*

高野本、韓国進出第2弾

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

『ワセダ三畳青春記』が韓国で出版されて二週間ほど経つ。
「河童団」はどう訳されているのかという疑問は解決しないまま、今度は読者の方から
「しいたけに気をつけろ」はどう訳されているのか?という新たな疑問を寄せられた。
 私も以前、翻訳をやっていたからよくわかるのだが、ダジャレや言葉遊びはいちばん訳すのがむずかしい。説明すると、白けてしまうし。
 さて、そんな疑問を抱えたまま、今度は『幻獣ムベンベを追え』の韓国出版が
進んでいることが明らかになった。
 版元は別である。韓国では高野本ブームが起きているのだろうか。まだ日本でも起きてないのに。
 こちらは舞台はコンゴだから基本的に日本のことはわからなくてもいい。
 訳には苦労が少ないかもしれない。
 が、それよりも、「日本の大学生が昔アフリカに謎の怪獣を探しに行った」なんて話に
興味をもつんだろうか。
 近々、韓国へ行って、様子を探ってみたい。
      ☆         ☆          ☆
 「新グレートジャーニー」で朝鮮海峡(対馬海峡)を横断してきたばかりの関野吉晴さんと
都内某所の秘密スポットでおちあい、
その後なぜか渋谷駅前の餃子の「王将」で長々と話し込む。
関野さんは喋り方が訥々としているから話下手とか無口と思われているが、
実はかなり話好きで、内容もすごくおもしろい。
関野さんは現在、蔵野美術大学の教授(文化人類学)だが、
学生に「携帯電話」は何からできているか、その材料はどこから来ているのか調べろというテーマを出したことがあるという。
携帯を分解するところから始め、部品が600以上あることを確認、そのいくつかを徹底的にたどる。
例えば、ある部品の原材料を追及していったら、コンゴ民主共和国(旧ザイール)でしか産出しない金属で、それが長年続くコンゴ内戦の要因の一つとなっていて、アメリカが利権確保でずっと戦争に関わっていることまでわかったという。
別にジャーナリストやノンフィクション作家の仕事ではない。
ただの美大の学生たちが授業の課題で調べただけだ。
なのに、そんなに面白くなる。
さすが関野先生の授業というしかない。
まったく、どうしてそういう発想がノンフィクション界に生まれないのだろうか。
猛省すべきだ。
だいたい、こういうものこそエンタメノンフのかっこうの題材だし、辺境を身近にするという私のテーマではないか。
猛省すべきは私なのだった。

関連記事

no image

家宝、誕生

新刊「ミャンマーの柳生一族」のおどろおどろしい表紙に笑った人も多いだろう。 「昔の東映時代劇みたい」

記事を読む

no image

2007年に読んだ本ベスト10(ノンフィクション部門)

明けましておめでとうございます。 遅ればせながら2007年に読んだ本ベストテン(ノンフィクション部門

記事を読む

no image

今日から「預言」はやめる

 高島俊男先生の『お言葉ですが… 第11巻』を読んでいて、驚いた。  「預言が『神の言葉を預かる』と

記事を読む

no image

宣教師ニコライのファンになる

今、「移民の宴」で在日ロシア人取材をやっているので、その資料として中村健之介『宣教師ニコライと明治

記事を読む

no image

帰国&新刊「アスクル」

さっき帰国した。 これで年内は長期で出かけることはなく、おとなしくしていることと思う。 年明けには一

記事を読む

no image

スイスのFWはコンゴ人

昨日、本の雑誌の杉江さんとスーダンのアブディンと打ち合わせをし、 寿司好きのアブが、寿司アレルギーの

記事を読む

no image

「王様のブランチ」撮影

『世にも奇妙なマラソン大会』(本の雑誌社)がTBSの「王様のブランチ」にとりあげられることになり、今

記事を読む

no image

『悪童日記』に学ぶ小説技法

ただいま3:45AM。 目がかゆくて鼻が詰まって目が醒め、眠れなくなってしまった。 言わずと知れ

記事を読む

no image

オモロイ坊主

土曜日、「オモロイ坊主」こと藤川和尚を囲む会の新年会に参加させていただく。 藤川和尚はかつてタイで

記事を読む

no image

突然、魂の叫び

どこか遠くへ行きたい−−。 これは平凡な日常に飽きた人間がよく思い浮かべることだろう。 私もよくそう

記事を読む

Comment

  1. プラム より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; U; Intel Mac OS X; ja-jp) AppleWebKit/418 (KHTML, like Gecko) Safari/417.9.2
    初めまして。
    夏の終わりに何を読もうかと書店で考えていたところ、
    集英社の夏イチのストラップが気に入り、集英社文庫を物色。
    タイトルが目に止まり
    「ワセダ三畳青春期」を読んでから大ファンです!!!
    一緒に購入した新潮文庫の「檸檬」と共に
    独自に広がる素敵な世界観にノックアウトでした。
    「幻獣ムブンベを追え」も痛快で壮大!
    もう一冊読んでファンレターを書きます。
    普段は書かないのですが集英社の方に感激を届けたいと思いました。
    あちらへ送ったものは高野さんは読まれますか?
    このブログのおかげで野々村荘のおばちゃんが
    元気なことを知れてとても嬉しかったです。
    インターネット万歳!
    私は油絵学科出身で、関野先生の授業を受講していましたよー!
    多岐に渡る様々なへんてこ課題がよく出ていました。
    これからも笑い転げて元気の出るパンチ文学を
    楽しみにしています。
    長井さんのご冥福を心よりお祈り致します。

  2. プラム より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; U; Intel Mac OS X; ja-jp) AppleWebKit/418 (KHTML, like Gecko) Safari/417.9.2
    「ワセダ三畳記」ですよね、、大変失礼しました。

  3. AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 1.1.4322)
    コンゴでとれる貴金属はコバルトのことですよね。
    コンゴに限らず、希少金属はアフリカ諸国や中国に偏在していて、今その争奪戦が起こっています。そのことを詳しく書いた「レアメタル・パニック」というビジネス書は、かなり良くできた本です。
    エンタメではありませんが、「レアメタル・パニック」著者の中村氏の生き方が山師そのもので、エンタメじゃないけどエンタメの要素もあるという、なかなか面白い本です。
    と、勝手に紹介。

  4. shima より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 7.0; Windows NT 6.0; SLCC1; .NET CLR 2.0.50727; Media Center PC 5.0; .NET CLR 3.0.04506)
    レアメタルの争奪戦で日本はかなり後れをとってるそうですね。ものつくりの国としては、これってかなり深刻な問題ですよね。

  5. garfield より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1)
    韓国で<ワセダ三畳青春期>を読んだ読者です。
    (韓国ではワセダ1.5坪青春期ですが…)
    本当に楽しく読めたのでいろいろ検索してみたら、
    ここに来る事になりました。
    河童団のことですが、韓国版ではカバ団になっています。
    やはり河童は日本の想像上の生き物なので
    そのまま訳することは難しかったのかもしれません。
    (でもカバになるよりは良かったんだろうと私は思います。)
    「しいたけに気をつけろ」はどの部分なのか分からないので
    どう訳されているかここで書けないので、残念です。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年11月
    « 3月    
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    252627282930  
PAGE TOP ↑