高野さん、いい加減休むっていわねーかな)
高「ワタル2号のギア、もう一番軽いじゃん」(だから休むっていえよ)
ワ「うわ、向こうの尾根に道見えますよ」(ここでひと休みにしてください)
高「頂上までまだもう一息かな」(先輩たてろよ!)
みみっちい戦いである。小競り合いが長引きそうなので、二人ともそれとなく道ばたをキョロキョロし始める。馬頭観音でもお地蔵様でもいい、神頼みのために止まるという姑息な手段だ。もちろん、そんなことは神様もすっかりお見通しなのだろう、石碑の類もまるでない。ただあるのは、九州山地の深い山々のみ。もういい加減足がパンパンで限界!という地点で、目の前に突如トンネルが出現した。つまらない意地の張り合いのおかげで、へたれチャリダー二人はとうとう1000mの高地に立ったのである。
(つづく)
高野さんの自転車爆走日本南下旅日記「神に頼って走れ!」
集英社文庫のウェブサイトにて連載中。こちらをどうぞ。
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高千穂編って・・・・
もしやこのときはまだ高千穂行き着いてなかったんじゃぁ。。。w
続きが気になる!!!
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何度もすみません。
今高野さんのHP見て、高千穂のところ読んでたんだけど、
「ぼけばい(だめです)」
って書いてあったんだけど、正しくは「ぼくばい」です。
ぼけばいって、「あなたはぼけです」って言っちょるようなもんばい…
何はともあれ、お疲れ様です。ひんだれたごつあるの〜!
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めぐみさん>
たしかに・・・トンネル抜けないと高千穂じゃないですね(笑)。
「ぼくばい」情報ありがとう!
標識に「●●したらぼくばい」って書いてあって、一体何のことだかわからず、
「意味が伝わらないんじゃ、標識の意味がないのでは・・・」
と思ったとですよ・・・。