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趣味がほしい

公開日: : 高野秀行の【非】日常模様

毎年のように新年になると「趣味がほしい」と思う。

そう切実に願う理由は二つある。
昔、私の趣味はプロレスだった。
プロレスを見て、それについてあれこれ考え、
また同じプロレスファンと語り合うのを無上の喜びとしていた。

残念ながら総合格闘技の登場と、昭和のプロレスラーが表舞台から去ることで
プロレスへの情熱はどんどん薄れ、いまや絶滅してしまった。

あのときの興奮や楽しさをもう一度味わいたいという気持ちがある。

もう一つは、私はとにかく国内・海外を問わず、世界中のいろんな場所に行く。
もし何かを収集する趣味でもあれば、さぞかし面白いことができるんじゃないか、
あるいはその趣味のために旅行するのも楽しそうだなどと考えてしまう。

今年こそは…と考えつつ、ようやく少し時間ができてきたので、
今さらながら部屋の大掃除をしていたら、切手がたくさん出てきた。
1円とか2円とか15円とかいう妙な金額の、でも普通の日本の切手だ。

「なんだ、こりゃ?」と首をかしげていたが、やがて思い出した。
数年前の新年に「今年こそ趣味がほしい」と思い、いろいろ考えた結果、「そうだ、切手収集なんかいいんじゃないか」と
いうことになったのだ。
切手はアフリカの小国でもどこでも発行されているわけだし、私にうってつけじゃないか、と。

急いで郵便局に行って、ふつうの切手を片っ端から買い求めたのだ。

そして…

切手についてはそれっきり忘れてしまっていた!

大掃除で、切手に続いて発見したのはこれまた妙な形のアルバム。
これはすぐにわかった。
お札を入れるアルバムなのだ。

こちらは去年の正月に「今年から世界の通貨を集めよう!」と決意してアマゾンに注文したものの、
札を一枚も入れることなく放置していた。

通貨も世界中にあるし、絵柄にその国独特の文化や雰囲気が現れるから面白いだろうと考えたのだが、
切手同様、こちらにも致命的な欠陥があった。

とにかく、私はモノに執着がない。
モノは少なければ少ないほどいいと思っている人間が、モノを集めようとすることに無理がある。

…そんなことを言うと、きっとまたS氏が「浦和レッズのサポーターになりましょう!」と誘ってくるにちがいない。
でも、彼を見ていると、レッズ・サポというのは自然農法やそば打ち職人みたいに、ほとんど「生き方」に近く、
趣味とはとても言えない。

宮田部長の「石集め」にいたっては難解すぎて私にはついていけない。
もっとシンプルなものがいいのだ。他にも普通にやっている人がたくさんいて、そういう人たちと楽しく語り合えるような趣味がいい。
春風亭昇太師匠の「城めぐり」はおそらく私にとって理想的な趣味だが、あくまで国内の趣味であること、それに私のまわりには
誰も城めぐりをしている人がいないのが難点だ。

何かよい趣味があれば、ご提案ください。

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Comment

  1. Satay より:

    読書では駄目なのでしょうか?もう仕事の一部になってしまっているのでしょうか?

  2. 匿名 より:

    釣りはどうでしょう。高野さんは仕事のネタにしてしまいそうですが。

  3. 匿名 より:

    まずは趣味として浦和レッズファンから。
    いかがでしょう?

  4. 高野 秀行 より:

    読書はたしかに最大の趣味にしてザ・仕事。
    外に出歩く趣味がほしいのですが、それを考えればたしかに「釣り」はいい線を行っている。
    でも、どういうわけか、今まで釣りを面白いと思ったことはないんです。
    釣れたことがないせいかもしれないな。

    レッズはダメだって言ってるでしょうが!!
    私の文章を全然読んでないのか、レッズの応援をはじめると
    脳内でネガティヴ情報の遮断が行われるのか…

  5. コーヒー微糖好き より:

    高野さん
    いつもブログ・著作楽しく拝読しています。

    あまり物の執着がなのであれば、「本屋巡り」というのはどうでしょうか?
    電子書籍の登場で多くが無くなると言われていますが、地方や海外を巡ってみればいい味を出している本屋さんがあるかもしれません。

  6. GO より:

    世界のお酒でも集めてみられては?飽きたら飲んじゃえばいいのです、飽きる前に飲んでしまったら、また買い足せばいいのです(笑)

  7. 豆アジ より:

    初めまして。断然、釣果全般を食べられる海釣りをオススメします。釣果で飲むとタマランですよ。魚釣りに行っているのか、肴釣りにいっているのか、高野先生が釣りにハマればその境界について1冊書けると思います。釣れないのは時期と場所が悪いからかと。釣りの95%は釣れるときに釣れる場所に行くこと。あとの5%がウデと運と思います。……UMAも一緒ではないでしょーか。

  8. 匿名 より:

    散歩はどうでしょうか。私も以前から趣味がほしいなと思っていましたが、散歩なら何も準備しなくていいのでラクです。近場とかちょっといったところで。疲れたら電車とかで帰ればいいし。旅行自体も海外の散歩みたいなものですから。

  9. sayo より:

    怪しげな笛を世界各地で吹くのはどうですか?

  10. 義理の弟 より:

    腕立て伏せや懸垂はどうですか?ロシアや東ヨーロッパの青少年がかなり強いです。

  11. t2y より:

    先生いつも拝見しております。
    釣りは楽しいですよ。私は釣りが大好きなのでオススメします。

    何か動物モチーフの物を集めつとか。犬とか蛙とか。
    何処に行っても動物の形をした物はありますから。
    あとはカメラとか如何でしょうか。

  12. タツ より:

    波乗りでしょう!海上がりは水泳後の心地よい疲れ×10は補償しますよ!

  13. おに より:

    趣味って作るものじゃなくて、何だかわからんけども夢中になってしまうものだと思っていました。そう思って十数年、いまだに無趣味・・。
    みんながやってて簡単で、実益を兼ねた料理はどうでしょう。

  14. サラミ より:

    お酒をよく飲み歩くのですから、グルメ日記などいかがですか?高野さんが行っているお店を知りたいです!あとは、お料理とか!

  15. いつも読んでます より:

    私がオススメしたいのは、卓球です。
    【理由】
    ①家(部屋)で練習できる。主に素振りですが。
    ②無料、ないし格安で使える公共施設がたくさんある(しかも比較的空いている)。
    ③道具が楽しい。いろんな種類のラバーがあったり。
    ④いろんなサーブとか開発できそう。
    もし卓球部を結成したら是非参加したいです。

  16. Silent spice より:

    海外への取材時での現地料理のレシピ収集及び研究など如何でしょうか?
    私観での趣味なのですが
    トマト、唐辛子、ジャガイモの三種の作物は南米産なのにも関わらず
    今現在、世界各国の料理に広く深く浸透していると思うのです。
    中央アジアでのトマト、鎖国状態が永かったブータンの更に
    僻地にまで浸透している唐辛子、ネパールでのジャガイモ栽培
    アフリカでもトマトを食べる地域と余り食べない地域。など
    其々の作物の拡散経緯を政治、宗教の変遷を絡めてみると中々に興味深いと
    思うのです。と云いますか、其処に高野先生の着想、妄想が加わった。そんな本が読みたいですw しかも主夫としての料理スキル向上のオマケ付き。
    如何でしょうか?

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    • 単行本の原稿が終わったら急に本が読めるようになった。まだエピローグ書いてないから気を許す段階じゃないんだけど。でも久しぶりに読書の喜びを味わっている。 ReplyRetweetFavorite
    • 今まで野村監督に特に興味がなかったんですが、加藤さんの本を読んで、すごく好きになりました。人間味にあふれた策士というところ、でも言うことは決して奇をてらわないとか。あと、やっぱりサッチー、スゴい(笑) https://t.co/FrRQVs2IX8 ReplyRetweetFavorite
    • あ、そうだったんですね。名監督の知られざる一面を描いているし、著者ご本人の青春記風でもあり、『嫌われた監督』を彷彿させました。落合夫人とサッチー夫人もよく似てるし(笑)いや、面白かったです。 https://t.co/66kmDl74FN ReplyRetweetFavorite
    • 先月から自分の単行本原稿が佳境に入り、読書が全くできなくなっていた。他人の文章が頭に入らない。なんだけど、今日一息ついたあとで、なぜか加藤弘士著『砂まみれの名将 野村克也の1140日』(新潮社)を一気読みしてしまった。あまりにも自分の仕事と関係がなかったのがよかったのかも。 ReplyRetweetFavorite
    • 単行本を一冊書くのはエベレスト登山にも似ている。頂上に近づけば近づくほど一歩進むのが辛くなる。でもようやく『イラク水滸伝』本文の最終稿を書き終えた。あとはエピローグと参考文献、写真のセレクト、地図の作成、ゲラ校正、専門家への確認……頂上までまだけっこうあるな…。 ReplyRetweetFavorite
    • 文庫1位が久生十蘭!そそられる!! https://t.co/OWK4Bvakwo ReplyRetweetFavorite
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